101話

 翌日、俺達は王都での最後の依頼を受ける為、ギルドへとやってきていた。


「うーん……グランマキナまでの護衛とかは、やっぱり無いか」


 自分達が受けれる依頼掲示板に目を通すが、流石にそう都合よくはいかないようだ。

 ちなみに、俺達のランクはシルバーだ。

 魔法学園の生徒は、学園生活中の成績も考慮されるので、比較的早い段階でシルバーになれたのだ。

 まあ、シルバーまでは、腕の立つ人間なら比較的容易になることができる。

 そっからが、これまた長いのだ。


「やっぱり、ほとんどが魔物退治ばっかだねぇ」


 アルディがフヨフヨ浮きながら、依頼を眺めつつ口を開く。

 冒険者ランクはアイアン・ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ・ミスリルに学生用ランクの7つがあり、俺達は中堅どころと言える。

 中堅ともなると、やはり魔物退治系がメインになってくるのだ。

 倒しても倒しても、魔物は湧くので基本、そっち系の依頼は無くならない。


「フラムの方は、なんか良いの見つけた?」


「こっちも、特にピンと来るようなのはありませんわねぇ……」


 フラムも、目ぼしいのが見つからないからか、渋い顔をしながら答える。


「うーん……ん?」


 張り出されている依頼を眺めていると、俺は1つの依頼に目が止まる。

 その依頼の内容は、泥棒から守ってくれという警備系の依頼だった。

 依頼内容自体は、なんら珍しくは無い。

 だが、特記事項が珍しかった。


「土属性優遇……?」

 

 依頼主は、どこかの貴族だ。

 土属性を見下す傾向が非常に強い貴族が、わざわざ土属性優遇と書くのは、どういう事だろうか?


「何か気になるのでも、見つけたんですの?」


「ああ、これなんだけどさ」


 俺は、見つけた依頼書をフラムに見せる。


「土属性優遇、ですの? って、ああ、おそらくアレですわね」


 依頼書を眺めて、眉をひそめていたフラムが合点がいったような顔をする。


「アレ?」


「知りません? 最近、王都を騒がせている窃盗団」


「知らないなぁ。アルディは知ってる?」


「私も知らなーい」


 俺の問いに、アルディはフルフルと首を横に振る。


「全く……お2人共、少しは世情に詳しくなったらどうですの?」


「そこはほら……フラム担当という事で」


「そーそー、難しい事はフラムに任せたよ!」


 俺とアルディが、そんな事を言うとフラムは眉間を抑える。


「……まあ、今に始まった事ではないですし深くは突っ込みませんわ」


 お手数おかけします。


「話が逸れてしまいましたが……ここ最近、3人組の窃盗団が王都を騒がせているんですの」


 ふむ、3人組とは俺達みたいだな。


「本人たちは、自らを怪盗と名乗ってるらしいですわ。わざわざ、目的の家に予告状なる物を送り付けて、尚且つ盗みを成功させていますの」


 確かに、それだけ聞くと怪盗と言っても不思議ではないな。


「というのも、そのリーダーが土属性の使い手なんですわ。ですから、いくら厳重な警備でも、落とし穴を掘られたり、壁から伸びた手に掴まれたりして散々らしいですわ」


 まあ、確かに室内で戦うなら土属性が一番有利だろうな。

 炎や氷は威力が高いが、資産を守らなきゃいけない以上派手な魔法が使えないから、土属性に比べると後手に回りがちだ。

 それは良いとして、土魔法を悪事に使うなんて不届きな輩も居たものだ。


「それで、その窃盗団の名前は?」


 同じ土魔法使いとして、そいつを放って置くわけにも行かない。


「確か……解凍マグロ団でしたわね」


「フラム……冗談は良いからさ」


「まあ! 私は、そんな冗談は言いませんわ」


 俺の言葉に、フラムは心外とばかりに怒りを露わにする。

 フラムの様子からして、嘘を言っているようにも見えない。

 という事は、まじで解凍マグロ団なのか……。

 …………うん、超だせぇ。

 怪盗と聞いて、もっとスタイリッシュな名前を期待していたのに、まさかのギャグ枠である。

 先程の俺の憤慨を返してほしい。


「名前こそふざけていますが、実力は確かですわ。実際、結構な被害が出ているにも関わらず、彼らの素性すら分かっていませんもの」


「そうなのか……よし、この依頼受けよう」


 名前こそふざけているが、土魔法を悪用されているのは事実だ。

 ただでさえ、土属性は良く思われていないのに、こんなつまらない事で更に貶めるわけにも行かない。

 それに、依頼自体も結構報酬が良い。

 撃退するだけで報酬が貰え、捕まえれば更に上乗せだ。


「アルバ様がそう言うのでしたら、私に異存はありませんわ」


「私もおっけーだよ! 悪い土魔法使いは、正義の土魔法使いが倒すんだから」


 フラムは快く承諾し、アルディもやる気満々にシャドウボクシングをしながら答える。

 2人の了承が得られたので、カウンターで依頼を受けると依頼主のところへと向かう事にした。



「それで、依頼主はどんな方ですの?」


 依頼主の家へと向かう途中、フラムが口を開く。


「えーと……フロッガーさんって人だね。中級貴族か」


 とはいえ、俺は実は貴族情報はあまり詳しくない。

 なので、そこら辺は情報担当のフラムの出番である。


「フロッガー様……ですか」


「知ってるの?」


「ええ……何度か、お父様と取引をしていたんですが……あまり良い噂は聞かない方ですわ」


 フラムは、歯切れが悪そうに答える。

 むしろ、良い噂を聞く貴族の方がマイノリティな気がする。完全な俺の偏見だが。


「まあ、依頼主がどんな人間でも、僕達のやる事は変わらないよ」


 解凍マグロ団を捕まえる。それが、俺達の目的だ。

 

「そう……ですわね」


「そうだよ! それに……もし、そのフロッガーって奴も悪人だったら一緒にやっつければいいんだよ!」


 アルディは、アチョーという掛け声と共に拳をシュッシュッと突き出す。

 

「はは、アルディはやる気充分だ……あたっ」


 アルディの行動を微笑ましく眺めていると、ボヨンと何か柔らかい物に当たり、尻もちをついてしまう。


「あ、ごめんなさい。大丈夫かしら?」


 俺がぶつかったのは、人だったようで手が差し出される。


「す、すみません……よそ見をしてしまってたもので……」


 差し出された手を掴んで立ち上がると、改めて相手を見る。

 フラムよりも少し背が高く、褐色の肌に腰まで伸びる長い黒髪とエスニックな雰囲気を醸し出すグラマラスなお姉さんが立っていた。


「こちらこそ、ごめんなさい。私もよそ見しちゃってたの」


 褐色のお姉さんは、申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。

 露出の高い服のせいで、凄い事になっている。

 どこか気品のある立ち居振る舞いなので、貴族かなんかだろうか。


「お嬢ー! どこですかー」


「あ、連れが呼んでるので、これで失礼するわね?」


 俺に怪我が無いのを確認すると、お姉さんは笑顔で手を振ると向こうへと言ってしまう。


「……エロバだ」


「エロバ様ですわね」


「な!? ち、違うよ? ちょっとほら……露出が凄いなって思っただけでその……胸とかは……見てました、すみません」


 言い訳をしようと思ったが、アルディとフラムの冷ややか視線コンボに耐えきれず、俺は素直に謝る事にする。

 

「全く……学生だったころは、そういうのに疎かったので分かりませんでしたが、アルバ様って結構スケベですわよね?」


 返す言葉もございません。

 中身はおっさんなんです。若い女の子相手だと見惚れちゃうんです。


「アルバはむっつりすけべー」


 だまらっしゃい、アルディ。

 そもそも、君がエロバなんて呼ばなければフラムが真似することも……はい、俺がスケベなせいです。すみません。だから、そんな冷たい視線を向けないでください。


 その後、アルディ達にからかわれながらも依頼主の家へとたどり着く。


「ようこそ、いらっしゃいました」


 門番に、ギルドから来たことを伝えカードを見せると中へと通され、カエル顔のでっぷりと太った男が出迎える。


「私がこの屋敷の主人のフロッガーです。以後、お見知りおきを」


「アルバ・フォンテシウム・ランバートです」


「フラム・アルベットですわ」


「三○春夫で……じゃなかった、アルディだよー」


 だから、いちいちネタが古いんだってばアルディ。


「ほほう、アルバ様の名前……もしや、メルクリオ様の? それに、フラム様もハイン様のご息女様ですかな?」


 フロッガーさんの問いに、俺とフラムは頷く。


「いやはや、やはりそうでしたか。メルクリオ様には、昔お世話になったことがありましてなぁ。ハイン様ともよく気持ちの良い商売をさせていただいております」


 そう言うと、フロッガーさんはいやらしい笑みを浮かべながらカエルの様にゲコゲコと笑う。


「それで、届いた予告状を見せていただけますか?」


「おお、これはすみません。こちらになります」


 フロッガーさんから、予告状を渡され内容を見てみると、今夜12時に金を盗みに来るというスタンダードな内容だった。

 まだ、昼時なので大分時間がある。


「いやはや、世間を騒がせている泥棒風情が我が家を狙うと知って、気が気では無いんですよ。奴らは土魔法を使うと聞いておりますのでな。ならば、同じ土魔法をぶつけるべきだと聡明な私は考えたので、ギルドに依頼を出したと言うわけです」


 フロッガーさんは、ペラペラと聞いてもいない事を長ったらしく喋る。

 

「他にも冒険者の方が来ていますので、時間もありますしまずは、ご一緒に食事と行きましょう。食事はもう済まされました?」


「いえ、まだです」


「それは重畳。では、こちらへどうぞ」


 フロッガーさんに導かれるまま、俺達は食堂へと向かうのだった。

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