第96話
翌日も俺達は、海を満喫した。
アルバ城は、大きさは変わらなかったが、悪ノリした見学者達の協力により、かなり豪華な城になった。
「……うん、どうしてこうなった」
改めて、パワーアップしたアルバ城改は、完全にビーチの名物となっていた。
内装は、家具関連の商人監修により砂造りの見た目がオシャレな家具が配置され、外観はあくまで遊具という体を崩さず、滑り台が頂上から海へと作られた。
ただの砂の滑り台だと、滑ってるうちに痛くなってしまうので出来るだけ摩擦を減らしツルツルにした。
滑り台の先は海なので、注意さえしてれば怪我もしないだろう。
そして、ただの滑り台に留まるわけもなく、なんと宿の人の好意で水がわずかに流れるちょっとしたウォータースライダー状態になった。
水を汲み上げて流すポンプのような機械は流石に無かったので、そこは宿の人の協力で魔石を組み込み、定期的に魔力を込めることで水を流し続けられるようになった。
「それにしても、良かったんですか? ふざけて作っただけなので、帰るときには壊そうと思ったんですが……」
ここまで作ってしまうと、壊すのは勿体ないが、この世は諸行無常。それもまたやむなしである。
「いやいや、逆に此処までのクオリティで作られたら流石に壊すなんて出来ませんよ。それに、良い名物になりそうですし」
宿のオーナー……というか、この島の持ち主である恰幅の良いおっちゃんが、自身のたるんだ腹を撫でながら口を開く。
今日は、たまたま島の視察に来てたらしいのだが、俺達の城を見て良い名物で客寄せになると判断したのか、凄い協力的だったのだ。
流石は商人。金になりそうなことには目ざとい。
城の方を見れば、子供たちが楽しそうに遊んでいた。
ちょっと方向性は違うが、ある意味これも土魔法向上と言えなくもないのではないか。
「それで……城の名前は何て言いましたかな?」
うぐ……それを言わないとダメか。
「風雲アルバ城だよ!」
俺が、城の名前を言うのに躊躇っていると、現場監督のアルディが答える。
ていうか、地味に『風雲』が付いてパワーアップしてるんだが……。
一応言っておくと、日本の城じゃなくて西洋の城だから風雲という単語が恐ろしく似合わない。
まあ、アルディがそれで良いと言うなら俺は構わないが。
「風雲アルバ城か。うむ、ならばその名前で今日からこの島の名物にしよう!」
おっちゃんは、満足そうに頷くと隣に控えている秘書のような人と会話をする。
「では、アルバ様。私はこれでお暇いたします」
一応、こちらは貴族なので、おっちゃんは敬語で挨拶すると立ち去っていく。
こうして、ココナツ島に『風雲アルバ城』と言う名の内装は大人向け、外観には子供向けのウォータースライダーが付いている名物が誕生したのだった。
…………地位向上成功!
◆
ココナツ島から帰ってきた後も、特に特筆することなく夏休みが終了する。
強いてあげるとすれば、修行したりフラムといちゃついたりヤツフサ達と遊んだり、フラムといちゃついたり……あとはフラムといちゃついたりかな!
ふははは、リア充って素晴らしい! 彼女が出来るだけで、景色が違って見えるぜ。
「アルバー、久しぶりー」
登校すると、ちょうどヤツフサ達も来ていたのかパーティ全員と校門前で鉢合わせる。
「久しぶり、元気だった?」
「うん、健康だけが取り柄だからね」
「あれ? フラムさん、また綺麗になりました? やっぱり恋する乙女は違いますねぇ~」
「んなっ!? ススススターディさん!? 急に何をおっしゃるんですか!?」
俺とヤツフサが挨拶を交わしていると、何やらスターディとフラムがコイバナをしていた。
どの世界でも、女はやっぱりそういうのが好きなもんなんだな。
「カルネージ……は、疲れてるみたいだけど、どうかしたの?」
カルネージにも挨拶をしようと彼の方を見れば、何やら疲れた表情を浮かべていた。
「ああ、いえ……ちょっと王族としての勉強をみっちりしてまして少し疲れてたんです」
「王族としての?」
「はい……今までは、王様にはならないので、避けていたんですけど……アルバさんを見ていて、自分も負けてられないと思いまして勉強するようになったんです」
なんか、俺を見て奮起されると嬉しくはあるが、少し気恥ずかしい物がある。
「今まで避けていた分、大変ですけど、1つ1つが自分の知識になって充実してるんですよ」
疲れているにも関わらず、カルネージは心底楽しそうに笑う。
……学園祭の時から思っていたが、カルネージも随分積極的になったよな。
あの中二病全開だったころが懐かしい。まあ、それもペルソナとかいう装備のせいだったんだが。
なんだか、ヤツフサの時もそうだったが……成長するのは嬉しいが、少し寂しい気もする。
それから、しばらく校門で雑談をしていたが、始業式もあるので俺達は一旦別れて寮へと向かう。
「久しぶりー! ねぇねぇ、夏休みってどっか行った~?」
寮へと向かう途中、そんな会話が聞こえてくる。
うん、こういう会話も地球と変わらないな。
世界が違っても同じ人間。根本は意外と変わらない物である。
「うん、私はお父様に頼んでココナツ島に行ってきましたわ」
一応言っておくと、ですわ口調で喋ってはいるがフラムではない。
こういう時、文章だけで似た口調のキャラを書き分けるのは辛い。
「アルバ、メタいメタい」
俺が、ちょっといろんな方向から怒られそうなことを考えていると、アルディが窘めてくる。
俺は、アルディに軽く謝りつつ、聞き覚えのある単語を喋った女生徒たちの会話に耳を傾ける。
「良いなぁ。ココナツ島って魚がおいしいんだよね。私のお父さん、仕事で忙しいからって連れて行ってくれなかったんだよ。それで、結局夏休み中は魔法の修行漬け」
「あらあら、それは大変でしたわね」
「全くよ。だから、せめてココナツ島の土産話でも聞かせてくれない?」
「土産話……ですか。そういえば、ココナツ島に行った時、去年は無かったものがありましたわね」
そこまで話を聞いたとき、俺は思わず立ち止まってしまう。
まさか……。
「去年は無かったもの?」
「ええ、砂浜に何やら大きな砂のお城がありまして。内装が結構本格的でしたの。名前は確か……風雲アルバ城だったかしら?」
「ぶふっ!? えふっ……えふっ……」
予想していたとはいえ、他人からその名前が出た時、俺は思わずむせてしまう。
「へー、そんなの出来たんだ。でも、なんでアルバ城なんだろうね?」
「聞いた話だと赤毛の土属性の少年が精霊と一緒に作ったらしいですわ。それで、島のオーナーである商人が気に入って、名物化したらしいですわ」
「観光地の名物を作るなんて、なかなかやるわね。その土属性の男の子。……ん? ねえ、確か赤毛の土魔法使いって、この学園にも居なかったっけ?」
俺は、その台詞にドキリとする。
「あー、そういえば学園祭の武闘大会で見かけましたわね。確か、名前はアルバさん」
「ほら! やっぱそうだよ! 城の名前もアルバ城だし!」
女の子は、自分の推理に余程自信があるのか興奮しながら叫ぶ。
「アルバアルバ。あの人達、アルバの噂してるよ」
「ウンソウダネ」
アルディが耳元で話しかけてくるが、俺は恥ずかしさのあまり棒読みで答えてしまう。
俺の名前が、名物に使われていると言うのもそうだが、こうやって思わぬところで目立つのは、複雑な気分だ。
分かりやすく言うと、笑わそうと思って笑われるのは良いが、意図しない事で笑われるのはダメだと言うあの感覚だ。
なんという……凄いむず痒い!
「2人とも……早く行きましょう」
「ん? どうかしたの? って、ちょちょ押さないでよぉ」
これ以上、此処に居て恥ずかしい話を聞くわけにはいかないので、俺はヤツフサとカルネージを急かし、さっさと寮へと向かう事にする。
だが、俺はまだこの時は忘れていた。
この学園には、貴族が多いという事を。
そして、俺は……学園中で『風雲アルバ城』の噂が広まっている事に戦慄することになるのだった。
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