第91話
「……」
「……」
唇を離すと、お互い何を言っていいか分からず無言で見つめ合う。
前世から数えても、これが初めてなので結構いっぱいいっぱいなのだ。
「…………なんか恥ずかしいですわね」
フラムは、若干目をふせながら恥ずかしそうに喋る。
前から可愛いと言うのは知っていたが、いざ恋人になるとまた違った可愛さがあるような気がする。
正直、フラムを彼女にする事で俺の運は使い切ってしまったかもしれない。
その後も俺達は、しばらく余韻に浸りながら屋上で過ごすのだった。
◆
屋上から出ると俺達は、休憩中のヤツフサ達の所に行き俺達が付き合う事になったのを報告する。
「おめでとう、2人とも! 2人が恋人同士になるなんて自分の事のように嬉しいよ!」
「ひゅーひゅー! お似合いだよ!」
ヤツフサは、尻尾をパタパタさせて喜び、アルディはおっさんくさい言動で祝福してくれる。
「絶対幸せになってくださいね、ごしゅ……アルバさん、フラムさん」
おいスターディ。祝福してくれるのは有り難いが、普通にご主人様って呼ぼうとしただろ。
何はともあれ、皆が快く祝福してくれるのは嬉しい。
まあ、カルネージは違うクラスだから、今この場には居ないが、きっと彼も祝福してくれるだろう。
「皆さん、本当にありがとうございます。アルバ様と恋人になる事が出来たのは皆さんのお蔭ですわ。私1人だったらきっと……」
「うんうん! その気持ちよく分かるよ! アルバったら超鈍感だからね。私達がお膳立てしなきゃ厳しかったかもね」
「そうだね。こう言ったらアレだけど……見てて可哀そうだったし、これで心の荷が降りたよ」
酷い言い草である。まるで俺が他人の好意に疎い人間みたいではないか。
あえて言い訳をさせてもらえるなら、俺だって気づかないフリをするのが大変だったのだ。
まあ、今となっては本当にただの言い訳にしかならないので、皆の言葉は甘んじて受け入れるが。
その後、カルネージとも合流して報告すると、他の皆と同じように喜んでくれた。
そして夜――――。
『この時間を持ちまして、大学園祭は終了いたします。ご来校ありがとうございました。なお、1時間後より大広場にて後夜祭が始まりますので、興味のある方は奮ってご参加ください』
18時になると、拡声魔法によるアナウンスが聞こえてくる。
長かった大学園祭もようやく終わりである。
俺達は、後夜祭に参加するため後片付けもそこそこにして大広場へと向かう。
大広場の中央には、大きめの薪で組んだ土台が設置されており火が大きく燃えていた。
やはり、こういう大きな祭りの後でのキャンプファイヤーは定番だろう。
俺達が到着したころには、既に結構の人が居り、思い思いに踊っていた。
少し離れた場所では、楽団の人達が民族音楽っぽい曲を演奏していた。
「お嬢さん、どうか私と踊っていただけませんか?」
「……はい、喜んで」
俺は、恭しく頭を下げてフラムに向かって手を差し伸べると、フラムは俺の手を取る。
ダンスなんて習ったことが無いので完全に適当だが、フラムも同じようで少しまごつきながらも俺に合わせて一緒に踊ってくれる。
周りを見ると、ヤツフサはアルディ(体格差が凄いのでかなり面白い事になってるが)と踊り、カルネージはスターディと。
「……っ! ぶふっ」
と、そこで俺は、ある光景を見つけてしまい思わず吹き出してしまう。
クララとグラさんが少し離れた場所で一緒に踊っていたのだ。
口では否定していたが、クララの表情はとても嬉しそうだった。ちなみにグラさんは、おそらくナナバチョコをたらふく食ったのか、クララとは別の意味で幸せそうな表情を浮かべていた。
名前も似てるし、ある意味お似合いかもしれないな。年の差カップルすぎるが……。
「……未だに信じられませんわ。アルバ様と恋人になれたなんて」
一緒に踊っていると、フラムが口を開く。
「父様達にも報告しなきゃね……」
あの人達は、事あるごとに俺達をくっつけようとしてたしな。
それを抜きにしても、両親には報告するべきだろう。
ただ、問題はフラムの父親のハインさんだ。
男手一つで育ててきた娘に、恋人が出来たと知れば一悶着あるかもしれない。
ハインさんも一応、くっつけようとしてた一員だから大丈夫だとは思うが、覚悟くらいはしてた方が良いだろうな。
「そうですわね。……アルバ様。改めて、末永くよろしくお願いしますね?」
「ああ、もちろんだよ」
火の明りに照らされ、こちらを見つめてくるフラムはとても綺麗で、俺は彼女に見惚れつつもキスをする。
――こうして、波乱に満ちた大学園祭は終了したのだった。
◆
大学園祭が終了し、数日が経ったある日。
俺は、アルディと共に図書室へと向かっていた。
「ねえ、アルバ。どこに行くの?」
「ああ、そう言えば言ってなかったっけ。図書室だよ」
「なんでまた図書室?」
「うーん、ちょっとあの人にお願いしたいことがあってね」
あの学園祭で思うことがあり、お願いをしようと考えたのだ。
それに、色々話したいこともあったしな。
学園祭が終わった直後は、片付けやらフラムといちゃついたりで忙しかったしな。
リア充の気持ちが俺にもようやく分かって感無量である。
あ、一応言っておくが、年齢が年齢なのでキスまでだけどな。
流石にそれ以上は倫理的によろしくないので、せめて学園を卒業してからだ。
ちなみに、父さん達に俺達の事を手紙で報告したら、よっぽど嬉しかったのか興奮したような字体で書かれた祝福の手紙が両親とハインさんの署名付きで返ってきた。
ハインさんも喜んでくれていたようなので、ひとまずは安心である。
長期の休みに入ったら、改めて報告をしようと思う。
と、そんな事を考えてると目的地へとたどり着く。
「さーて、居るかなー」
「ね、あの人って誰の事?」
「それは……あの人だよ」
図書室の扉を開けて周りを見渡すと、目的の人が居たのでそちらを指差しアルディに教える。
「アヤメさん」
俺と同じくらいの背丈に、印象的な腰まで伸びる白くて長い髪。そしてフリフリのメイド服を着た少女に話しかける。
隣には、なぜかゲッソリとしているミリアーナが居たが、こいつは至極どうでもいいのでスルーだ。
「あん? なんだ、アルバじゃない。人前では、アコルスって呼んでくれるかしら?」
「ああ、すみません。アコルスさん」
一応、五英雄の1人だから本名で呼ばれたくないのだろうか。
「偽名で呼ばれた方が、陰のあるキャラって感じがしてカッコいいじゃない?」
全然そんな事無かったよ!
ていうか、大和撫子な見た目に対してキャラが正反対すぎるので違和感がすさまじい。
「というか、まだその体だったんですね」
「結構損壊が激しかったからね。整備をする奴もこの国の奴じゃないし時間がかかるのよ」
「うう……なんかすみません」
その原因が自分であるため、申し訳なくなってしまう。
「別に気にしなくていいわよ。実は、学園祭中に侵入したアレを狙ってくる奴を捕まえるのに結構消耗してたし」
……ああ、だから試合の途中でちょっと動きがぎこちなかったのか。
「アルバの用事って、この人に会う事だったんだね」
「うん? なんだ、私に用事があったの?」
「はい、ちょっと聞きたいことがありまして……」
「ふむ……ここじゃあれね。ちょっと付いてきなさい」
アヤメさんは、顎に手を当て数秒ほど思考すると手招きをしながら歩き出す。
「ほら、ウォーエムル。ボーっとしてないでさっさと来なさい」
「イエス、マム!」
すっかり調きょ……教育されたミリアーナは、ビシッと敬礼を取るとアヤメさんの後を付いていく。
俺とアルディもその後を付いて行き、しばらく歩くと生徒会室と書かれた教室へとやってくる。
一応生徒会室と書いてはいるが、こちらは常に鍵がかかっており開かずの教室と呼ばれていた。
誰も開けることが出来なかったので、現生徒会の役員たちは別の教室を使っている。
アヤメさんは、自身の髪の毛の先を鍵の形に変えると扉の鍵を開ける。
……なるほどな。自分の髪の毛が鍵なら見つからないわけだ。
「さ、入りなさい」
アヤメさんに促され、教室へと入ると、中は殺風景で応接間にある様なソファ2つとその間に机が1つあるだけだった。
一方にアヤメさんが座ったので俺達は、その反対側へと座る。
「さてと、貴方の用事を聞く前に改めて、こっちの紹介でもしましょうかね」
アヤメさんは、コホンと軽く咳払いをして姿勢を直す。
「名前は……もう知ってるわね。私は、この学園の創始者で現生徒会長よ」
「創始者で……生徒会長?」
五英雄の1人が創始者っていうのは聞いていたので驚きはしなかったが、なんでそれが生徒会長なのだろうか。
「……生徒会長が最強クラスって地球の漫画とかでは定番じゃない? それに、学園長とかより肩書的には下になるけどカッコいいし……」
「アヤメったら昔からこうなのよね。何かするのにいちいち理由がカッコいいからとかそういうのばっかなんだから」
「うるっさいわね。私はロマンを求める生き物なのよ」
ミリアーナが、肩をすくめてヤレヤレと言った感じに喋ると、アヤメさんは若干照れながらミリアーナに反論する。
うん、正直そんな感じの理由な気はしてた。
あれ? もしかして七不思議の1つである永遠の生徒会長ってアヤメさんの事か?
いつから生徒会長をやっていたかは分からないが、結構昔からやっていたのなら、そんな七不思議が出来たのも不思議ではない。
案外、自分で噂を流してたりしてな。
「って、今サラッと言いましたけど、やっぱりアヤメさんって……」
俺の言葉にアヤメさんは、待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う。
「そうよ。私は、貴方と同じ地球出身よ。ただし、違うのは転生者じゃなくて召喚されたって所だけどね」
アヤメさんは、何故か自慢げにそう言い放つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます