第77話

 グラさんの容赦ない攻撃により、のしイカのようにペラペラになってないか心配だったが、どうやら結界の効果はちゃんと働いたようで重傷だが舞台の外にツバキが倒れていた。


「な、なんと! またしてもアルバ選手の勝利です! 一体、アルバ選手は何を召喚したんでしょうか! 少しインタビューしてみたいと思います!」


 クララはそう叫ぶと、トテテとこちらに走り寄ってくるとグラさんにマイクを向ける。


「貴方は一体どういう種族なのでしょうか? 見たところ、かなりお強いようですが」


「ワシは、グランドドラゴンじゃよ。今は、便宜上人型の姿を取っているがな」


「聞きましたか、皆さん! アルバ選手はまさかのドラゴンを召喚していました! しかも、人型に変身できるのは高位種の証です! アルバ選手はどこまで我々を驚かせれば気が済むのでしょうか!」


 クララの言葉に観客たちはザワザワと騒ぐ。


「なあ……もしかして土属性って結構強いのか?」


「いや、単純にあのドラゴンが強いだろうよ」


「そうだとしても、そのドラゴンを召喚するにはそいつもある程度実力が無いとダメだろ」


「それもそうか……いやー、土属性の認識変わるなぁ」


 俺の近くの観客席からそんな会話が聞こえてくると、俺は内心ほくそ笑んでいた。

 どうやら、俺の目論見は成功したようで着実に土属性の認識が変わりつつあるようだ。

 俺は観客の反応に満足しながら控室へと戻ってくる。


「凄いですね、アルバさん。まさか、グランド・ドラゴンまで召喚できるとは」


 アコルスさんは、素直に驚いたという感じで話しかけてくる。


「まあ、こやつ自体はまだまだひよっこなんじゃが、同族の匂いを感じてな。何だか気になって契約したんじゃよ」


「同族? もしかして、アルバさんってグランド・ドラゴンなんですか?」


「いやいや、僕自体は普通の人間ですよ。両親が、実はドラゴンだったっていうなら話は別ですが」


「うーん、中々謎ですねぇ」


 俺の言葉に、アコルスさんは顎に手を当て唸る。


「アコルス選手とヤツフサ選手、入場お願いしまーす!」


「あら、それでは行ってきますね」


「うー、アコルスさんに勝てる気がしないよー……」


「ふふ、勝負は時の運。戦ってみるまで結果は分かりませんよ?」


 名前を呼ばれたことでヤツフサが不安そうにしていると、アコルスさんはヤツフサを励ます。

 アンダー戦では圧倒的だったから、ビビってしまうヤツフサの気持ちも分からないでもない。

 正直、俺も奥の手があるとはいえ勝てる気がしないしな。

 だからと言って簡単に負ける気も無いが。

 余裕のアコルスさんと不安げなヤツフサを見送ると俺達は控室から観戦をする。


「うーん、ヤツフサきゅんには悪いけどあの子じゃ勝てないかもねぇん」


 何故か俺の隣に座るミリアーナが珍しく真面目な顔をして喋る。


「いや、確かにアコルスさんは強いですけどヤツフサだって結構強いんですよ?」


 少なくともヤツフサのスピードがあれば結構いい戦いをするのではないんだろうか。


「そうだそうだ! ヤツフサは強いんだぞ! いくら、ミリアーナでもヤツフサを馬鹿にするのは許さないぞ!」


 ミリアーナの言葉が気に入らなかったのか、珍しくアルディが怒る。


「ああ、ごめんなさい。別に馬鹿にしてるわけじゃないのよ。ただ、あのアコルスって子……それ以上に強いのよ」


「なんで分かるんですか?」


「乙女の勘って奴よ」


 ぶん殴るぞ。

 乙女にほど遠い見た目の奴が何ほざいているんだ。

 内心、ミリアーナにツッコミを入れていると2回戦第2試合が始まる。

 1回戦での髪の毛攻撃を警戒しているのか、早速獣化したヤツフサは距離を取りいつでも避けられるような体勢を取っている。


「あらあら、そんな警戒しなくてもいいですのに……」


 アコルスさんは、あらあらと言った風に笑うがそれは無理な話なんじゃないかと思う。

 アコルスさんの言葉とは裏腹に彼女の髪の毛は、獲物を狙う蛇のようにユラユラと揺れていてゴーゴンを彷彿とさせる。


「まずは、小手調べと行きましょうか」


 そう言うと、アコルスさんの髪の毛がまとまり始めランスの様な形になるとヤツフサに向かって凄まじい速度で放たれる。

 髪の長さが明らかに最初より長くなっているが、髪を操る魔法っぽいしそこらへんはどうとでもなるだろう。

 この世界の魔法は結構いい加減で、理論とかが多少間違っていてもイメージさえしっかり出来ていればイメージ分が補足してくれる。

 ヤツフサの電磁投射砲レールガンや俺の超伝導砲リニアガンが良い例だ。

 地球の時のうろ覚えの知識だったに関わらず、魔法が発動できたのは俺やヤツフサのイメージがしっかりしていたからだと思う。

 

「こ、これくらいなら簡単に避けられるよ!」


 迫る髪の槍をヤツフサは、横に飛んで避けると電磁投射砲レールガンの指弾版を連射する。


髪盾ヘア・シールド!」


 アコルスさんは、ヤツフサが電磁投射砲レールガンを放つ前には既に髪を戻しており、攻撃同時に髪の盾を展開しヤツフサの攻撃を防ぐ。

 簡易版とはいえ、結構な威力のある弾はまるで金属にでも当たったかのように弾かれる。

 攻撃にも防御にも使えるとか万能だな髪の毛。


「やああああ!」


 盾を作った事でアコルスさんの前方に死角が出来たのを見逃さず、ヤツフサは背後に回ると全身に雷を纏いアコルスさんに向かって突撃をする。

 俺と戦った時に使った雷動による突撃だ。

 アコルスさんの反応が遅れ、ヤツフサの攻撃が決まる。と思ったが何故かヤツフサは寸止めをしてしまう。

 いや、どうやら寸止めをしたくてしたわけでは無いようだった。


「体が……動かない……っ」


 見えない何かがヤツフサの体を縛っているようでヤツフサは、動くに動けないようだった。


「ヤツフサさんのスピードは確かに凄いですが、今回の様に戦う範囲が限定されていれば対処法はいくらでもあるんですよ?」


 確かに、ツバキの時もそうだったが舞台の上に限定すれば、グラさんの面攻撃みたいにいくらでもスピードタイプの対処法はあるな。


「私の髪の毛をピアノ線の様にすればこうやって、見えにくいトラップを作る事も可能なんですよ?」


「ピアノ……線?」


「非常に見えにくい頑丈な糸だと思ってください。とにかく、それに絡め取られたら無理に抜け出そうとすれば怪我じゃすまないです。降参しますか?」


「お……俺は……ぐっ」


 ヤツフサは、必死に抜け出そうとするがその度に髪の毛が体に食い込んで辛そうにする。


「俺は……約束したんだ……アルバと戦うって! グルァァァァァァァァ!!」


 ヤツフサは、耳を塞ぎたくなるような大音量で叫ぶと全身から雷を迸らせる。


「……へえ、やりますね。私の髪の毛を焼き切るなんて」


 プスプスと全身から煙を出しながら息を荒くしている自由になったヤツフサを眺めつつアコルスさんは感心したように言う。


「へへへ……お、俺だって強くなってるから……ねっ」


 ヤツフサは、額の汗を拭うと再び体に雷を纏うとバチッという音と共に姿を消す。

 それと同時に舞台の四隅に配置してある石柱がランダムに何かがぶつかる様な跡が激突音と共に現れ始める。

 ヤツフサの雷動は、雷と同等の速度で動けるようになるが思考まで光速になるわけではない。

 また制御も難しく直線しか移動できないと言うのが欠点だ。

 おそらくヤツフサは、四隅の柱を利用して無理矢理軌道を変えてるのだろう。

 そうしてランダムに動き回る事で相手に予測させないと言うわけだ。

 実際、アコルスさんも目で追えてないようで先程の罠を張る余裕も無さそうだ。

 ヤツフサの超スピードの攻撃を髪の毛をセンサーにすることで辛うじて避けているようだった。


「流石に中々やりますね。ですが……」


 アコルスさんは、全身に自身の髪の毛を纏うとパワードスーツの様な見た目になる。


「まだ、私には勝てないですね」


「なっ!?」


 超スピードで突っ込んできたヤツフサをパワードスーツ状態になったアコルスさんは難なく受け止める。

 とはいえ、勢いがついていたのでドオンッというトラックがぶつかったかのような轟音が鳴り響く。

 そんな音を出しておいて見た感じ無傷なヤツフサとアコルスさんが化物なんじゃないかと思う。

 アコルスさんは髪でガードしてたとしてヤツフサは生身だ。

 俺だったら、間違いなくミンチになっていた自信がある。


「もうちょっと戦っていたいけれど、あんまり長引かせられないし決めさせてもらうわね」


 そう言うと、アコルスさんはそのままヤツフサを抱きしめる。

 ああ、くそ羨まけしからん。


「……死の抱擁アイアン・メイデン


「ぐっああああああ!」


 すると、突然ヤツフサが苦しみだし結界外へとはじき出される。

 どうやら、拷問器具であるアイアン・メイデンの様にアコルスさんの纏っている髪の鎧から鋭い髪の毛でヤツフサを突き刺したようだった。

 ……やっぱ羨ましくないや。


「ヤツフサ選手戦闘不能によりアコルス選手の勝利です! 無属性で髪の毛を操ると言う地味な魔法ながらその戦闘力は圧倒的です! アルバ選手といい今回の武闘大会は波乱に満ちております!」


 クララが興奮したように叫ぶ中、ヤツフサは担架で運ばれていくのだった。



「うう、負けちゃったよ……ごめんね、アルバ」


 救護室に行くと、元々タフだったおかげか既に目を覚ましているヤツフサが申し訳なさそうな顔で謝ってくる。

 3回戦は午後からなので、ヤツフサの事も心配だったのこうしてやってきたと言うわけだ。


「謝らなくていいよ。ヤツフサも充分強かったからさ」


「うむ、まだ粗削りだが才能はある。ここでくじけずに精進するがいい」


「ありがとうございます……えっと……グラさんでしたっけ」


 ああ、そう言えばまだちゃんと紹介してなかったな。


「そうだね。この人が僕の召喚獣のグランド・ドラゴンのグラさん。実力は大会で見た通りだね」


「改めまして、俺はヤツフサです。よろしくお願いします」


「うむ、よろしく頼むぞ」


 うむうむ、グラさんとのファーストコンタクトもよさそうな感じだな。


「それにしてもあの人強かったねぇ」


 アルディが先程の事を思い出しながら口を開く。

 確かにあの強さはちょっと異常だ。

 髪を操るだけと言う単純な魔法にも関わらず攻防共に厄介だ。


「シンプルだからこそ、強力なものなのよん」


 確かにミリアーナの言う事も一理あるかもしれない。

 シンプルイズベストという言葉がある通り変に複雑な奴より単純な物の方が良いと言う場合もあるな。


「アルバ、俺の分まで頑張ってね」


「任せといてよ。優勝できるかどうかは分からないけど少なくとも決勝までは行ってみるよ」


「男なら優勝してみるくらい言えば良いのにのう」


 うるさいな、アコルスさんの見た後だと自信無くなるんだよ。

 それに、俺の目的はあくまで目立つことであって優勝では無い。

 最悪目立てるのなら、優勝は出来なくても良いしな。


「そういう謙虚な所がアルバらしいよ。……それじゃ約束だよ?」


「うん、約束だ」


 俺とヤツフサは、拳を突き合わせてそう約束したのだった。

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