第73話
翌日、俺とヤツフサは本戦に出場するため朝から闘技場へと向かう準備をする。
「それでは頑張ってくださいね」
「う、うん……カルネージも……頑張ってね。ていうか、大丈夫?」
学園祭3日目でカルネージは、すっかりやつれていた。
「はい、頑張ります! 大丈夫ですよ、ちょっと大変ですけど」
「それにしてはかなりやつれてるけど……誰だって苦手な物はあるんだしそんな無理しなくてもいいんじゃないの? クラスの皆は何も言わないの?」
「暗闇は、もう慣れたと言いますか……ある時ふと恐怖心が無くなって逆に楽しくなってきたんですよね。クラスの皆さんは、休むように言ってきますがボクだけ休む訳にはいかないので断ってますよ」
逆にそれ、なんだか危ない症状のような気がするんだが本人が大丈夫だと言うなら信じることにしよう。
いざという時は、流石に周りも何とかするだろうしな。
「まあ、カルネージがそう言うなら……あんまり無理しないでね?」
「もう、分かってますよ! ほら、早くしないと受付に間に合わなくなっちゃいますよ」
カルネージの事は心配だったが、受付の時間も迫ってきているので彼に急かされると俺達は、そのまま闘技場へと向かった。
「うわー、あっちの方人が凄いねー」
闘技場へ着くとまだ朝だと言うのに長蛇の列が出来ていた。
一般の客は、まだ入れないので全員学生の観客だろう。
地球でも、コロッセオとかあったしどの世界でも大衆は戦いを見るのが好きなんだろう。
それが派手な魔法が飛び交うファンタジーバトルともなれば、俺だって普通に観戦したい。
そんな事を考えながら俺達は、選手用の入り口から入る。
「今日は確か準決勝までだっけ」
「うん、決勝は明日の昼からだね」
決勝ともなれば、やはり一番盛り上がるんだろうな。
「やっぱり折角だから優勝とまでは行かないけど決勝には行きたいなぁ」
流石にそこまで行けば、優勝は出来なくても土属性を見直させるには充分だと思う。
「アルバならきっと行けるよ! 優勝も出来ると思うよ!」
優勝は流石に無理だろ。
物語の主人公ならあっさり優勝するんだろうが、俺はそういう主人公特有のチートとか持ってないしな。
「いやー、優勝は流石に厳しいと思うんだ。ていうか、僕の事よりヤツフサの事が心配だよ。まったく、受けなくていい勝負を受けちゃうんだから」
「あはは、あの時はついアルバを守らなきゃってテンションが上がっちゃってね。でも、大丈夫だよ。アルバの応援があればきっと勝てるから」
ヤツフサは、そう言うと全幅の信頼を寄せた目でこちらを見ながら手を握ってくる。
「ヤツフサ……」
うん、そうだな。
親友である俺が信じてしっかりと応援してあげないとな。
「「ほほう」」
俺とヤツフサが見つめ合っているとミリアーナとミリアーナが見えないはずのアルディが見事にハモって顎に手を当てながらこちらを見ていた。
「……何見てんの」
「いやぁー、男同士の友情って良い物ねー」
「そうだねー」
ミリアーナの言葉にアルディがウンウンと同意するように頷く。
「って、ちょっと待って。アルディってミリアーナが見えてるの?」
今のアルディの言葉は、明らかにミリアーナの言葉に反応していた。
「うん、実は昨日あたりから少しずつ見えるようになってたんだよねー。夜はアルバの良い所トークで盛り上がってたよ!」
なんて恥ずかしいトークをしてるんだ、この二人は。
ていうか、なんで最初見えなかったのに見えるようになったんだ?
「多分、アルバと私は繋がってるから最初は波長が合わなくて見えなかったけど段々合うようになったんじゃないかなー」
ああ、なるほど。
俺とアルディは、ほとんど一緒に居るからそうなってもおかしくないな。
「えー、良いなぁ。俺も参加したかったよ」
ヤツフサは、アルディの言葉に羨ましそうにする。
頼むから、ヤツフサはコッチ(カオス)側に来ないでください。汚れた君を見たくない。
「でも、ヤツフサはミリアーナが見えないからなー」
「ううー、なんか俺だけ仲間外れだ……」
ヤツフサは、心底残念そうな顔をしてガックリと項垂れる。
……大丈夫だよな? ヤツフサのはあくまで親友としての好意でミリアーナと同じような系統じゃないよな?
いや、親友を疑うのはよそう……。
「あ! ほら、控室に着いたから入ろうか!」
俺は、心配を打ち消すかのように叫ぶと控室の扉を開ける。
控室には、既に先客が居た。
「あら? アルバさん……ですか?」
銀色に輝く長い髪の不思議な雰囲気を放つ美少女で1回戦でアンダー・ドッグスと戦うことになるアコルスさんが俺の後ろの方を見ると一瞬驚いたような表情を浮かべるが、すぐに微笑むと俺に話しかけてくる。
「あ、やっぱりアコルスさんでしたか。図書室ではお世話になりました」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。……それにしても可愛いお召し物ですね」
「あ! い、いえこれは何と言うか……模擬店での衣装というか……脱ぎたくても呪いで脱げないと言うか……」
「呪い……?」
俺の言葉に首を傾げるアコルスさんに事の発端を説明する。
「なるほど。アルバさんも大変でしたね」
「自分で言っておいてあれなんですが、信じてくれるんですか?」
「ええ……私に見えてますから……筋骨隆々の気持ちの悪い男性が」
アコルスさんは見た目に反して中々辛辣な事を言いながらミリアーナを見る。
なるほど、さっき一瞬驚いたのはミリアーナの見た目に驚いたからか。
まあ、確かに初見でミリアーナを見るとビビるよな。
「それにしてもミリアーナ……ですか」
「何か知ってるんですか?」
「あ、いえ……凄い似合わないなと思いまして」
「その気持ちたいへんよく分かります」
ミリアーナの風貌から考えると、どう考えてもゴンザレスとかそっち系の名前が似合いそうだ。
少なくともミリアーナとか美人っぽいイメージの名前は死ぬほど似合わない。
「全くもう! どいつもこいつも失礼しちゃうわね!」
ミリアーナは、自分の名前を馬鹿にされたことで怒っていたが事実なので我慢していただきたい。
「まあ、それは置いといて……アコルスさんの対戦相手ってアンダー・ドッグスでしたよね?」
「ええ、そうですね。予選は見学していましたが中々お強い方ですよね」
そうなのだ。
風属性しか使えないのは、精霊と契約してたから分かるのだがそれを差し引いても予選で俺以外をあっという間に戦闘不能にした実力は侮れない。
「気を付けてくださいね。あの人……あんなふざけた性格なのに結構強いですから」
「ご忠告ありがとうございます。アルバさん達も頑張ってくださいね?」
「うん、頑張るよー!」
「は、はい。頑張ります」
アコルスさんに話しかけられると、アルディは元気よく返事をしヤツフサは緊張しながら答える。
多分、アコルスさんが綺麗だから緊張しているのだろう。
アコルスさんは、地球で言う所の日本人っぽい顔立ちで普通にアイドルと言われても通じそうなくらいには綺麗だ。
フラムとかスターディで耐性が出来ていなかったら俺だって緊張していた。
その後も、俺達は本戦が始まるまで他愛ない会話を続けるのだった。
◆
「会場の皆さま、お待たせしましたー! いよいよ、武闘大会本戦が始まります! 血沸き肉躍るバトル展開が楽しみですねー! 司会は引き続き、私クララが務めさせていただきまーす!」
舞台の真ん中でクララが元気よく喋ると会場はワッと盛り上がる。
アイドルと自称するだけあり中々盛り上げるのが上手いようだ。
「それでは、熱いバトルが待ちきれないと言う観客の皆さまにお応えしてさっさと1回戦を始めましょー! ルシオ ・ サラサーテ選手とツバキ・ヤツアシ選手ご登場くださーい!」
その声と共に名前を呼ばれた2人が舞台に現れる。
ルシオは、初日に俺に話しかけて来たチョロい鎧の兄ちゃんでツバキの方は女性だった。
俺は、ツバキの見た目を見て思わず見入ってしまう。
なんというか、今までに見たことの無いタイプだったのだ。
陶磁器の様な白い肌にヤツフサと同じ黒い髪、此処までならまだ普通だ。
普通じゃないのはそこからで、6本の腕が生えており黒いノースリーブミニスカのクノイチ服というマニアックすぎる服を着ていた。
確かに、腕の多さを考えれば袖はあるより無い方が良いのだが、なぜクノイチの着るような服を着ているのだろう。
しかもミニスカにハイソックスで絶対領域も完備と言う鉄壁っぷりである。
「あの方は、女郎蜘蛛の方ですね」
俺の視線に気づいたのかアコルスさんが説明してくれる。
「女性しか生まれないと言う特殊な人型の蜘蛛の種族でヤマトの国が発祥の地ですね。彼女は、その中でもシノビと言われる一族らしいんですよ」
へー、女郎蜘蛛か。だから、腕が6本なのか。蜘蛛と言うわりに目は2つなのだが、まあそこは人の要素の方が強かったのだろう。
「ていうか、アコルスさん詳しいですね」
「まあ、戦うかもしれない方の情報を集めるのは常識ですから」
あー、確かに情報は戦いを制すって言っても過言じゃない位大事だからなぁ。
それは、分かるのだがそれをアコルスさんから聞くとやはり違和感バリバリである。
どう見ても戦闘タイプには見えないからだ。人は見かけによらないものである。
「それでは、第1回戦……始め!」
クララの合図と共に銅鑼がなり、1回戦が開始された。
ルシオは、真っ赤な槍を構えて間合いを測りながらジリジリと近寄っていく。
一方ツバキの方は、6本の腕にどこから出したのか短刀を装備する。
別にどちらが勝ってもいいのだが、元日本人としてはツバキの方を応援したい。可愛いし忍者だし。
中二病経験者としては、やはり忍者には惹かれるものがある。
「うらあああああああ!」
まず最初に動いたのはルシオで槍に炎を纏うと前方に構え突撃をする。
うーん、やっぱり炎属性が多いなぁ。まあ一番人気の属性だし当たり前か。
一方ツバキは、軽やかに上空に飛ぶと6本の短刀を上からルシオに向かって放つ。
当然ルシオは槍で短刀を弾くと、詠唱してたのか複数の槍の形をした炎を作り出すと上空で身動きの取れないツバキに放つ。
しかし、ツバキは取り乱すことなく手から糸を出すと舞台の四隅にあるうちの1つの柱に糸を巻き付けワイヤーアクションの様に素早く柱まで移動する。
……えー、手から糸かよぉ。
蜘蛛って言うからにはやっぱり……いや、やめておこう。
俺は紳士だからな、そういう下品な事は考えないのだ。
そんな馬鹿な事を考えている間にも試合はドンドン激しくなっていく。
ルシオは炎の他になんと反対属性である氷も扱い巧みな戦術を披露していた。
炎と氷とか極大な消滅呪文とか使えそうだな。
一方、ツバキは魔法を使う素振りが無くマジでどこに隠していたんだと言いたくなるような大量の武器を取出し応戦していく。
実力はほぼ互角に見えたが、スピードで勝っているツバキの方に軍配が上がった。
「ツバキ選手の勝利です!」
クララが勝利者宣言をすると観客席からは拍手の嵐が聞こえる。
ここからだと、良く見えなかったがおそらくツバキは暗器使いと言った所だろうか。
魔法をまだ使ってなかったのでまだ隠し玉は有りそうだった。
「それでは1回戦2試合目。アルバ選手とブラハリー選手、ご登場ください!」
「アルバ、頑張ってね!」
「応援してますよ」
「頑張ります」
「よーし、やったろうじゃんよー!」
ヤツフサとアコルスさんの言葉に俺は笑顔で答える。
アルディもやる気満々でシュッシュッとシャドーボクシングをしている。
「……いよっし! 行こう、アルディ」
自分を奮起するため、両頬をパンっと軽く叩きアルディと共に舞台へと向かうのだった。
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