第74話

「それでは、第1回戦2試合目の選手を紹介します! まずは、アルバ選手! メイド服が大変似合っておりますがなんと男の子だそうです!」


 クララが俺を紹介すると観客席からどよめきが起こる。

 恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。

 緊張と恥ずかしさで心なしか腹も痛くなって気がする。


「現在、高等学部の1年生でなんと、土属性にも関わらず初等学部の難度10迷宮を攻略しております! 土属性の癖に中々やりますねー。多分、お仲間の方が優秀だったんでしょうねー」


 土属性と聞くと、観客席からは先程とは違った意味でどよめきが起こる。

 まあ、土属性で難度10の迷宮をクリアしたと聞けば普通は驚くだろう。


「そして、対するはブラハリー選手! 初等学部5年生で先天属性は炎属性です! えー、学園長からの情報によると初等学部1年の時に2人は一度決闘をしてなんとアルバ選手が勝っているそうです。時を経て再び会いまみえる2人……うーん、燃える展開ですね! 私の予想では、やっぱり炎属性であるブラハリー選手が勝つのではと予想しています」


 仮にも司会が贔屓するような事を言っていいのかと思うが、炎属性と土属性の対決では、普通は土属性が勝つとは思わないだろうし仕方ない事だろう。

 そういう認識を変える為に武闘大会に参加したんだしな。

 ていうか、何気にブラハリーって飛び級してたんだな。

 あれからクラスが違うから知らなかったが、奴なりに努力していたんだろうな。


「それでは、お互い悔いの無いように全力を出し切ってください。大丈夫、どんな重傷を負っても学園の優秀な治療班が完全に治します。結界により死にもしませんので血みどろのぶっ殺し合いをしてください!」


 前から思ってたのだが、アイドルを自称して尚且つ、光属性なのにいう事がいちいち物騒なのは何故なのだろうか。

 もしかして、俺が知らないだけでこの世界のアイドルはこれがデフォなのか?


「試合……開始ーーーーー!」


 俺がアイドルについて考えていると、試合開始の銅鑼が鳴る。

 えーい、変な事を考えている場合じゃないな。今は試合に集中しないと。

 ブラハリーは、魔法具なのかロングソードを構えつつ呪文を唱えている。

 奴には悪いが、唱え終わるのを待ってやるほど俺は優しくない。

 1年の時と同じように速攻で片を付けさせてもらう。


「アルディ!」


「合点承知の助!」


 俺の合図にアルディは返事をすると二手に分かれてブラハリーの方へと向かう。

 走りながら地面に手を付いてブラハリーの足元に落とし穴を発生させる。

 しかし、流石に過去に1度喰らっているせいかそれを予測していたかのようにブラハリーはそれを避ける。

 当然、俺はそれを予測していたためさして驚かない。ブラハリーが落とし穴を避けて着地するポイントを予測しアルディが数本の石の矢をブラハリーに向かって放つ。


小さな炎の矢ファイア・アロー!!」


 ブラハリーは、それを避けきれないと判断したのか唱えていた魔法をアルディの攻撃と相殺させるのに使ってしまう。

 そこへ、間髪入れずに唱えていた魔法をブラハリーに向かって発動する。


隆起する石柱トーテム・ポール!!」


 直径30㎝程の石柱がブラハリーの背中に向かって射出される。

 ブラハリーは、その攻撃に気づくが魔法で相殺する時間も避ける余裕も無い。

 奴に攻撃が直撃する瞬間、突如石柱が爆発し崩れ落ちる。


「なっ……!?」


 ブラハリーに魔法を唱える時間は無かった。

 もしかして、無詠唱か? えーい、ブラハリーの癖に生意気な。

 なんて事を考えているとブラハリーは剣を構え、俺に向かって駆け出してくる。

 そして、それと同時に奴の背後に複数の直径50㎝程の中々の大きさの火球が複数現れ俺の方へと向かってくる。


「ちょ、ま……」


 結構レベルの高そうな魔法を無詠唱で放ったことに俺は流石に驚きを隠せなかった。

 俺も少しは無詠唱で使える魔法は増えてきたが、流石にあそこまでのレベルの魔法を動きながらと言うのはきつい。

 一体、ブラハリーは何処まで強くなっているのだろうか。

 俺は火球を華麗に避けつつ、迫りくるブラハリーの剣を両手の籠手で防ぐ。


「ふん、中々やるじゃないか」


「そっちこそ、いつの間に無詠唱魔法なんか使えるようになったんですか?」


 籠手と剣がせめぎ合いながら、余裕をアピールするかのように笑顔で答える。


「アルバ……この人、精霊と契約してるよ」


 戻ってきたアルディがそう説明する。

 なんだと?


「ふん、そっちの精霊はやっぱりすぐ気づくか。そうだ、お前に負けたあの後、俺は精霊と契約したんだ。俺が負けたのは、慢心もあったが戦力で負けていたせいもある。精霊と契約して戦力が互角になった以上、俺が慢心さえしなければお前に負ける理由は無い!」


 最後の言葉を言いきるとともに、剣に炎を纏うと力を入れて俺を吹き飛ばす。


「どうするの? グラさん呼ぶ?」


 吹き飛ばされた俺は体勢を整えているとアルディが耳打ちしてくる。


「……いや、グラさんはまだ呼ばない」


 グラさんを呼べば、おそらく勝負はあっという間に付くだろう。

 だが、それは何か違うと思うのだ。

 1回戦から手の内をまだ明かしたくないと言うのもあるが、ブラハリーには互角の条件で戦いたいというのが理由だ。


「ブラハリーとは……グラさん無しで戦いたいんだ」


 俺の言葉の意図を察したのか、アルディは肩をすくめて首を横に振る。


「ふぅ……これだから男の子は」


 どこで覚えたのか、アルディは呆れたようにそんな事を言う。


「まあでも、私はアルバがそう望むなら全力でサポートするよ」


「助かるよ」


「作戦は決まったか?」


 ご丁寧に待っていてくれたブラハリーは、少し離れた場所から話しかけてくる。

 奴の背後には、先程と同じ火球が再び複数浮かんでいた。

 慢心しないと言う言葉に嘘は無いらしい。

 少しくらい慢心しても罰は当たらないと思うんだけどなぁ。


「お蔭様でね。それじゃ、再開しようか」


 ブラハリーの精霊が見えない以上、俺は対処することが出来ない。

 

「アルディ、精霊の方は任せていい?」


「おっけー! 契約歴の長い私が上下関係を叩きこんじゃうんだから」


 アルディは元気良く返事をするとブラハリーの精霊が居るであろう方向に飛んでいく。

 近づけさせまいと火球が飛んでくるが、アルディと俺が放つ石の矢で相殺していく。

 その際に、土埃が起こり視界が遮られるが俺はその隙を利用し地面に手を付いて魔法を発動した後、次の魔法を唱えつつ一気にブラハリーとの距離を詰めていく。

 ブラハリーもそれは予測していたのか、土埃の間から炎の剣の切っ先がこちらに向かって伸びてくる。

 このまま普通に避けたり防いでも先程と同じ展開になってしまう。

 ならばどうするか? 答えは簡単。相手の意表を付けばいいのである。

 あらかじめ設定していたポイントを踏み抜くと俺の足元に1m程の深さの落とし穴が発生する。

 当然、その上に立っていた俺は落とし穴に落ちるが、ブラハリーの攻撃は余裕で避けることが出来る。


「なっ!?」


 流石にこの避け方は予想外だったのか、ブラハリーは驚きの表情を浮かべてこちらを見る。

 人間、予想外の事が起きれば思考が停止し動きが一瞬止まってしまうものである。

 これが、熟練の戦士とかともなれば話は別だが所詮は子供。

 いくら戦闘経験を積んでいるとはいえ、こういう状況には不慣れだ。

 そして、唱えていた魔法を小声で発動すると両手を上空に向ける。


「必殺カエルパンチ!!」


 隆起する石柱トーテム・ポールを自身の足元から射出し、その勢いを利用しブラハリーの顎めがけて籠手付きのパンチをお見舞いする。

 

「ぐあっ!?」


 隆起する石柱トーテム・ポールの初速を速めに設定したため、結構な速度で上昇したことでブラハリーの反応が間に合わず、顎にパンチが決まる。

 勢い+籠手付きという事で、結構なダメージらしくブラハリーはよろめいていた。

 どうやら顎に綺麗に入ったかと思ったが、すんでのところで避けたらしく何とか意識は保っていたようだった。


「くそ……相変わらず魔法を意味分からない使い方しやがって……」


 まあ、普通こういう使い方はせんわな。

 

「これが僕の戦い方ですからね。まだやります? 結構ダメージ多そうですけど」


「ふ……ん。この俺が……そう簡単に……諦めるかよ」


 ブラハリーは、剣を杖の様にしながら足をふらつかせつつもこちらを睨んでくる。

 うむ、敵ながら中々のガッツである。

 そんなブラハリー君に敬意を表して少し本気を出させてもらおう。


「アルディ! 魔力共鳴だ!」


 俺は、ブラハリーの精霊と交戦中だったアルディを呼び戻す。

 

「……っ。ヒューズ! 俺達も魔力共鳴だ!」


 大技が来ると判断したブラハリーは、自分の精霊も呼び戻す。

 ていうか、ブラハリーの奴魔力共鳴まで使えるのかよ。


「「「魔力共鳴!!!!」」」


 舞台に異口同音の言葉が響き、魔力が爆発的に増えていくのを感じる。


「はあああぁぁぁぁぁぁ! 魔装金剛鬼ダイヤ・オーガ!!」


 俺は魔力を全身に巡らせ、ビキビキと全身に金剛石覆わせていく。

 一方、ブラハリーも魔力を一点に集中させると1m大の漆黒の炎の球体を出現させる。


「おーっと、ここでお互いに奥の手か!? アルバ選手は何かを体に覆い巨大化していく一方、ブラハリー選手は巨大な真っ黒な炎の球を出現させたー!」


 興奮したように叫ぶクララの言葉を聞きながら、俺は魔法を完成させる。

 魔力共鳴中限定の、俺の魔法の中で一番派手な魔法である。

 

「な、なんとアルバ選手! 自分自身を輝くダイヤモンドに身を包んだ! しかもでかーい! 土属性の癖に派手で生意気です!」


 酷い言われようだが、どうやら俺の目論見は正しかったようだ。

 この世界では、派手な魔法ほど人気がある。

 ならば土属性で派手にするにはどうすればいいかと考えたのがこの魔法だ。

 宝石と言うのは、どの世界でも派手なイメージがついて回るし、ダイヤモンドは硬度が高い事でも有名だ。 

 RPGとかでもダイヤソードとかダイヤシールドとか中盤以降で手に入る装備品として出てくるくらいなので戦闘に使えないはずがないのだ。

 ダイヤモンド本来の脆さなどは魔力でカバーである。


「行くぞ、ブラハリーぃぃぃぃぃぃぃ!」


漆黒獄炎球メギド・フレイム!!」


 俺が駆け出すと、それに応えるようにブラハリーは更に大きくなった漆黒の球をこちらに投げてくる。

 地面に黒い炎の道を作りながらそれは、迫ってくる。

 

「うおおおおおおおお!」


 ほとんどの魔力を防御力に回し、俺は炎の球へと突っ込んでいく。

 魔力共鳴は、一時的に魔力が大幅に上昇するがすぐガス欠になってしまうのが欠点の為、避けている暇も惜しいのだ。

 魔装により、熱までは届いてこないがブラハリーの最大の魔法なだけあって魔力でコーティングしたにも関わらず装甲がドンドン炭化していく。

 やはり、ダイヤモンドと火はやはり相性が悪いな。

 今は無理だがいずれはオリハルコン製の魔装を纏えるようにしたい。

 炭化していくそばから新しいダイヤモンドを生成しながら俺はひたすら走り続けていく。

 

「って、熱っ!? 熱いってレベルを超えて熱い!」


 語彙力の低さで、それ以上説明しようがないが装甲が溶けていったことで骨まで溶けそうなくらいの熱が体を襲う。

 

「ぬ、あああああああああ!」


 熱さに死ぬ気で耐え、間一髪で炎の球を超えると半分程炭化した魔装でブラハリーのとこまで走り寄る。

 ブラハリーは、肩で息をしながら避ける風でも無くこちらを見ている。


「終わりだあぁぁ!」


 俺は手を振りかぶると、ブラハリーに向かって思いっきり打ち抜く。


「ぐっ……ああああああぁ!」


 メキメキと嫌な音を立ててブラハリーは、場外へと吹き飛ばされる。


「……」


 ブラハリーは、壁にたたきつけられるとそのまま意識を失ってぐったりとする。


「しょ……勝者……アルバ選手ぅぅぅぅぅ!」


闘技場全体が静まり返るも、先に我へと帰ったクララが俺の方を見て勝利者宣言をする。

 宣言を聞いた俺は、もはや限界に近かった魔装を解くとその場に座り込む。


「……あー、1回戦からこれはきついなぁ」


「おつかれ、アルバ」


 同じくヘトヘトになっているアルディの頭を撫でながら救護班に連れて行かれるブラハリーを見送るのだった。

 

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