第52話

「というわけで、今日から僕らのパーティに入るカルネージさんです」


「まあ、そうなんですの?よろしくお願い致しますわ」


「よろしくですー」


 翌日の放課後、皆を集めてカルネージがパーティに入る事を伝えると他の面々は、素直に歓迎してくれている。


「おい、アルバ……」


 カルネージは、俺の耳元でヒソヒソとささやいてくる。


「なんで、フラムちゃ……あいつが居るんだ」


「そりゃあ、パーティですもん。居るに決まってるじゃないですか。フラムが居たら問題でも?」


「……いや、大丈夫だ」


 俺が尋ねると、カルネージは少し悩む素振りを見せるが大丈夫だと答えるとフラム達の方を向く。


「ククク、俺様がパーティに入ったからには戦力大幅上昇間違いなしだ!期待しているがいい!フゥーーハッハッハッハ!」


 カルネージは、ばさりとマントを翻すと高笑いをする。

 その様子に、他の面々は苦笑いをしつつもカルネージを迎えたのだった。


 その数日後、学園迷宮が解禁となったため俺達はカルネージの実力を測るのも兼ねて高等学部の学園迷宮難度1に挑戦しに来ていた。


「さて、それじゃあ準備はいい?」


 全員を見回し確認をすると、皆頷き返してきたので俺達は迷宮の中へと入っていった。

 今回の迷宮はフィールド型森林タイプである。

 初等学部では階層タイプで最下層にボスが居る迷宮しかなかったが、高等学部からはフィールド型というのがある。

 フィールド型とは、階層が存在しない1個のマップで構成されている迷宮だ。

 ここでは、トラップが存在しないかわりに壁が無いため決まった道が無く、迷いやすいと言う特徴がある。

 また、天候なども変化し運が悪ければ嵐の中を攻略する羽目になったりするのだ。

 単純な迷宮型と違って色々面倒な点はあるが、実戦により近い状況になるため冒険者を目指す者にとってはいい練習となる。

 しばらく進んでいると、緑色の体表に苔が生えた猪が現れる。

 確かこれは冒険者の授業の魔物学で習ったフォレストボアだったか。

 特徴を聞く限り、見た目以外は地球の猪と変わらない。

 普通の人間なら充分脅威だが、戦いの経験を積んできた俺達にとっては大した事は無い。


「それじゃ、カルネージさん。僕たちが援護しますので実力を見せていただいてよろしいですか?」


「え?お、おう!任せるがいい!」


 声を掛けられたカルネージは、一瞬呆気に取られるが気を取り直すと自信たっぷりに胸をドンと叩く。

 その言葉を信じ、俺達はうっかりフォレストボアを倒してしまわないよう牽制しつつ、カルネージを守る。

 カルネージは、魔力を練っていき呪文を詠唱し始める。 


「我は怨もう 生きとし生けるものを 我は憎もう 光を生きしものを

 生には死を 正には負を 光には闇を 

 混沌の闇 深遠なる闇を揺蕩う恨みの念

 我が身にこの世のすべての闇を収束せん

 我が担おう 全ての悪を 我が背負おう すべての災厄を

 我が身に触れるは破滅と知れ 死屍爆葬デッド・エンド!!」


 しかしなにもおこらなかった!

 カルネージは、長々と痛い詠唱をしてビシッと決めポーズをしたが特に魔法は発動しなかった。

 ていうかマジで痛い!自分が中学の時に考えたポエムそっくりで全身がめちゃくちゃ痒くなる。

 

 時が止まったかのような錯覚を受けるほど周りが静まり返るが、カルネージがゴホンと咳払いをする事で静寂を破る。


「……ふっ。今日は魔力の調子が悪いようだ。運が良かったな、猪よ。普段の俺様なら貴様は既に消し炭だばぁ!?」


 俺は、人当たりの良い人物を演じるの忘れ、あまりのベタっぷりに思わずカルネージのすぱーんと小気味いい音を立てて頭を叩いてしまう。


「何をする!」


「何をする、じゃないでしょうが!貴方、光属性でしょう!?なんで、そんな使えもしない闇の魔法っぽいの使おうとしてるんですか!」


 カルネージは、叩かれた理由が分からないのか俺に向かって怒鳴ってくる。

 しかし、こちらとしても彼を仲間に入れた手前、真面目な場面でふざけられるのは流石に許容できない。

 今は、特に危険が無いから良いがもっと危険な場所で同じことをやられたら溜まった物ではない。


「本来は使えるはずなのだ!だが、忌まわしき封印により今の俺様に攻撃手段は無いのだ!」


「だからそういう設定は……って、攻撃手段が無い?」


 さらに突っ込もうとしたところで聞き捨てならない言葉が聞こえ、少しクールダウンして聞き返す。


「うむ、俺様は回復魔法しか使えない!」


 一体、カルネージの自信はどこから湧いてるのか不思議なくらいなドヤ顔を披露してそう言い放つ。

 

「え?でも光属性なんですよね?」


「うむ」


「光属性にも攻撃魔法はあるでしょう?何も使えないんですか?」


「うむ!」


 うむ!じゃねえよ!何、自信満々に頷いてんだよ!

 RPGとかのヒーラーだって、初級の攻撃魔法位は使えるんだぞ!


「あ、じゃあ補助魔法とか使えたりできるんですよね?」


 俺は、一縷の望みをかけて質問するが彼の次の言葉によりそれはあっさりと崩れ去る。


「くくく、残念だが俺様が今扱えるのは回復魔法のみ!忌まわしき封印さえ解ければ絶大な魔法が使えるのだが、仕方あるまい!」


 ……つ、使えねええええええ!

 いや、仲間を使える使えないで判断するのはダメだって事は分かってるよ?

 でもさ、回復魔法オンリーの奴をどう戦いに活かせばいいんだよ。

 こういう楽勝な戦いだと完全にお荷物じゃねーか。


「ちなみに、俺様は血の盟約により他人を傷つける武器が扱えん。つまり俺様に戦闘手段は無い!どうだ、参ったか!」


「あほかあああああああ!」


 もう完全に取り繕うのを忘れ、俺は再びカルネージの頭をすぱーんと叩く。

 こいつ、よく高等学部まで進級できたな。


「き、貴様!2度もぶったな!」


「そりゃ殴るわ!なんで回復しかできないのにそんなに偉そうに出来るんだよ!」


「偉いからだ!」


 ぬうううう、変なところで無駄にメンタルつええ。

 パーティ入る前は、あんな必死だったくせに。


「ま、まあまあアルバ。一旦落ち着こうよ」


「そうですわ。ちょっと今までのイメージが壊れるくらいのはっちゃけぶりですわよ」


 気が付けば、フォレストボアはとっくに倒されておりヤツフサ達はオロオロしていた。

 オーケーオーケー、確かにちょっと興奮しすぎたかもしれない。

 予想外の出来事が連続したからブレーキが利かなかった。


 冷静になって考えてみると、攻撃面に関しては前衛はヤツフサ、スターディ。後衛は俺、アルディ、フラムと充分だ。

 うちのパーティは、回復担当が居なかったしむしろ丁度いいのかもしれない。

 

「分かりました。カルネージさんは、それでいいです。……念の為聞きますが、得意と言うだけあって回復魔法はちゃんと使えるんですよね?」


 流石に得意だと豪語する回復魔法までショボかったらどうしようもうない。


「そこは任せておけ。深遠なる闇の使い手たる俺様としては物凄い不本意だが……回復魔法だけは昔から得意なのでな」


「あ、じゃあ俺の回復お願いして良い?さっきの戦いで少し怪我しちゃってさ」


 ヤツフサは、先程のフォレストボアとの戦いで怪我をしたようで右腕にフォレストボアの牙で受けたのか傷が出来ていた。

 出血は大したことが無いが結構痛そうだった。

 俺なら泣く自信がある。


「ふむ、これくらいならどうって事は無い」


 カルネージは、ヤツフサの怪我の具合を見ると呪文を唱え始める。


光癒ヒール


 カルネージの右手から白い光が溢れ始め、怪我の部分に充てるとたちまち治ってしまう。


「わー、凄いですねぇ」


 一瞬で治った怪我を見てスターディは、パチパチと拍手をする。

 スターディの自己再生能力も充分凄いのだが空気を読んで黙っていることにする。

 

 まあ、それは置いといて得意と言うだけはあったらしい。

 

「わあ、全然痛くないや。ありがとう!」


 怪我の様子を確かめるヤツフサは完全に治ったのを確認すると笑顔でお礼を言う。


「こ、これくらい大したことではない。俺様にかかれば児戯に等しい事だ」


 ストレートに褒められるのは慣れていないのか、頬を若干赤くしながら照れるカルネージ。


「でも、本当に凄いですわよ。その年でここまで強力な回復魔法を使えるだなんて」


「え?そうなの?」


 フラムの言葉に俺は尋ねる。

 回復魔法と言えば、医務室の専業のヒーラーのしか見たことなかったから基準が分からなかったのだ。


「個人差はありますが、私達と同じくらいの歳でこれほどの回復魔法というのは普通に凄い事ですわ。本来はもっと治るのに時間がかかりますもの」


 へー、それじゃあカルネージは意外と凄かったのか。


「それほどでもないがな!ふははははは!」


 フラムの言葉にカルネージは気を良くしたのかふんぞり返って高笑いをしている。

 人が折角見なおそうとしていたのにこの態度である。

 とりあえず、性格に難はあるがヒーラーとしてはかなり優秀だと言うのが分かったのは僥倖だった。


 これで攻守ともにバランスは良くなったのではないかと思う。

 しかし、その後カルネージの出番はほとんどなかった。

 

 高等学部の迷宮とはいえ、初等学部難度10を攻略した俺達(ただしカルネージを除く)にとっては、楽勝以外の何物でもなかったからな。

 迷宮はあっさり攻略したが、出番がほとんど無くカルネージがふて腐れたため俺達は、カルネージの機嫌を治しながら学生寮へと帰るのだった。

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