第43話

 母さんと戦ってから数日が経った。

 戦いが終わってしばらくは、父さんによっぽどきつく怒られたのかご機嫌取りが凄かった。

 やれ、お腹が空いてないか。やれ欲しいものは無いか等々どこの王族だと言わんばかりの好待遇だった。

 まあ、特に俺自身は気にしてなかったので全て断ったが。

 それでは納得いかないと母さんがゴネるので俺が提案したのが特訓に付き合ってもらう事だった。

 俺には実力差が大きい相手との戦闘の経験値が圧倒的に足りない。俺が戦ったことがあるのは同学年の奴や学園迷宮の魔物くらいである。

 学園迷宮の魔物は手ごわくはあるが所詮は初等学部の迷宮なので、それほど差が開いていると言うわけではない。しかも仲間もいるので協力し合えば多少苦戦はするものの倒せるには倒せる。


 なので、折角の冬休みで時間があって強い人が居るならば訓練に充てた方が良いと言うものだ。

 母さんは2つ返事で了承し、母さんの仕事が終わってから……時間的には午後に俺の訓練に付き合ってもらう事となった。

 午前中はアルディと一緒に魔法の練習がてら遊んだり、趣味のフィギュア作りに勤しんでいる。

 おかげでフィギュアの数が増え、部屋には『家のメイドさんシリーズ』が完成してしまったくらいだ。

 家のメイドさんシリーズとは、そのままの意味で俺の家で働いているメイドさん達をモデルにしたフィギュア達である。

 忠実に表現は俺の実力では無理なので、多少アニメチックになったりアレンジしたりと誤魔化しが入っているが、うちのメイドさん達にはそれなりに好評である。

 

 そんな毎日を送っているとある日、ハインさんとフラムがやってくる。

 久しぶりに皆で食事をしようという事で父さんが誘ったらしい。


「お久しぶりです。ハインさん」


 ハインさんは、相変わらずダンディだった。この間、フラムが俺を遊びに誘いに来た時も一緒に来てたらしいがすぐ帰ったとの事で会えなかったのだ。


「おお、アルバ君にアルディ君。相変わらず元気そうだね」


「うん、私はいつでも元気だよー!」


「はっはっは、そうかそうか」


 ハインさんの言葉に、アルディは元気いっぱいに返事をするとハインさんは快活に笑う。

 うーん、この人はホントに色んな仕草が絵になるな。

 父さんや母さんも美男美女なので絵にはなるのだが、ハインさんはハインさんで両親にはない渋さがある。

 俺も年を取ったらハインさんみたいに渋くなりたいものである。

 ちなみに前世での晩年の夢は、丘の上のログハウスに住んで暖炉の前でゆったりした椅子に座りながら、パイプくわえてペルシャ猫を撫でる事だったりする。

 これを友人に話したら、それはなんか違うって言われたのは良い思い出である。


 その後、食事の準備が出来たと言うので俺達は食堂へと向かい食事を始める。

 食事中は、親同士という事もあり俺の両親やハインさんは、俺とフラムの学園生活の話題で盛り上がっていた。

 

「しかし、フラムちゃんはホント優秀だよなぁ。魔法銃だっけ?あれも結構珍しい戦い方だし」


「そ、そんな事はありませんわ。魔法銃も単に家が武器商人で何か使える武器が無いか探していた時に見つけただけですし」


 父さんが、フラムを褒めるとフラムは顔を赤くしてうつむきながら言う。


「そんなこと言ったら、そちらのアルバ君も大分優秀じゃないか。去年入学してわずか1年でもう6年に飛び級だろう?しかも今は難度10の迷宮に挑んでいると言うじゃないか」


 ハインさんが、俺の方を見ながら話題を振る。

 褒められると嬉しいにはうれしいのだが、前世で褒められ慣れていなかった為、どうしても体がむず痒くなってしまう。


「まあ、そこは自慢になっちゃうが俺達の息子だからなぁ。俺達も当時は普通に飛び級だったからな、なあ?」


「そうねぇ。でも私たちは、炎と氷だったじゃない。属性からして恵まれてるもの」


 父さんの言葉に母さんは同意するように頷く。まったく、チート両親め。

 あ、そうだ。聞こう聞こうと思ってすっかり忘れていた。


「お父様達は、難度10迷宮を1回で攻略したと聞いたのですが何か秘訣とかあるんですか?」


 難度10は最高難度だけあって、一筋縄ではいかない。

 現に俺達は、苦戦しており何回挑んだか分からない。もしかしたら、俺達の知らない攻略法があるかもしれないと思い聞いてみようと思ってたのだ。

 ちなみに、俺は「自分達の力で攻略して見せる!力を合わせればどんな困難も乗り越えられるさ!」とか言うお綺麗な主人公みたいな思考は持ち合わせていない。

 困ったことがあれば出来る人に頼るし、行き詰れば攻略法も調べる。プライドだけで生活は出来ないのだ。

 

「あー、なんつーか。あの時はそもそもパーティに恵まれてたからなぁ」


 俺の質問に対し、父さんは頬をポリポリと掻きながら語り始める。


「えーと、初等学部んときのパーティは俺とメリエラとタマズサと……」


「シエルとゾークね」


 父さんのセリフに続いて母さんが話を続ける。


「タマズサって言うのがこの間話した、ワーウルフの子でヤマトの国のサムライって職業の子よ。属性は無で特に強い魔法は使えないんだけど物凄く目が良くてね。多分、見えない物は無いんじゃないんかしら」


 何それ怖い。あれか?目が良いって透視とかできちゃう千里眼系?まあ、それだったら俺みたいに地形探査ソナーを一々使わなくてもトラップとか魔物とか避けられるな。


「シエルって言うのが光属性の子ね。回復魔法は勿論だけど攻撃魔法も得意な子で私たちの生命線だったわね。今はどこかの国でシスターだっけ?」


「確かそうだな……自分の国の教会で働くって言ってたしな」


「最後にゾークだけど……属性は闇で得意魔法は重力だったわね」


「あいつはなぁ……重力魔法は確かに強かったけどあいつ自身の性格がなぁ……あいつ今なにやってんだっけ?」


「さぁ?自分の事あまり話したがらなかったしね。そもそもゾークはシエルの紹介でうちのパーティ入ったようなものだし」


 父さんと母さんは、そんな感じで学生時代の思い出を語る。フラムやハインさんは、それを興味深そうに聞いていた。

 ちょっと、ここで両親の話を整理してみよう。えーと……

 父さんは、氷属性で学園首席。母さんは、炎属性で王国騎士団団長になるほどの戦闘センスの持ち主。タマズサさんは、サムライとやらで千里眼(多分)の持ち主で見えない物は無いと言われるほど。

 そしてシエルさんは光属性で回復攻撃どちらも行けるおそらくメイン回復役。最後に、ゾークさんは闇属性で謎が多い人物だけど重力魔法が得意。


 ……何このパーティ怖い。

 炎、氷、光、闇って人気属性網羅してんじゃねーか。そりゃ難度10も一発でクリアしますわ。

 下手したらこのパーティで国1個……は言い過ぎとして街1個くらいなら普通に落とせるんじゃねーか?

 タマズサさんだけ戦闘力が分かりにくいけど、このパーティに居るくらいだからやっぱり強いんだろうな。

 ワーウルフの黒毛種だっていうし、もしかしたらヤツフサが知ってるかもな。

 冬休み明けたら聞いてみるか。もし、知り合いだったらあわよくば会わせてもらって、ちょっとだけモフらせていただきたいものだ。


「んでだ。それを踏まえて迷宮の攻略法はだな……」


 思い出話が終わり、俺の質問から始まったのを思い出しのか父さんはゴホンと咳払いをして切り出す。


「ぶっちゃけ俺達にも分らん。当時は色々、運が良かったからな。多分、当時に戻ってもっかいやれって言われても1度でクリアできないと思う。すまんな、役に立てなくて」


「いえ、良いんです。あくまで聞けたらいいなっていう程度に考えていたので」


 攻略法が聞けなかったのは、残念だが父さん達の学生時代の事が聞けたので良しとしよう。

 こういう親の思い出話ってのも、もしかしたらどこかで役に立つかもしれないしな。


「ま、精一杯試行錯誤しながら頑張るんだな。お前にはフラムちゃんやアルディ、他にも仲間が居るんだしな」


 父さんはそう言って話を締めくくる。


「うん、私頑張るよー!」


「わ、私も頑張りますわ!」


 父さんの言葉に、アルディは元気よく手を上げて言い、フラムもアルディつられるように少しどもりながら便乗して発言する。


「あらあらまぁまぁ、アルバはモテモテねぇ」


「全く、羨ましいものだな」


 その様子を見ていた母さんは、にこやかに笑いながら茶化しハインさんもそれに乗ってくる。

 いやまあ、確かに嬉しくはあるんだが複雑な気持ちだ。

 2人とも確かに可愛い。しかし、アルディは完全に妹という感じだし、フラムも幼馴染ではあるが中身の年齢的に考えるとフラムも妹という感じがするので恋愛に発展するかと聞かれれば微妙な所である。

 前世でも俺には5つ下の妹が居たので、つい同じような気持ちで接してしまうのだ。

 妹……か。

 俺は、そこで前世の妹を思い出す。

 小さいころは、お兄ちゃんっこで何処へ行くにもチョコチョコついて来てたのだが中学に入ってからは、思春期真っ最中で何かと邪険にされていたものだ。

 とはいえ、険悪とまでは行かず普通の兄妹仲だったと信じたい。

 俺は、1度死んでこの世界に転生したのでもう妹には会えないので心配しても仕方がないのだが、こうやってふと思い出すと元気にやってるのだろうかと心配してしまう。

 前世の父さん母さんは……まあ、殺しても死なない様な剛健な人達だから心配はしていない。

 性格面で考えれば今の両親と同じような物だと思って貰えればいい。


「アルバ様、どうかしましたの?」


 俺が黙り込んでしまったのを見てフラムが顔を覗き込んでくる。


「あ、ちょっと考え事をしてて……心配ないよ」


 前世の事を考えてましたとか素直に言えば、いくらファンタジー世界でも可哀そうな目で見られてしまう事が予想できるので俺は、笑いながら誤魔化す。

 前世の事をいくら考えても仕方ないので、俺はすぐに思考を切り替え再び会話に参加し、その日はそのまま夜を過ごしたのだった。

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