第41話

スターディの場合


「んっ……ふわぁ~。よく寝ましたぁ」


 日の光で目を覚ました私は上半身を起こして欠伸をしながら伸びをします。


「あれ、もうお昼ですねぇ……」


 外からお昼を伝える鐘の音が聞こえてきます。私は寝るのが好きなので冬休みが始まってからはお家でいつもこんな時間まで寝ちゃってます。

 私の名前はスターディ。魔法学園に通うごく普通の平民の女の子です。

 将来の夢は素敵なお嫁さん。好きな物は甘いお菓子。苦手な物はお化けです。アンデッド系の魔物は倒せるのですが物語に出てくるようなお化けなんかは、魔物とは違うのでとっても怖いです。


 私は、大盾士をしているのですがパーティを組むと皆さん、1回迷宮に入ると私の事を解雇してしまうんです。

 皆さんの事は、きちんと守ってるはずなんですけど何でなのでしょうか?

 もしかしたら、私のある魔法がダメなのかもしれませんね。

 私は一定以上ダメージが増えると今までのダメージを一気に返す魔法があるのですが、あれが発動してしまうと残りの魔力が一気になくなってしまうんです。

 とても燃費が悪いので皆さん、私とは一緒に戦えないと思っちゃうのかもしれないですね。

 あ!でもでも、最近ようやく私を見捨てない優しいパーティに巡り合えたのです。

 リーダーの人はアルバさんと言って女の子みたいな顔をした可愛いらしい男の子で私より年下なのですが、成績優秀で私と同じ学年まで飛び級したのです。

 

 私は、さっきも言ったみたいにパーティをちゃんと組めたことが無いのでコツコツと6年間頑張ってきたので尊敬します。

 同じパーティのフラムちゃんやヤツフサ君も飛び級してると言うのだからとっても凄いです。

 あとは、アルバさんの契約精霊であるアルディちゃんも私に優しくしてくれてとっても充実しています。


 そうそう、アルバさんは土属性なんだそうです。

 迷宮の中でも迷宮の構造が分かったりと便利な魔法が使えて流石だと思います。

 それに比べて私は頑丈なのだけが取り柄なんです。

 先天属性は無属性なのですが、無属性は当たり外れが大きくて派手なものは当たりなのですが、私の様な個人だけで完結してしまうような魔法は外れと言われてしまうんです。

 でも、周りから外れと言われてもこれのおかげで皆を守る事が出来るので私はこれで良かったと思います。

 あと、魔法の影響か分からないのですが私は治癒能力が他の人よりも格段に高いみたいです。

 小さい切り傷くらいなら一瞬で治っちゃいます。

 ただ、これはお父さんとお母さんから本当に信頼できる人以外には言ってはいけないと、きつく注意されています。

 理由は、分からないのですがお父さんとお母さんがとっても真剣な顔で言うので私は言いつけを守って内緒にしています。

 でも、最近はアルバさん達なら打ち明けてもいいんじゃないかなって思ってます。

 アルバさんはご主人様ですし……。


 あ、そうそう。私、ちょっと人と違う所がありまして痛いのやキツイ事を言われるのが……その、少し気持ちいいんです。

 戦いが始まるとそれが強くなって性格も自分では自覚してるんですけど、かなり変わってしまって皆のいう事を簡単に聞かなくなってしまいます。

 多分、そこらへんも私がすぐパーティから外されちゃう理由でもあるのかもしれません。

 でもアルバさんは、それでも見捨てずわざわざ私に合わせて罵倒してくれます。アルバさんに言ったら困ってしまうと思うので言いませんが、それがとっても癖になっちゃってます。

 

 最近起こった事を思い出しているとお腹が鳴りました。

 もうお昼ですし何か食べましょう。


「今日は、お母さんのところに食べに行きましょうかぁ」


 私の両親は、どっちも働いていてお父さんは街の入り口で門番。お母さんは大衆食堂で料理を作ってます。

 お母さんの料理は、冒険者の方から人気なんですよ。ただ、お母さんの料理目当ての人は何故か親近感が湧くような人が多い気がしますが何故でしょう?


「ん~今日もいい天気ですねぇ」


 着替えて外に出ると、ひんやりと冷たい空気と暖かい太陽の光を浴びて私は伸びをします。

 王都は、冬でも比較的暖かくて雪が降るのは滅多にありません。確かヤツフサさんの住んでるところは雪国で普通の人にとっては、とても寒い所だとか言ってましたっけ。

 いつか、行ってみたいですねぇ。


「お、スターディちゃん。お出かけかい?」


 食堂に向かって歩いていると八百屋のおばさんが話しかけてきます。


「はい、お腹がすいたのでお母さんのところに食べに行こうと思いまして」


「ああ、サディのとこかい?今の時間だと混んでるんじゃないかねぇ」


 サディと言うのは私のお母さんの名前です。ちなみにお父さんはエマゾーって言います。お父さんはヤマトの国出身だって言ってました。


「やっぱりそう思いますかぁ?うーん、なら少し時間ずらしてから行きますねぇ」


 その後、おばさんと少しお話をしてからその場を離れて街のお店を宛も無くブラブラしながら商品を眺めます。

 しばらくお店を眺めていると何だか見たことのある2人組を見つけます。

 1人は長い赤い髪が印象的な一瞬女の子と見間違えそうな男の子、もう1人は金髪の気の強そうな女の子。

 言うまでも無く私のパーティのごしゅ……アルバさんとフラムちゃんです。

 私は思わぬところで知り合いに会えた嬉しさで思わず駆け寄ります。


「アルバさーん!フラムちゃーん!」


 私の声に気づいたのか2人はこちらを向きます。何故か、アルバさんは私の顔より少し下を見て驚いていましたが、すぐに私と目線を合わせて笑顔で手を振ってくれます。


「スターディさんじゃないですか。奇遇ですね」


「あ!アルバさんったらまた敬語!」


 アルバさんは油断するとすぐ敬語を使います。私のは長年の癖ですけどアルバさんの場合は、単に他人に礼儀正しいだけです。

 実際、フラムちゃんやヤツフサさんにはタメ口ですし。

 私にだけ敬語は仲間はずれな感じがして嫌なのでタメ口で話してくださいって言ってるんですけど中々直してくれません。


「ご、ごめん。スターディ」


「わかればいいんです」


 私は、満足げに頷いてアルバさんを許してあげます。


「そういえば、2人は何してたんですかぁ?あ、もしかしてデートのお邪魔しちゃいました?ごめんなさい、お2人をお見かけして嬉しかったのつい……」


 私は、皆さんの事は好きですがそれは親愛に近いので、そう言った恋愛には疎いですが、男女が2人でお出かけとなればそれくらいの予想は流石に付きます。

 迂闊に話しかけてしまった自分の迂闊さを責めながら謝ります。


「デデデデデートとかではありませんわ!なんといか、いいお天気でしたのでお出かけしただけですわ!ねえ、アルバ様!?」


「え?あ、そうだね。うん、天気がいいから外出したくなってね」


 私の言葉にフラムちゃんは顔を真っ赤にしながら手を横にバタバタ振って否定してアルバさんに同意を求めます。

 アルバさんは自分に振られると思ってなかったのか、一瞬慌てたあとフラムちゃんに話を合わせます。

 傍から見るとフラムちゃんがアルバさんを好きなのは丸分かりなのですが、フラムちゃんはそれを隠してるつもりでアルバさんは、それに全く気付いてないって言う感じです。


「そうですわ!スターディさん、何処かおすすめの食事が出来る場所を知りませんか!?私、お腹が空きましたの!」


「あれ?フラムは確かハインさんと食事をしたって……」


「減ったと言ったら減りましたの!それにアルバ様は、まだ食事を取られていないでしょう!?」


「あー、確かにお腹空いたかもね。スターディ、どこか良い所知ってる?」


 フラムちゃんは、明らかに話題を変えているんですがアルバさんはそれに気づいてないみたいです。

 これ以上、追求するのもかわいそうなのでフラムちゃんの話題振りに乗ってあげます。

 それに私も丁度食事したい所でしたし。


「それでしたら、私のお母さんが働いている食堂がおすすめですよ。冒険者さん御用達なのでお2人には合わないかもしれませんが」


 アルバさんもフラムさんも貴族様ですので普段は高級な物を食べていると思うので私は、あらかじめ断りを入れます。


「僕は構わないよ」


「わ、私も大丈夫ですわ!」


 お2人の許可を得られたので私は、早速食堂へと案内します。

 食堂の中は、お昼時を過ぎたとはいえそれなりに人が居ます。


「いらっしゃいませ。ってあら?スターディじゃない。後ろの子はお友達かしら?」


 食堂内に入ると、私と同じウェーブのかかった桃色の髪を腰まで伸ばし三角巾とエプロンをつけた柔和な表情を浮かべた女性が声を掛けてきました。

 この方が私の母のサディです。私のお母さんは、娘の私から見てもとても若く見えます。これで30歳というのだから驚きです。知らない人が見たら18歳くらいに見られます。

 一緒にお買い物に行ったら姉妹に見られるくらいです。


「はい、この間お話ししたアルバさんとフラムちゃんです。お腹が空いたというので、こちらに案内したんですー」


「あらあらまぁまぁ、いつもスターディがお世話になっております」


 お母さんがペコリと丁寧に頭を下げるとアルバさんとフラムちゃんもつられて頭を下げます。

 その後、一言二言会話を交わした後、私たちは席に案内され各自で注文をししばらく歓談していると料理が届いたので食べ始めます。

 私は、お野菜のパスタでアルバさんはパエリア、フラムちゃんは野菜サラダを頼みました。


「スターディさんのお母様ってお優しそうですわね」


 やっぱり、お腹がいっぱいなのか少しずつサラダを食べながらフラムちゃんが聞いてきます。


「はい、とっても優しいんですよ。ここにもお母さん目当てのお客さんが多いくらいなんですから」


「ああ、まあ……それは納得だね。いかにもスターディのお母さんって感じだし」


 アルバさんは私とお母さんを見比べて納得したように頷きます。


「あ、でも夜になるとお父さんの事をイジメるんですよねぇ」


「へぇ、そうなんですの?そういう風には見えませんわねえ」


「ぶふっ!?ごほっごほっ」


 私の言葉に、フラムちゃんは意外そうな顔をしてアルバさんは何故か料理を吹き出してしまいます。


「なんかこう……お父さんを鞭とかで叩いてるような音がしたり悪口を言ってる声がするんですよ。この豚が!とか……でも、次の日お父さんは凄い満足そうな顔をしてるんですよねぇ」


「た、多分……それは仲が良いからこそ聞こえてくる音だと思うんだよ」


「そうなんですか?」


「まあ、世の中にはいろんな人が居るって事で……。なるほど、ある意味サラブレッドか」


「何か言いました?」


 アルバさんが最後の方を小声で何か呟いたので聞き返したのですが何でもないと言われてしまいました。

 その後、食事が終わって別れようとしたんですがフラムちゃんに一緒に街を周ろうと誘われ私は一緒に周る事にしました。

 こうしてお友達と一緒に街を周るのは初めてだったのでとても楽しかったです。

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