第30話
「すごいよ!アルバっていつの間にあんな凄い魔法覚えたの!?」
ヤツフサとフラムの元へ帰ってくるとヤツフサが興奮しながら口を開く。
「アルディと一緒にここ半年で開発したんですよ。まあ、魔法に関しては知識もまだまだですのでエストレア先生にも大分助けてもらいましたが」
土魔法専攻教師だけあって、エストレア先生からは色々な事を教わった。ていうか、大分スパルタだった。
スパルタ教育は初めてのはずだが、なぜか慣れている自分が居て実はドMだったのかと不安になった時もあった。
「あれは魔装とか仰ってましたけど他属性の精霊化に似てましたわね」
「ああ、母様の
フラムがそんな事を聞いてきたので俺は質問に答える。
精霊化というのは、文字通り自分自身をその属性そのものに変える魔法だ。たとえば、炎なら母さんの様に自分自身の体を全て炎に変えるのだ。
精霊化した属性に対しては無敵だが、その対極……炎なら氷や水に極端に弱くなってしまうと言う特性はあるが、火力は抜群である。
その分、魔力消費も多いので熟練者向けとなっている魔法だ。
俺はまだ、そこまでの域に達していないのでゴーレムを纏うという結果に落ち着いたのだ。突き詰めてけば物理無効の砂人間とかになる事も不可能ではないはずだ。
砂の弱点と言うと某漫画を参考にするならば、やはり水とか風あたりだろうか。
まあ、今はまだ使えないから使えるようになってから考えよう。
「それで魔法を開発して充分な成果を発揮できるのは流石ですわね。やはり私の……ですわね」
「え?なんだって?」
フラムがセリフの途中で何故か顔を赤らめて近くに居るにも関わらず物凄い小声で喋るからつい難聴系主人公の様なセリフを吐いてしまう。
聞こえない声で喋るフラムが悪いのであって俺は悪くない……と信じたい。
「な、なんでもありませんわ!そ、それよりも随分汚れていらっしゃるのですね」
「あ、ホントだ。アルバったら凄い土まみれだね」
ヤツフサとフラムに言われて自分の格好を見ると確かに土汚れが酷い。迷宮に挑むときは汚れても良い服装でと決められているが、それでもやはり汚れがひどい。
「ああ、まあ……これは開発中もそうだったんですよね。魔法の特性上、緩衝材に土や砂を利用してるんでどうしても汚れてしまうんですよ」
開発当初、岩だけで構成して動いたら岩が当たって滅茶苦茶痛かったので緩衝材に土や砂を俺の体に纏わせてから岩の鎧を纏っているのだ。
精霊化と違って俺の体は実体なのでどうしても汚れてしまうのだ。
「ああ、なるほど。水の魔法が使える方が居ましたら軽く洗い落とせますのにね」
フラムの言葉に俺は確かにと頷く。この世界にも洗濯機に近いものがあり水の魔力を含んだ魔石により稼働している。
流石に地球レベルの洗剤は無く、石鹸を粉状にしたようなものを使っているので地球程汚れは落ちないが無いよりは格段にマシだ。
「なら、洗濯要員で水魔法の方を募集しますか?」
「あはは、それじゃただの召使いみたいで可哀そうじゃないか」
そんな感じで冗談を言い合いながら俺達は迷宮から脱出した。
その日、迷宮解禁初日組で俺達が3人パーティなのにも関わらず最速で難度1をクリアしたという噂が初等学部で広がったが、経験者のフラムが居たからとじゃね?とかいう理由で特に目立つ事は無かった。
……べ、別に悔しくなんかないんだからね!
「男のつんでれは需要ないよ、アルバ」
「アルディ、人の心を勝手に読むんじゃありません」
「はーい」
まったく、人のモノローグに入ってくるなんて。最近のアルディは段々地球のオタク文化に毒されてきてる気がする。………俺のせいか。
アルディのキャラ汚染はひとまず置いておいて、それから毎日俺達は迷宮を順調に攻略していった。
同じ難度でもいくつかあるので、難度自体はまだ3程度だが攻略数は中々の数になってきた。
難度1に関しては、魔装を使えば完全に無双が出来、ボス戦ではフラムとヤツフサ、アルディはお菓子を食べながら観戦という余裕っぷりが出るほどだった。
まあ、俺としても戦闘経験を積めるのは良いので特に気にしていなかった。
ただ、 難度が増えると流石に最奥ボスも強くなり俺だけだと苦戦するようになってきた。が、そこはそれ、他人に協力を求めることに抵抗の無い俺は素直に皆と協力しボスを撃破する。
彼女いない童貞だけどコミュ症じゃないしな、俺。まあ、敬語キャラやってると絡みやすいってのもあるが。
ちなみに、戦闘はこんな感じだ。
「アルディ!敵の足元を柔らかくして一瞬でもいいから足止め!ヤツフサさんは頭部を狙って攻撃!フラムは僕の援護をお願いします!」
俺が皆に指示をしながら、いつものように魔装で自分の体を岩で纏う。頭部に関しては未だにいい案が浮かばないが、慣れてきたおかげかこの状態でも普通に動けるようになってきている。
最初は、フラムがパーティを率いてたのだが、精神年齢が一番高い俺がいつの間にかリーダーになって皆に指示を出す役割になっていた。
パーティのリーダーにとフラムに言われたときは、そんな器じゃないと断ったがヤツフサやアルディも俺がリーダーが良いと言ってきたので皆の期待に応えるためにも試行錯誤しながらリーダーをやっている。
まあ、そんな経緯はさておきパーティの面々が俺の指示に従い各々動き出す。
「えーい!」
アルディが、地面に手をついてボスの足元を泥に変え足止めをする。ちなみに今回のボスは難度4 森林迷宮でサラマンダーである。サラマンダーと言うだけあって属性が炎なので今回はフラムには援護に回ってもらっている。
「アォォォォォン!」
ヤツフサは狼らしく雄たけびを上げ雷動を使い、サラマンダーに一瞬で距離を詰めると眉間に雷を纏った強烈な蹴りを喰らわせる。
「ギシャアアア!」
「ヤツフサさん、下がってください!フラム!」
「ええ、任せてくださいな! ……喰らいなさい!!」
眉間に攻撃を喰らい怒り狂ったサラマンダーが口から炎を吐こうと口内に炎を貯めるのを見るとすかさずフラムに指示を出し、魔砲で妨害をしてもらう。同じ属性なのでダメージは無いが衝撃自体はあるので充分に妨害効果はある。
その隙にヤツフサと入れ替わりに俺が前に出る。俺の邪魔にならない様にとフラムは射撃をやめるとサラマンダーは俺の方へ炎の息を吐き出すが俺は頭部を両手で防御しながら炎の息を防ぐ。
俺の今の体は岩なので、この程度の炎なら熱いには熱いが直撃じゃなければダメージは無い。
サラマンダーは、炎の息を吐いた後にゲームとかで言うスキルを使った後の技後硬直がある。俺はその隙を逃さず、両腕に纏う岩を増やし質量、大きさ共に増大させそのままサラマンダーの頭部に叩きつける。
グシャッという嫌な音と共にサラマンダーの頭部は潰れ断末魔を上げることなく光の粒子となって消えていく。
「……ふう。さすがに難度4ともなると中々強いですね」
俺は魔装を解除すると、サラマンダーからドロップした素材を回収する。こういう事をしてると、VRMMOが実現してたらこういう感じなんだろうなとか思ってしまう。
小説でよくVRMMOが題材にされるが現実は、まだマウスやコントローラーでカチカチ操作するタイプしかないから予想の域は出ないが。
「それでも、やはりここまで楽に戦えるのはアルバ様のおかげですわ」
素材を回収し、服の汚れを叩いて落としていると皆が近づいてきフラムがそんな事を言う。
「いえ、ヤツフサさんとフラムが頼りになるおかげですよ」
「ねー、私はー?」
「アルディもとっても頼りになってるよ」
「ほんと!?えへへー」
俺の言葉にアルディは嬉しそうに笑いながら俺の首に抱き着いてくる。
お世辞とかじゃなくアルディには本当に世話になりっぱなしだ。この魔装だってアルディの補助が無ければ実現していない。
アルディを戦闘の道具みたいに使ってるようで気が引けた俺は以前、こんな戦い方に不満を感じてないか聞いたところ。
「私はね、アルバの役に立てるなら何だってやるよ?もし、アルバが私が道具だって言うならそれでもいいと思うよ」
と、これでもかというヒロインみたいなセリフを言ってくれた。道具として使ってるつもりは無いが、アルディが居ないと現時点では戦いもままならないので協力してもらうと言う体で、これからもよろしくと言っておいた。
「アルバとアルディは本当に仲がいいね。うらやましいよ」
俺とアルディのやり取りを見てヤツフサがそんな事を言う。
「えへへー、いいでしょー。アルバと私は一心同体だからね!アルバの事は何でも分かるよ!」
「アルディさんが本当にうらやましいですわ……」
アルディのセリフにフラムが羨ましそうな妬ましそうな微妙な表情を浮かべながら言う。
「フラム?」
「へ?……あ!な、何でもありませんわよ!?」
俺の呼びかけに対しフラムは我に返ると顔を真っ赤にしてワタワタと慌てたように手をブンブン振る。
「そうですか?もし、体調が悪かったら言ってくださいね?フラムは大事な幼馴染で仲間なんですから」
3年の空白があって幼馴染と言っていいか微妙だが、フラムは俺のお見舞いをしてくれたというし幼馴染と言ってもいいだろう。
というか美少女の幼馴染とか欲しかったので誰がなんと言おうと幼馴染である。異論は認めない。
「だ、大事な!?私がアルバ様の大事な……フヘヘ」
俺の言葉に、フラムは何故か驚愕したような表情を浮かべた後、両手を頬に当ててイヤンイヤンと体を振りだらしない表情をする。
「……ねえ、アルディ。アルバって結構……」
「うん……自覚は無いみたいだけどね」
「二人とも何の話ですか?」
「な、何でもないよ!」
俺がフラムの奇行を不思議そうに眺めているとヤツフサとアルディが何やら俺の話をしてるようだったので話しかけてみるとはぐらかされてしまった。
まあ、この二人なら俺の悪口を言っているなんて有り得ないので気にしないことにする。
俺達は、未だ夢を見ているフラムを引っ張りながら迷宮を後にしたのだった。
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