第28話

「これが学園迷宮……」


 俺は今、迷宮学舎と呼ばれる校舎に来ており目の前には魔法陣と子供の頭くらいの大きさの紫色の水晶がフワフワと浮いていた。


「説明を聞いてるので分かっていると思うのですが、申請したパーティが同じ教室内に居て、誰か1人が水晶に触れば全員が迷宮に入ることが出来ますわ」


 フラムが俺の隣でそんな説明をしてくる。あれから年が明けて半年経ち、ついに学園迷宮が解禁になった俺とヤツフサはフラムと共に此処に来ていたのだ。

 最初の1年は学園内で過ごすのがルールらしく、俺とヤツフサは学園内でそのまま年を過ごしたのだ。んで、その間も迷宮を一緒に回るパーティを募ったのだが……


「え?土?ちょっと戦力的になあ……」


 とか


「そんなダサイ魔法を使う人一緒になんてなれないわ」


 とか、悉く断られた。俺のルームメイト達にも声を掛けようと思ったがそもそもあの3人は学部が違うので問題外だったのだ。

 フラムやヤツフサも他の奴らに声を掛けたがもうすでにパーティの予約をしてたり土魔法がヤダとかいう理由で断られていて結局、俺(+アルディ)、ヤツフサ、フラムの3人+αパーティのまま、解禁日を迎えることとなったのだ。


 迷宮は、複数あり初等学部用の迷宮もいくつか用意されていて踏破した数が加算ポイントという形で成績に反映される。

 また、同じ迷宮でも翌日になれば構造が変わる為、同じ迷宮をクリアしても加算されるらしい。もっとも、最深部のボスは変わらないので初回踏破よりは加算ポイントが少なくなる。

 成績は月ごとに計算されて、一定以上のポイントを持っていれば成績優秀と認められ授業の成績も加味されて飛び級となるらしい。

 実はフラムもそれで2つほど飛び級したとのことだ。この学園は実力至上主義なのでそういった面では飛び級に関しては積極的なのだ。


「結局、パーティ集まらなかったね」


 ヤツフサがそんな事をぼそりと言う。


「まあ、仕方ないですよ。土魔法はあまり好かれてませんから」


「全く!節穴な方々ばかりで困りますわ!土魔法はとても汎用性が高いと言うのに」


 俺がヤツフサに答えるとフラムは憤慨しながら口を開く。まあ、いくら汎用性が高くても、この世界では派手さ優先なのでどうしても派手という点では見劣りしてしまう。

 なのでそっち方面で成り上がるのは無しにして、戦闘面で役に立つと言うのを実証しなければならない。

 だから、この学園迷宮はその足がかりには最適だと言えるだろう。学園迷宮の難易度は分からないが経験者のフラムが居るし、なんとかなるだろう。

 

 ちなみに迷宮には1~10の難度というのがあり数字が大きい程階層が多くなり攻略難易度も上がる。自分の実力に合わせて挑戦できると言うわけだ。

 今回は、俺とヤツフサが初めてという事で全階層5階の難度1の迷宮だ。


「まあ、土魔法に関しては追々認めさせればいいんですよ。それでは時間も無いので行きましょうか」


 俺達が話している間にも他の生徒たちが次々と迷宮の中に入っていく。迷宮が解禁されると迷宮攻略が授業になり一般教科の割合が減り本格的な魔法授業へとシフトしていくのだ。


 俺の言葉にヤツフサとフラムは頷き、俺が水晶玉に触れると水晶玉は眩い光を放ち、数秒で光が収まると洞窟の様な場所に居た。

 

「この迷宮は下に下がっていくタイプですから下に降りる階段を探しますわよ」


 フラムが経験者らしくそう説明すると、前もって相談していた陣形で進み始める。

 体が大きく頑丈なヤツフサが先頭で中距離で戦えるフラムが真ん中。俺とアルディが後方から支援という普通の陣形だ。

 難度1の迷宮は、それほど凶悪な罠は無いが一定時間動けなくなるなどの罠が有り、そこへ魔物(と言っても自然発生では無く迷宮用の魔物らしい)と遭遇すると危険なので気を付ける必要がある。


灯火イグニッション


 フラムが魔法を唱えると頭上に小さい炎の球体が現れて辺りを照らす。どうやら明り用の魔法らしい。


「それでは進みますわよ」


 フラムの言葉に俺達は頷き進み始める。少し進み始めたところでミミズのような1m程の気色悪い魔物が現れる。

 どうやら俺達には気づいていないようで違う方向を向いている。と言っても顔が無いのでどっちが顔か分からないが。


「あれはアースワームですわね。視力聴力が退化していて獲物の熱源で場所を判断する魔物ですわ。炎が弱点ですので此処は私が倒しますわね」


 フラムはそう言うと腰に差している銃をホルスターから抜くとクルクル回しながら構えて引き金を引く。

 銃声と共に銃弾がアースワームにヒットすると着弾点から炎が上がりアースワームはキーキーと不快感を煽る悲鳴を上げながら光の粒子となって消えていく。

 魔物は基本、死ぬと光の粒子になって大地へと還っていくらしい。そしてゲームで言う所のドロップ品とやらを落とすとのことだ。

 例で言えば獣系の魔物なら毛皮を落としたりするらしい。まるで本当にゲームみたいだがグロ系は苦手な俺としてはありがたいので細かい事は気にしないようにする。


「とまあ、こんなものですわね。この銃の利点は詠唱無しで魔法を発動できることですので弱い魔物ならすぐに倒すことが出来ますわ」


 アースワームが完全に消滅するとフラムが俺達の方を向きながらドヤ顔を披露しつつ喋る。

 その後も、物理が効かないけどあまり攻撃力も無い『リキッドスライム』や魔法が効きにくい土の人形みたいな『マッドドール』なんかと戦い、なんなく勝利していた。


「……ふう、少し休憩しましょうか」


 2階層程進んだところで休憩スペースがあったのでそこで休むことにする。迷宮には時々休憩スペースがあり、此処には魔物は侵入できないので態勢を立て直したり休憩したりできるのだ。


 2階層だけとはいえ、罠を警戒したり魔物と戦ったりと結構精神を使うため意外と疲労感がある。とはいえ、戦力的にはフラムが居るのでダメージ自体は皆無だ。


「結構俺達バランスいいね」


 地面に座って休憩しているとヤツフサが口を開く。


「そうですわね。前衛のヤツフサさん、近~中距離の私。そして遠距離からのアルバ様で中々バランスが良いと思いますわ」


 確かにバランスは良いと思うが、やはり3人というのが心許ない。今は初等部用の難度1なので問題ないがこれが難度が上がっていけば3人じゃキツイのは目に見えている。

 やはり最大5人まで組めるのだからあと2人は欲しい所だ。


「それにしてもヤツフサさんは、とてもお強いですのね。何かやってらしたの?」


「うーん、俺の村は狩りで成り立ってるからね。俺くらいの年の奴らはもう大人と一緒に狩りをしてるから魔物慣れしてるんだ」


 まあ、狼と言えば狩りのプロフェッショナルだしな。不思議ではないか。

その後もしばらくは何気ない雑談をし、体力が回復したところで再開しようと言う事になり、俺は地面に手をつきながら立ち上がる。


「……ん?」


 地面に手を付いたところで俺は、違和感を感じ手を放すと首を傾げる。


「どうしたの?アルバ」


 俺の肩に乗っているアルディが尋ねてくる。


「いや……今なんか……」


 俺が再び地面に手を置き、先程は無意識だったが今度は意図的に魔力を流してみる。


「……やっぱりだ」


「どうしたの?」


 俺の様子に気づいたヤツフサとフラムも不思議そうな顔をする。


「僕……ここの迷宮の内部が分かるかもしれない」


「え?それってどういう事ですの?」


「僕もよく分からないですが……頭の中に地図のようなものが浮かび上がっているんですよ」


 原因と言うか理屈はよく分からないが、今確かにこの階層の地図が俺の頭の中に浮かんでいる。

 それどころか魔物の位置まで把握できている。


「とりあえず、僕の言うとおりに進んでください。多分、魔物に遭遇しないで次の階層に行くことが出来ます」


 俺の言葉に半信半疑な2人だったが俺の表情を見て冗談ではないと分かったのか黙って頷いてくる。

 

 結果として、俺の言うとおりに進んだら本当に魔物と遭遇せずに次の階層へとくることが出来た。


「すごいよアルバ!どうやったの?」


「本当ですわ。こんな魔法は聞いたことが無いですわ」


 ヤツフサが興奮気味に口を開くとフラムも感心したように話す。


「それが僕にも分らないんですよ。こう地面に手をついて魔力を流したら地形が分かったと言いますか……」


「……多分、ここは魔素が濃いからかな」


 俺も2人と一緒になって首をひねっているとアルディがそんな事をいう。


「魔素?」


「文字通り魔力の素みたいなものですわ。この世界には魔素が充満していてこういう迷宮では基本、魔素が高いと言われていますわ」


 俺の質問にフラムがそう説明した後、アルディは頷きながら話を続ける。


「うん、それでこの迷宮には地面や壁にも魔素が流れているんだけどアルバが魔力を流したことで共鳴してマッピングが出来たんだと思う。詳しいのは私も分からないけど理由としてはそんな感じだと思う」


「でも、僕は前から魔法を使うときは地面に手をついてるよ?」


「多分それは、最初から魔法を使うっていう方向が決まった魔力だからだと思う。何の方向性も決まってない魔力を意図的に流したことで起きたことなんじゃないかなって私は思うな。多分、土魔法を使える人で魔力が高いならその魔法が表に出てないだけで使える人はいると思うよ。ただ、広い場所では使えないだろうけど」


「それはまたどうして?」


「まあ、理由としては広い場所ならそもそもマッピングの必要が無いし、壁とかも無いから魔力が反射しないんだよ。蝙蝠の超音波みたいなものって考えればいいと思う」


 ああ、つまりあれか。蝙蝠の超音波で壁や障害物を判断してるっていうのと同じ理屈ってわけか。

 なんか、後ろで頭の上に?マークを浮かべている2人が居るがおそらく蝙蝠の超音波について分からないのだろう。

 まあ、この世界では科学では無く魔法が発達しているから解明されてないのかもしれない。

 説明するのも難しかったので、魔力で地形把握しているとだけ説明しておいた。


「もちろん、この魔法を使っている間に魔力は消費するし、範囲を広げれば広げるほど魔力消費量も上がると思う。今回は、ここの階層の中心にいたから次の階層まで分かったんじゃないかな」


「ということは、常に確認では無く一回の魔法である程度場所を把握して進むと言うのがいいわけですわね」


 そういう事になるな。


「それでも凄いよ!その魔法があれば迷宮踏破もずっと楽になるよ!その魔法って名前はあるの?」


「んー、特にないと思うな」


 興奮しながら喋るヤツフサにアルディが顎に手を当てて考えながら答える。


「なら、自分なりに名前を付けて分かりやすくした方が良いですね。……ここは無難に地形探査ソナーとでも名付けておきましょうか」


 俺の提案に、他の皆は同意したので新しい魔法を得た俺達は最下層を目指して進むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る