まともなチョコをもらえないのは俺のヒロインチョイスが悪い

にとろげん

いざ学校へ!

 やあ諸君。今日、2月14日は何の日かね? ……そうだな! バレンタインだ!


 何? バレンタインは聖バレンティヌスの命日であって、チョコレート云々うんぬんはお菓子会社の陰謀?

 はっはっは、確かに俺、山田チョコも去年まではそう言っていたさ。

 母親とおばあちゃんからもらったチョコを、ツンデレよろしく不機嫌に受け取って部屋で泣きながら食べていたさ。


 ……だが! そんな俺とももうおさらばだ!

 俺は女の子からチョコをもらうためにギャルゲーやラノベ、アニメ、マンガで修業を重ね、色々な女の子を攻略する方法を身に着けた! そしてこの一年をかけてじっくり自分好みの女の子だけのハーレムを作り上げたんだ!


 チョコ男なんてふざけた名前なのに一個もチョコをもらえない、なんていじられる日もこれで終わりさ。

 親に名付けの理由を聞いたら「読者に伝わりやすいでしょ?」って言われたからな。あのババア、息子の人生を何だと思ってやがる……。



 さあ、今日一日で何個チョコをもらえるかな。カバンに入りきればいいけど。


「チョコ男さん、おはようございます」


 おおっと、さっそくヒロイン第一号、やまいちゃんだ!

 黒い長髪と、タレ目が可愛いおっとりガール!


「病、おはよう。さっそくこのロープをほどいてくれるかな?」

「嫌です♪」


 あとヤンデレ! すっごくヤンデレ!

 どうしよう、ベッドから動けないんだけど! つーか俺の部屋にどうやって入ったの? トンカチ持ってるけど窓割ったの? すごい行動力だね!

 ってそれどころじゃない! 学校行かないと他の子からチョコがもらえないじゃん!


「病……俺(チョコもらいに)学校に行かないと」

「何言ってるんですか? 学校に行かなくても私はここにいますよ?」


 うーん、可愛い笑顔だ☆


 ……違う! 流されるな!

 病を傷つけずに学校へ行く方法は……。


「病、今日はバレンタインだね」

「……っ! そ、そうですね」


 おお、顔を赤らめてる。

 これは病からもチョコが期待できそうだ。


「それでな、俺さあ、学校でチョコを渡してもらえるのに、すっごく憧れてるんだ」

「そうなんですか。確かに青春っぽくてロマンチックですね」

「もし俺が将来誰かと一緒になるならさ、価値観が一緒の人がいいなあって……」


 病はヤンデレっ子で、俺のことが好きっていう感情だけで生きてる子だけど、だからこそ俺のお願いだとかは真摯に聞いてくれるんだ! ただし拒絶とは違うぞ!

 ヤンデレは愛情表現が人よりもちょっと一途で苦手なだけ。理解して受け止めてあげると、こんなに尽くしてくれる子はいないぜ!


「うふふふふ……チョコ男さんの将来のお嫁さんとして、それは聞き捨てなりません。わかりました。改めて学校でお会いしましょうね」

「ありがとう……と、その腕の傷はどうしたの?」


 ロープを外してくれる病の腕が包帯でグルグル巻きだ……昨日俺が寝るまで窓の外に立ってた時はそんな傷なかったのに。


「ああ、これは大丈夫ですよお。昨日お料理をしてる時に、ちょっと切っちゃっただけですから」

「へ、へえ。お大事にね?」

「ありがとうございます♪ でもそのおかげでたくさん魔法の隠し味を入れられました。食べたら私のことしか考えられなくなるぐらいに……」


 よし! ロープがほどけたぞ!

 それと病からのチョコは、一度神社で祓ってもらってから食べよう!


 バリーン!


 あっ、病! なんで割ってないほうの窓を割って帰っちゃったの!?

 恥ずかしかったのかな? 俺の部屋はしばらく通気性には困らなさそうだ!



 とにかく今は窓よりチョコ! 朝ごはんの時間だぞ!


「あら、チョコ男。今朝はだいぶ騒がしかったわね」

「チョコ男ちゃん、おはよう」


 母さん、おばあちゃん、おはよう!


「(オハヨウ……)」


 あとれいもおはよう! 今日もなんだか透けてるね!

 霊も俺のハーレムのヒロインだ! 近所の墓地にいた浮遊霊!

 今じゃこの家の地縛霊になってるけどな! 俺の臭いが落ち着くんだって! 幽霊にも嗅覚があるんだね!

 なんだか血まみれだし顔も見えないし足はないし全体的に透けてるけど幽霊っ子好きだもん! ハーレムにいれるよね!


「はいコレ、あんたどうせ今年ももらえないんだから、ありがたく受け取っておきなさい」

「私からもあるわよお」


 今日の初チョコ! 煽られても笑顔でいられるぜ! ありがとう二人とも!

 いくら他からもらえるとしても、家族の絆って大切だよな!


「(ワタシモ……)」


 霊もくれるのか! うん、なんだか紫色の人の顔みたいなのが渦巻いてる石だね。


「(タベルトシヌ……)」


 わお! 呪殺アイテム!

 残念だけど俺は石を噛み砕けないから、気持ちだけもらって部屋に飾っておくね! 本当は食べてあげたいんだけどね!


「(ソウカ……)」


 幽霊っ子はこっちを殺そうとしちゃうのがタマにキズ。でも、霊のおかげで他の悪霊は憑かないし、一回おばあちゃんが体から出そうになった時に押し戻してくれたんだ! 優しい! 幽霊優しい!


 ズオオオオォォォ……


 おっと、そろそろ行きつけの神社に行かないとお札が切れちゃうな! これがないと俺は霊の呪力に取り殺されちゃうんだって! 愛に障害は付き物だよね!

 病のチョコのお祓いついでにもらいに行こう!



 さあ朝ごはんも食べてお腹いっぱいだ! いってきまーす!


「あっ、チョコ男! 今日は時間通りに起きられたんだね!」


 玄関を出てすぐに声をかけてきたこのポニテの女の子は、馴染なじみ

 もちろんヒロインの一人で俺の幼馴染なんだ。


 ちなみに馴染の家は、俺の家と学校挟んで隣町。自転車で45分なんだって! 一時間未満なら近距離だよね!

 それに俺が馴染と知り合ったのは2か月前だけど、『子供の頃から知り合い』なんだし幼馴染だよな! 何より本人が言ってるし!


「おはよう馴染。なんだか今日はカバンが違うね」


 いつもと少しでも違うことに気がついたら言ってあげる! モテるための第一歩だね!


「えへへ……実はこれチョコレートで汚しちゃったんだ」


 チョコレートの染みって紫色なんだね。あとなんだか布もボロボロだ!


「ばれちゃったしもう渡すね……はい、ハッピーバレンタイン。本命か義理かなんて聞いたら幼馴染やめちゃうからね!」

「おお! ありがとう、嬉しいよ!」


 なんだか嫌な予感しかしないけど、とりあえずチョコだ! しかもなんだか金属の箱に入ってる……装飾が凝ってるなあ!


「あっ、その箱イリジウムだから普通に捨てちゃだめだよ!」


 イリジウム? 融点が2500℃近いレアメタルだったと思うんだけどよく加工できたね! すごい!


「よくわかんないんだけど、普通の箱に入れたら溶けちゃってさ。不思議なこともあるもんだよね」


 うーん、王水か何かかな!? まあイリジウムを加工できるんだし、チョコレートを作ろうとして劇物ができてもおかしくないよね! ノーベル賞とれるよ!


 幼馴染キャラは、友達や家族や恋人の微妙なバランスの上に立ってるアンバランスさが魅力的だよね!

 メシマ……料理が苦手なのも、不器用で可愛らしい! 調理実習では陰陽師を呼ぶハメになってたね! 強力な式神が増えたって喜んでたよ!


 馴染のチョコを食べる前に強アルカリ性の液体を探さないとなあ。化学の成績が上がりそうだ! ありがとう!



 よーし、まだ1日は始まったばかりだ! まだまだ行くぞ!

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