漆滴:死血 - Hemostasis -
※ ※ ※ ※ ※
「なっ、何とおっしゃいましたか、ダキーラ
散策から舞い戻った
挾間田デス――
そう、
「ソンナニ驚ク
「其れと
「其ノ儘ノ意味ナノデスガ~、
「說明、です。私共の
睡眠不足と重責、
何の説明もなしに協力する謂われはない。
「
世間一般で云われる
其れが
知性ある人ならざる存在をどう扱えば良いのか。
結果的に、加特力では創世記に
そんな事は分かっている。
だが、人種的差別
そんな中、挾間田の考えは過激。
敎理に
世界の理想、其の風潮、
確かに倫理的に不道徳な者達が多いのは事実だが、其れを裁くのは其の國の法で良い。否、そう
「彼等も愛される可き存在です。
「無論、愛デスヨ愛!“
「――…敎義が赦しても法が其れを赦しません。
「ワタシハ法ニモ赦サレテイルノデス」
挾間田が
「…何を根拠に――!?」
クリアケースに収められた其のカードは、
谷山は知っている。
確か…――
――
併し、何故、挾間田が殺人許可証を所有しているんだ。
是は、危険過ぎる。
「谷山神父。
只、事實ト為テ
「――…少し、考えさせて下さい。助任司祭や協力司祭、信徒達とも協議が必要です」
程無く、敎會は血に染まる。
望まざるとも。
――千葉
――トントンッ!
扉をノックする音に反応する素振りも見せず、
「失礼します、蓼丸
千葉縣警察部本部
4~6名程での使用を目的とした六畳間だが、
現在、
丁度、
千葉市内
そんな
世良は優秀、仕事も早く、
そんな
訪問者の顏を見るなり、蓼丸は
半目という程、閉じる訳ではない。
眼球上部に多少、圧を加える、その程度の
此の微妙な表情の変化に気付く者は、
記憶を辿る時、蓼丸がする
――
「
「ご挨拶が
「ご丁寧にどうも。蓼丸です…確か、大學の後輩でしたか、ね?こちらこそ、宜しくどうぞ」
共同搜査本部の顏合わせの時には会釈程度だったのに、何を殊勝な態度を。
“探り”にでも来たのか。
「警視の書かれた卒論『固有現実想像域と具象化に
「…
卒論、か。
古い“もの”を持ち出して来たな。
調べ上げて来た、と云う訳か。
其れにしても、だ。
思想
「科學的、物理學的、生物學的他、理系的なアプローチは多く見られますが、
「學生時代の世迷い言、ですよ」
「參考迄に、警視にとって異類異形や異能とは、どの
「法の下で
「流石は警視、洗練なされた都會的なお考えに、感服致しました」
俺を試してる、な。
いいだろう。
そっちが其の気なら。
「
「
「
「司法に在る身ですから僕自身の見解は法的見解と一致しております。
「…成る程。
――ふんっ。
“探る”相手が悪かった様だな。
ガキが俺の相手になるとでも思っていたのか。
「――はい、警視のお考えに近しかった事、大變
「!?…ええ、分かりました。終業後、
「はいっ!お供させて戴きます」
何だ、此奴は。
まぁ、いい。
――千葉中央警察署刑事課
「
普段であれば同フロアにある喫煙室で一服するのだが、永江は非常階段に足を向ける。
普段、職員達があまり使わない屋外喫煙所を選択した時点で鈴本は
「永江さん、
いつもの
十分に
二度、煙を楽しむと思い出したかの様に答える。
「宗敎屋の云ってた
永江は上着のポケットから無造作に紙を取り出し、鈴本に手渡す。
目撃例は全て手書き、実に永江らしい。
決して上手い訳ではないが、読み易い字。
其の見慣れた細かい文字を斜め読む鈴本。
「どうだ、“引っ掛かる”のはあったか?」
ジッポーの
「そうですね――
――少女一人で目撃されたものは、無い、でしょう。あっても
二人以上。少女他、誰かと行動を共にしている
「そうだな」
「同行者が
「成る程、な」
ジッポーの
「
「ん?」
「少女に
永江は眉毛を
「
誘い出しておき乍ら、永江はさっさと一人で喫煙所を後にする。
仕事となると無邪気な子供
倂し、
鈴本は一人静かに煙を吐く。
――千葉市中央
深夜にも関わらず通町公園には人が
道を
色取り取りの
挾間田は
――
コンパクト、9mmパラベラム
此のご時世、護身銃の一つや二つ持っているのが当たり前、勿論、谷山も所有しているし、持ち歩いている。
銃
勿論、對人用としても護身に使えるが、
挾間田
挾間田の援護目的には決して使うな、と。
素人の援護射撃は返って危ない、そう語った。
挾間田がクラブDOOMに目を付けたのは、特別な“何か”が此の店にあるからではない。
吸血鬼や山月鬼他、亞人や
谷山が同伴を承諾したのも、挾間田に
谷山自身は亞人
同樣に夜な夜なクラブに通う者やその場所に
聖職者とはいえ、
「谷山神父。本日ハ此ノ公園
「此處ですか、ダキーラ神父!?店の中ではなく?」
「此ノ公園ニ居ル者ハ皆、
其レニ、
客で混雜返しとなった店内で何か起これば避難出來ない。
挾間田と云う男、血の氣が多い割に意外と周りが見えている。
「谷山神父、オ下ガリナサイ。見付ケマシタヨ、呪ワレシ
「えっ!?」
公園に
にも関わらず、早くも見付けたというのか、吸血鬼を。
其れが何者かに
一般に、吸血種は專用の輸血パックを
前者は法を遵守する吸血種として
吸血種は子孫を
無論、是は法で禁止されており、
法で禁じられている上、生理學的に必須と
其れが、稀少種、とされる
そんな稀少な存在である吸血種、
少なくとも、
精々、
公園内
一見、普通にクラブに遊びに來ている派手な若者、其れくらいの印象。
其の若者
「君達ッ、キ・ミ・タァ~~チッ!」
「ン?なンだ、オッサン?」
「
派手で
「あっ??牧師か?」
「其レハ
「だーかーらー、オジサン、
挾間田は互いの腕を
閒もなく、
「君達、
「あぁン?
ツーブロックの
「どっちにしてもヤベーおっさんだ。離れようゼ」
「待チナサイ君達。神ヲ信ジルノデアレバ“オ
――ボグッ!
背後から木製の角材で
若者達の仲閒と思わしき刺靑
「おい、コイツはキチガイだ。さっさと店に戻ろうぜ」
挾間田は
「神父ヘノ
挾間田が兩の
其の
振り向き
蹴り拔いた左足が男の頭上に達すとインサイドを下げ、膝を内側に
挾間田の靴底は男の膝上に叩き落とされ、見るも
ぎゃあああああッ!――
膝を
突然の荒事に公園内に居た者達が興味を抱き、
――
谷山は聞いた事がある。
18世紀中頃、
第255代
敎皇領を奪われ、法迪坎の囚人として苦難に在った中、
倂し、挾間田の披露した
膝を碎かれ
挾間田の靴先のナイフで切り裂かれた男の頰は、丸で紙片が
「なっ、何なんだ、コレはっ!?」
「
10
「ばっ、馬鹿な!?銀アレルギーでこんな事になる筈がない!」
「アァ~、其レハ
ハッハッ~ッ、
顏面を焰に包まれた瘦身の男は閒も無く頭蓋骨を
動かなくなった其の體を徐々に焰が包み広がり、灰にして行く。
「てっ、てめぇ~!ブッ殺してヤル!!」
オブジェ近くで屯していた若者達が一齊に挾間田に襲い掛かる。
吸血種の
谷山の目では
倂し、挾間田は
ナックルの銀爪を突き立てられた吸血鬼は、先程の男同樣、焰を吹き上げ顏は炭化し、絶叫を上げ乍ら崩れ落ちる。
仲閒がやられても激高する吸血鬼達は襲うのを止めはしない。
手の爪を猫科の其れの樣に伸ばし、挾間田を切り裂こうと
挾間田は
燃え上がる掌を握りしめ苦痛に
サイドから
余りの
立て
仲閒と
七人もの吸血鬼が居合わせた事に驚きを禁じ得ない谷山だったが、其れ以上に挾間田の
不意に、吸血鬼の男女が各々別方向に逃走を
挾間田は手にした十字架型ナイフの中心部に在る装飾ボタンを押すと、十字の四方から刄が飛び出す。
そのナイフをサイドスロー氣味に投げ付けると、
走り乍ら男女の頚から焰が上がり、間もなく炭化し、崩れ落ちる。
殘る一人となった金髮の吸血鬼は腰を拔かし、電子煙草を口許からぽろりと落とす。
「た、助けてくれ……」
挾間田は金髮の男に顏を近付け、滿面の笑みを浮かべて答える。
「素直デ宜シイ!ワタシハ正直者ガ好キナノデスヨ。
今ナラ正直ニ答エル事ガ出來ルデショウ。貴方ハ神ヲ信ジマスカ?」
「……も、勿論!信じる、神様を!だから、助けてくれ!」
――ベロン!
吸血鬼の頰を其の大きな舌で舐め付ける。
うわぁっ!――
突然の予期せぬ行爲に吸血鬼は表情は引き
挾間田は眉閒に
「嘘ッ!嘘ヲツイテイマスネ、貴方ッ!」
「!?ウソじゃない!本当だ、信じてくれーっ!」
「
「…助けて……」
「デハ、神ノ奇蹟ニ
挾間田は
「是ハ
倂シ萬ガ一、此ノ死血劑ニ耐エル事ガ出來タノデアレバ、其レハ正ニ奇蹟。神ノ慈悲ニ他ナリマセン。貴方ノ命ヲ奪ウ事ハ
「……」
アンプルを高々と揭げ、
「サア、神ニ祈リナサイ!ア~、ユゥ~、エェェェ~~ィメェェン?」
アンプルを直接、男の鎖骨頭付近に突き立てる。
――ギャッ!
突き刺さったアンプルの先は碎け、
眞っ赤な鮮血は直ぐに
一瞬の硬直の後、
吸血鬼は
「
「
「…店内を見ずに歸って宜しいのですか?」
「一匹逃シマシタガ、マア、他愛モ無イ劣等種ナノデ放ッテオイテモ良イデショウ。
其レヨリ、騷ギヲ聞キ付ケタ警察ニヨル
「そ、そうですか…」
明らかに常軌を
否、
谷山は挾間田の後を追い、早々に公園を後にする。
其れにしても一つ、氣になる事がある。
何故、
一人逃げた、と云っていたが、そんな人物の存在には全く気付かなかった。
「
「ハーッハッハッハッハーッ!
ゾッとした感情を押し殺し、敎會への
夜は未だ長い。
夜道は暗く、見通しは利かない。
自分達の運命にも亦、見通しが利かないとは、此の時は思ってみなかった。
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