參滴:惡魔の契約 - Pacta Sunt Servanda -
※ ※ ※ ※ ※
――
特異点爆発(SE:Singularity Explosion)以降、
当初、
大日本帝國には民間主催の
現在では大晦日にテレビ各局で中継される程の人気を博しており、臣民的娛樂の一つに
風紀振肅社会が全世界的に進められているにも関わらず、
一つ、内乱や紛争の多発や政策への反対他、辟易とした社会への
一つ、暴力に因る社会不安を取り除く為の
一つ、世界人口増加に因る食糧不足解消目的の
一つ、特異点爆発に因る遺伝子欠陥種等、
一つ、非合法組織や脱税者からの税収間接徴収と経済効果。
一つ、人材発掘調査と生体実験素材確保。
一つ、危険人物や違法技術、魔術、薬物等の発見と調査対象。
其の
人間は本能的に
倫理と法と
そうした人間心理の奥深くに有る
惡魔は、人の心にこそ
その惡魔の
――
此の手の服しかない。
ゴスロリ、と云うんだっけか。
妹の好む服装、其の傾向、そして、傾倒。
はっきり云って俺には良く分からない。
黒を
併し其れでいて少女趣味的。
よく遊んでいた人形と同じ様な服を欲しがっていた。
其れを考えれば、
もしかしたら、妹なりの叛骨と愛情が“是”に現れているのかも知れない。
良く分からない。
良く分からないが、今は其れさえ
其の少女、クローディアに妹の服を渡す。
只、何となくだが彼女には、其れが似合いそうだ。
少女は目を丸くして装飾華美な衣装をまじまじと
生地の触感を確かめ、
何故かクンクンと鼻を近付け、匂いを嗅ぎ、舌先でチロッと舐める。
未知なるモノを品定め
人がそうすると云うよりは、仔犬や仔猫がする仕草に近しい。
奇妙な感覚。
「…ヴィクトリア
少女は日本語をほぼ完璧に理解でき、喋る事も出来る。
只、
知識や情報として備わっているが実際の使用例が少ない、或いは、ほぼ無い、そういった印象。
「気に入ってくれたのかい?」
「君ノ妹ハ、
「気に入ってくれたのなら良かった…」
妹の服を無断で貸す、というのは複雑。
併し、是しかない上、今、妹は是を身に
妹だって、着てくれる者が居てくれた方が喜んでくれる筈。
――ん?
妹。
今、彼女は確かに“妹”と云った。
本当に
超感覚的知覚(ESP:Extrasensory Perception)の類だろうか。
俺には“無い”能力。
俺は――無能。
無かったからこそ、親父から
妹がこんな目に遭ってしまったのは、俺の
なんて、俺は無能なんだ。
「ドウダ君、
――美しい。
特徴的なゴスロリ衣装の所為か、妙な不安感を煽るものの、実に品がある。
幻想的で神々しく、何処か背徳的で退廃的。
バロック的な画法で描かれた
色彩変化が少ない、その所為だろうか、矢鱈と
白過ぎる肌に透ける様な銀髪、僅かな金属光沢を放つ白い瞳に黒を基調したゴスロリ衣装。
現実の雑味に満ちた色彩の中にポッカリと開いた
差し色の赤と
暫し、目を奪われる。
「――…う、うん…凄く、似合ってるよ…」
「
「…ぁあ、こっちだよ」
築百年になろうかという安
三部屋ある内、その一番奥の部屋、
安い組み立て式の
今、容態は安定している。
時折、苦しそうな咳をするものの、一見、深刻そうには見えない。
併し、彼女の体を
心拡大と収縮機能障害を齎す心筋の病気で、原因不明なものを特発性、遺伝子バリアントによる評価で近親者が二名以上いる場合には家族性と診断される。
妹の症例は、遺伝性と非遺伝的要因の複合例で国内では初めての症例。
実はお袋が拡張型心筋症で亡くなっている。
お袋は、仮称魔力性拡張型心筋症という病。
非遺伝的、後天的な要因、其れも特殊な魔力に因る影響と診断された。
妹が発症した心筋症が全く同質であった為、遺伝的、且つ、魔力を起因とした症例と認定された。
特異点爆発以降、魔力に起因した免疫障害が引き起こされているが、是に有効な治療法は
心臓移植や遺伝子治療は凡そ、成果が見られないと
是は別の魔力性症例の治療において移植手術や遺伝子治療に効果が見られない為、そう推測された。
魔力起因の心筋症症例とその治療法が無い為、人工心臓が唯一効果のある治療だと考えられている。
特異な症例である為、大學や医療センター、著名な醫師達は無償で治療を行うと提案してきたが、研究対象として一生外に出られない条件が何処も同様に提示されていたので断った。
妹は、
少女はベッドに横たわる妹を
「
「――よく分かった、ね…」
「治ス事ハ出来ナイネ」
「……」
「デモ生カス事ハ出来ル。君ガ考エテイル機械ノ心臟ニ置キ換エル方法モ其ノ
「うん、今の処、是しかないんだ」
「デ、具体的ニ君ハドウスル
妹の寝室から居間に移動し、少女に手招きする。
テーブルに置かれたノート型パソコンのスリープを解き、モニタに映ったウェブサイトを指差す。
「
サイトには殺戮士募集の広告が載っている。
其処には魅力的な賞金額が表示され、誘っている。
少女はモニタにちらりと視線を落とすが、表情を変える事なく話を続ける。
「
「云っても分からないかも知れないけど、うちの家系は、とある剣術の宗家なんだ。なので、幼い頃から親父…父親に技を仕込まれたんで、少しくらいは戦える筈なんだ。
以前から何度か考えた事はあったんだけど、妹の世話をしなければならないから出られなかった。
クローディア、君が助けてくれるのであれば、俺が怪我を負っても俺の代わりに妹の面倒を看て貰う事が出来る」
僅かに少女は表情は曇らせる。
「君ハ何カ勘違イヲシテイル
其レニ剣ヲ習ッタト云ッテイタケド、此ノ家ニハソモソモ剣ガ無イデハナイカ」
刀は
生活費と妹の薬代、お袋の葬儀代を捻出する為に売らざるを得なかった。
そもそも、何かを犠牲にして迄、持っておく程の価値、否、意味はなかった。
「妹の面倒を今迄通り俺が看るとなると…心謎解色絲鬭には出られない……五体満足、怪我無く、常に勝てるなんて流石に思っていない…」
負ける
だが、無傷で勝てるとも思っていない。
俺が死ぬだけなら其れでいい。
併し、俺の死は妹の死に直結する。
妹は誰かの手によって世話されなければ生きては行けないのだから。
「着想ハ惡ク無イ。貧困層ノ少年ガ大金ヲ稼グ事ナンテ非合法ナ
「ああ、うん」
「デハ、君ノ代ワリニボクガ心謎解色絲鬭ニ出ヨウ。召使イノ生活ノ面倒ヲ
「ええっ!!危ないよ!」
「ヤハリ勘違イシテイルナ?ボクハ君ガ千人
「…そ、そうなんだ…」
「デ、是ガ重要。君ヲ資金的ニ扶ケル代ワリニ、君ハボクニ“血”ヲ提供スル事。普段デアレバ血ハ一滴アレバ十分」
「――ああ…」
――血。
そうだった。
少女は“
メディアでしか見た事はないが、吸血鬼の身体能力が凄まじいのは知っている。
あれ程の疵が一瞬で消え失せ
この少女を見掛けの儘判断してはいけない。
併し、余りにも愛くるしい其の姿に、妹の姿が重なってしまう。
似ても似つかぬ容姿なのに。
「ソール!」
「!?」
「君ノ名サ。
天道ッテ此ノ國デハ
「…俺は君を何て呼べばいいの、かな?」
「忠誠ハ態度デ示セバイイノデ別ニ敬称ハイラナイ。其ノ方ガ自然ニ見エルカラ。
クローディアデモ、クレアデモ、ディアデモ、ディディデモイイ」
俺は少し考え、
「――クロ、ってのはどうかな?」
「…クロ?」
「今君が着ている服の色も“
「…君ノ瞳ノ色モ黑。君ノ瞳モ美シイ」
「あぁ、是は日本人なら、と云うより
「……ソウ…」
少女は口を
何か
テーブルに置かれたPCを覗き、タッチパネルを操作する少女。
暫し沈黙が続き、モニタの光源だけが色取り取りに変化する。
軈て彼女はモニタから指を離し、1つのウェブサイトを指差す。
其処には『船橋若松劇場』のサイトが映し出されている。
「
「ちゃんと見て確かめてみてからのがいいよ!もっと近場にも
「――君ハ何モ分カッテイナインダナ。
「あっ!?」
「ヒッソリト、
「…わ、分かったよ」
注意力、否、配慮が足りない事を痛感した。
衝撃的な少女との出会いから此処に至る迄、夢でも見ているかの様で、地に足がついていない、そんな感じ。
もう、昨日迄とは違う。
そう、俺は彼女と、其の
平常ではいられない。
そんな事くらい気付いて
心臓がバクバクする。
不安と恐怖からなのか、それとも心躍っているのか、どちらに起因した鼓動の早さなのか分からない。
脈打つ様が、心音が
俺の焦りを
モニタ色に染まる彼女の横顔は、妙に神秘的。
其の超然とした少女の表示を見て、俺は“覚悟”を決めた。
船橋に発ったのは翌日の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます