妄想帝國断罪乙女 - Sadistic Gothic Lolita's Virgin of the Vendetta -
武論斗
プロローグ † 告解 †
「キミモ
――
皇紀2700年代初頭に
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
キャパ700程度の、ドールハウスとしては珍しいプロセニアム形式。
今夜もまた満員御礼。
何も
其れ程に『
何処のドールハウスでも同じだが、血の臭いを
なので、体の弱い方には、
MCの声が会場に
「紳士淑女に
其れでは本日のメーンイベントッ、負けたら即火葬、お客様全員が本日の葬儀の列席者、故人となるのは是から決定、“
客席は熱気に
まるで熱帯地方の
期待と興奮、狂気と本能とが入れ混じる、何とも云えない雰囲気、正に
「賞金額は
存分にお賭け下さいませっ、
――うおおおおおおーっ!
観客は薄汚れた圓天札を頭上に掲げ、激しく振るう。
「
なんと、本日がデビュー戦!
華麗なるデビュー初戦で
――入場テーマソング。
狂った殺人ショーにもエンターテイメント的演出は必要不可欠。
ノンフィクションをフィクション化して魅せるのが、
矢鱈多めに
舞台の
まるで自ら光を発しているかのような輝く
ボリュームのあるショートで前髪は左下がりの斜めにパッツン、両サイドを三つ編みにし、胸元迄垂らし、黒いヘッドドレスを着けている。
透き通るような
その幼い端正で秀麗な顔立ちに大きな
小さく
物々しいチェーンソーの2ストロークエンジンのアイドリングが、その小悪魔の鼓動を代弁する。
「皆様、お待ちかね!
目を凝らして見て下さい、あの
激しいものの、やけにポップな楽曲の入場曲。
それに合わせ、観衆のボルテージが一段上がる。
その剃り上げられた禿頭には、女性器を
ギリシャ彫刻の
丸太の如き腕に握られた
舞台中央奥に控えていた
「両者中央に!」
少女と大男が舞台センターに歩み寄る。
「ルールチェックだ。
ファイト中のトークはいいが、あまり長いと指導する。指導が2つで警告、警告2つでスナイプだ!
アグレッシブで最高にエキサイティングなファイトを!Okey?」
大男と少女は軽く
それを確認して行司がMCに向かって
「両者揃いましたね!さぁッ、それでは参りますっ!狂乱の宴、
The Time of Last Judgment! Final Showdown, Decide the Destiny of Deicide!!」
――ウゥーーーーーゥッ!
巨大なサイレンの音が会場を包む。
まだ、サイレンの音が止み終わっていないにも関わらず、ウォーハンマーと呼ばれるこの劇場の殺人王者は、手にした
「
おめぇーは、
もし、モノホンなら、テンションぶち上がんゼッ!!」
「ボク?そうだネ、ボクは…“
「チッ!
なら、用はねぇ~。云っとくが
まぁ、その前に充分
「オジ
「上等だッ、
――ゴッ!
人工筋肉の織り込まれたウォーハンマー,の
余りにも速い振りに、巨大な戰鎚のハンマー部はブレて残像を残す勢いで
戰鎚が
少女という的を失った戰鎚は舞台床を砕き、
「ほ~う、ラッキーだったな小娘。
俺は半殺しにした奴に、
小娘、てめぇーで丁度100人だッ!その人形みてーな綺麗な面を小便で汚してやんぜ!ぶぁーっはっはっはーっ!」
少女は
「お口を閉じて欲Cな…クサくて、臭くて、
「ほざけっ…ブッ
ウォーハンマー,の両腕の人工筋肉が膨れ上がり、
「
――ボッッッ!!
少女との距離は150cm足らず。
そんな間合いの中、戰鎚のスイングトップスピードは時速350kmに達する。
最早、
が、しかし、少女は躱す。
猛烈な反射で
「!?ど、どうなってやがんだ!!?カタカタ動きやがって!」
「
「…フン!チョロチョロ避けんのは得意かもしれねーが、そんだけじゃ俺を倒す事はできねー!
俺の皮膚にはパラ系アラミド繊維超硬度ケブラーを編み込んである。チェーンソー如きで俺を傷付ける事はできねぇ~!!」
「どう…かな?ボクの
少女はカタンと右腕を上げ、チェーンソーを軽々と掲げる。
スロットルレバーを引き、回転数を上げ、
――ウォーハンマー,は
(フンッ!来やがれ!受け止めた瞬間、カウンターで
チェーンソーのガイドバーを高速回転する塾生金剛の無数の刃が各々
まるで光の
――ハッ!!
楕円の光輪が一筋の流れ星の如く尾を引いて横一文字に
(あっ、熱い!体の中から、腹の
小娘の右腕に握られていたチェーンソーは確か、俺から見て左側で轟音と光を放っていた、気がする。
何故、今は右側に見えるんだ?
小娘の右腕は、
肉眼で目視しているのに??
どう云う事だ???
(熱い、熱い、
口に手を
下目遣いで手を
ギョッ、として下を見やると、
「ご、ゴフッ、ごふぅ、うっ…ウゲェーッ!!?
――い、いつの間にィ…ぃ、ぃ、ぃ、いでぇ~~~っ!」
激痛に
「ばっ、化物……」
その姿を見て、少女はクスクスと惡戲っぽい笑みを浮かべ、
「うふふ、オジSAN!おじ
――
「…ま、待ってくれ……たっ、助けてくれ…」
少女は厚底な黒エナメルの編み上げショートブーツでウォーハンマー,の禿頭をぐりぐりと踏み付ける。
前開きのコルセットオーバースカートを
それは決して
「クスッ、オジSAN。
オジSANの代わりに、ボクが
チョロッ、チョロ…
――シャァーーーッ!
観客席からは何が起こっているのか良く見えない。
土下座にも似た
舞台照明に照らされ、少女の
「ガッ、ガボガボッ…た、たすっ、助けて…」
「
――そう……全部、
「ゴッ、ゴボ…」
力無く
「ゴボッ――ゴクッ!ゴキュゴキュ、ゴクン!」
少女の表情から笑みが消え、無表情に戻り、僅かな
「―――氣持ち惡い…」
――ドンッ!!!
ウォーハンマー,の禿頭が其の巨軀から切断され、放物線を描いて吹き飛び、舞台袖近くに転がる。
切り離された胴体の頸から爆発したかの様に
黒を基調とした少女のゴスロリ衣装は、血液を浴びて益々黑く染まり、彼女の肌と髪は
少女は
血の雨を浴びる彼女は紅潮し、微かに血色が良くなったかの様。
その短い銀髪の毛先は僅かに桜色を帯び、仄かな赤みを伴ったグラデーションを描く。
尤も、
――それにしても、マズイ…
こんな
ボクは、ボクは、“弱くなった”。
否、元から弱々しい存在なんだ。
孤高でなくなった時から至高ではなくなった。
玉座を失ったボクに、ナニが出来るのだろうか?
今、
ボクにはアレが、アレにはボクが、
進まざるを得ない、ロマンティックで甘美な
其れが
こんな、まるで、人間の様な
本当に、―――氣持ち惡い…
僅かの沈黙の後、少女は目を見開く。
――うぉおおおおーーッ!クローディアッ!クローディアッ!クローディアッ!
観衆の声援。
何とも移ろい易いものだろうか。
ついさっき迄ウォーハンマー,のみを応援していた者共が、厚顔無恥にも
頭痛がする、吐き気がする。
何より、気分が悪い。
さっさと戻ろう、ボクの“太陽”の下へ。
行司の制止も聞かず、少女は舞台を後にした。
──THEATRE110564の楽屋裏
MCの勝利者インタビューを無視して、少女は早々に舞台袖に引っ込む。
舞台とは打って変わって薄汚い舞台裏。
名も知らぬ
死傷者が引っ切り無しに往来するのだから
間もなく楽屋。
嚙み合わせの悪い鉄扉は、すんなりとは開かない。
カチャガチャと数回ノブを捻っていると中から扉が開け放たれる。
その狭い楽屋の中には、高校生くらいの少年が一人。
「クロッ!お帰り!」
この時代、こんな場所に似付かわしくない、自棄に爽やかな印象の少年が微笑んでいる。
併し、少女の
「ち、
少年は少女に駆け寄り、その小さな体を両手で支える。
一瞬、少女は硬直したが、間もなく少年の腕を振り
「――き、気安く触るなヨ!ボ、ボクなら平気サ。
それより
「勿論、覚えてるよ。でも、今はそんな事を云ってる場合じゃないよ!」
「平気って云ってるでしょ。傷一つ負ってないヨ」
「ほんとかい?」
「うン、本当だヨ」
「嘘だよ、そんな
人形宛らの無表情、それだけに端正、極端な迄に
その美しい眉頭、眉間に僅かな縦皺を寄せる、否、寄せていた、無意識に。
「……」
「何かあったの?」
「“
少女は
少年のハッとした表情。
ボクが“ヒト”なら、恐らく、其れが“好き”と云う感情で言い表されるのかも知れない。
でも、ボクは“
何もかも…只、今は――。
――
少年の唇に少女の青いリップが重なり、
少年は顔を赤くする。
少女の体温は低い。
ひんやりとした少女のリップに少年の体温が徐々に伝わる。
熱伝導、ではない。
感覚、だ。
束の間、少年の下唇を
少年はちくっとした痛みに、思わず片目を
少女も
――コレ、だ。
ボクが欲しかったのは、やはり“是”だった。
知ってはいた。
理解はしているんだ。
でも、こうして実感する迄、
ボクがボクであろうとすればする程、ボクはボクを否定しなければならない。
なんてボクは、――イラナイ
こんな下らない想いに馳せる、そんな今を信じられない。
少し。
ほんの少しだけ…
「…だ、大丈夫かい?」
少年の声に反応し、その魅力的な大きな目を見開き、少女は語気強めに言い放つ。
「大丈夫に決まってるでしょ!早く
そうだ、その前に賞金を取って来なさいヨ!早くッ!!」
手近にあったクマの縫いぐるみを少年に向かって投げ付ける少女。
――ぽふっ。
顔に当たって落ちかけた縫いぐるみをそっと受け止めた少年は、優しく声掛ける。
「分かったよ、クロ。貰ってくるから、その間にシャワーを浴びて、着替えておくんだよ。新しい服はクローゼットの中に入れてあるから。汚れた衣装はそっちのバッグに入れておいて。
ドレッサーにお菓子置いてあるから後で食べるんだよ。シャワーを浴びてからだからね。先に食べちゃ駄目だよ。綺麗にしてからだ。
それと、ちゃんと部屋の鍵を掛けてね」
「分かってるわヨ!早く行きなさい!」
少年は頷き、慌てる様に楽屋を出る。
薄暗い廊下を主催者の楽屋目指して歩み出す。
楽屋迄聞こえてきたさっき迄の
静寂のオノマトペが脳内に思い浮かぶ程。
――それにしても。
彼女は、なんて“儚げ”なんだ。
泣いている。
でも、分かるんだ。
彼女の其の唇が触れると、彼女の声無き声が聞こえてくるんだ。
助けて――、と。
1つお願いがある。
時間が許すのなら、俺と彼女の出会いを聞いて欲しい。
面白くも、楽しくも、痛快でもない。
でも、誰かに聞いて欲しいんだ。
居たたまれない。
俺が
でも、それは許されないから、聞いて欲しいんだ。
聞き流すだけでいいから。
只、是だけは覚えておいて欲しい。
――他言無用。
君が、君とその大切な家族と友人達が、
そうでないと、“奴等”に気付かれる。
憲兵や
俺と彼女の出会いは、そう―――…
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