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「誘っておいて何だけど、時間、大丈夫なのか」

「ん。んー、まぁね」

 誰かと待ち合わせって感じでもなかったから誘ってみたけど、孝宏の表情からはあまり情報が読み取れない。買い物にでも来ていたのか。

「諦めていたとこだし、丁度良かったかも」

「諦めていた?」

 何を? 

「偶然会えること」

「は?」

 どゆこと? 誰に、何に会おうと思っていたわけ?

「好きな人」

「好きな人っ?」

 そう言うのもサラッと言っちゃうのか、お前は。

「なになに、好きな人の事待ってたの?」

「やめて、ニヤニヤしないでキモイ」

「キモイって言うなっ」

 おっさんだってぴちぴちの恋バナ聞きたいんだっ!

「そうだよ。偶然前にここで会ったことがあったから、もしかして今日も会えるかなって思って」

「健気だねぇ」

「言っとくけど、わざわざ来たわけじゃないからね。用事のついでに寄っただけだから」

「本当かなぁ」

「僕が嘘つくとでも?」

 思わない。そう言うとこは一貫して素直だから。だから全部本当のことなんだろう。

「だいたい何もないのにここまで来ていたら、僕ストーカーみたいじゃん。絶対そんなことしないし」

「そうだよな。でも、こうやって久しぶりに孝宏にも会えたし、俺は嬉しいよ」

 ニッとしながら挽きたてのコーヒーを振る舞う。孝宏は小さく「いただきます」と言って口にした。甘いものは苦手だけど、茶菓子にクッキーとか出したら食べるだろうか? 昔からあんまりお菓子を食べている姿を見たことないけど。

「貰い物だけど、クッキー食べるか?」

 戸棚を開けながら言うと、背中から返事は返ってこない。どうした、いらないのか?

「想太さんって格好いいね」

「え? おいおい、急にどうした。そんな今更な事言うなよ」

「別に」

「なに、小遣いでも欲しいの?」

「いらない」

「いらねーのかよ」

 すいっと視線を外した孝宏は何事もなかったように、カップを傾ける。

「まったく、孝宏は可愛いなぁ」

「可愛くない」

「可愛いって」

「・・・可愛いのは、嫌だ」

 視線を合わせないままそう言った孝宏の表情は、いつも見る大人びた表情よりずっと幼く見えた。

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