時計の針は進まない
カゲトモ
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「ふぁ」
久しぶりの暖かさについ気が緩む。温かいと言ってもマフラーは手放せないのだけれど。
最近ずっと雨やら雪やら寒気やらで縮こまりながら外を歩いていたけど、今日は気が緩むくらいには暖かい。さすが暦の上では春なだけはある。と言ってもまだ冬は続くのだろうけど。
「んー、うま」
サクラ味の食べ物ってちょっと独特の風味があって好きだ。桜餅とか葉っぱまで食べる派だし。どちらかと言えば道明寺粉を使った関西の方が好きだ。
コーヒーショップの新作を一口飲んでアーケードへ向かうと、入り口の近くでバチンと目が合った。そこに在ったのは久しぶりの顔だ。
「孝宏じゃん、久しぶり」
片手を挙げて駆け寄ると、彼はこちらに身体を向けて小さく頭を下げた。
「こんにちは、想太さん」
相変わらずリアクションは薄い。顔はニコリともしないし、声に抑揚もない。ぴちぴちの高校生だと言うのに。
「背、また伸びたな」
「成長期だから」
「俺より高い」
「別に身長が高くても何も得しないし」
まぁそういう所が孝宏らしさか。
「どうしたんだ、こんなとこで。デートか?」
「違う」
孝宏は俺が修行していたバーのマスターの孫で、住んでいるのはこの辺りでは無かったはずだ。もしかして引っ越してきた?
「俺に会いに来たとか?」
「ふ、まさか」
なんで即答してその表情なんだよ。半笑するな。
「ちょっとした用事だよ。想太さんはこれから出勤?」
「うん、そうだけど」
「ふぅん」
久々に会ったのにもう少し興味持ってくれてもいいんじゃない?
「もし時間あるなら店来るか? 大したもの出せないけど」
「え、いいよ悪いし」
「若い子が遠慮するな。茶くらい出すし」
「コーヒーが良い」
こういう奴だよ。
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