バレンタインデー

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バレンタインデー


 今日はバレンタインデー。毎年、俺の手元はたくさんのチョコで溢れ返るのが恒例になっている。今年もたくさんもらうんだろうな。なんてめっちゃ期待してます。楽しみで仕方ない。まぁ、その分お返しのホワイトデーは大変だ。


 教室前の廊下に差し掛かると、騒がしい声がいたるところから聞こえる。まだ、チョコの一欠片すら貰っていないのにも関わらず、朝から愉快な気分になっていた。


 教室の戸をスライドさせ、中を見渡す。女子生徒がチョコを交換したり、食べたりしている。


 今年は何個貰えるだろう、過去最高は7個だったっけ。そんなことを考えながら自分の席に座った。まずは隣の女子生徒から。


「あ、須賀(すが)くん、おはよう」


「おはよう」


「ごめんね、今年、思ってた以上に忙しくて、須賀くんの分余らなかった」


「そ、そうか。まぁ、謝る必要はないと思うよ」


 1人目は不発に終わった。でもまだまだ可能性は......。


「ごめんね、須賀くん、私も余らなかったよ」


「私も」


「私も」


 それに連なって複数の女子生徒がチョコの在庫不足を訴えた。


「別にいいさ、そんなに貰ってたらお返しが辛くなるだけだから」


「だよね〜よかった」


 よかった? ちょっと待ってくれ、まるでわざと余りを作らなかったみたいな言い方......。俺、嫌われるようなことしたっけ?


 過去の自分の行動を振り返ってみても、好感度を下げるような言動はない。それに......。


「そういや、由美(ゆみ)から貰った?」


 隣の席の女子が訪ねてくる。


「まだ貰ってない」


「そうなの、じゃあいいや」


 なんか見捨てられたような感覚に陥った。彼女ならくれると思っていたのだが、気づけば学校が始まって、休み時間になり、授業が終わり、瞬く間に放課後を迎えた。


 ちなみに、その間に貰ったチョコは0個。別の意味で過去最高記録であった。


 最悪な日だなと思いながら学校から出てすぐに、持っていたスマホが振動した。何かと思い、スマホを開いて受信したメールの内容を確かめる。


「『玄関前に来てほしい』って、まさか」


 急いで玄関まで引き返す。もう貰えないものだと思っていたから、余計に嬉しかった。そうだよ、なんで俺は気づかなかったんだろう。


「あ、斗真(とうま)。はいこれ。その......ハッピーバレンタイン」


 彼女から手渡されたのは小さな紙袋。そして、その中からは甘い匂いが漂っている。


 渡してくれた彼女は、頑張って笑顔を作っているつもりだろうが、緊張のせいか表情が固い。俺の顔は緩み切って、だらしないことになってるだろう。


「ありがとう、由美」


 チョコをいろんな人からたくさん貰うより、彼女から1つ貰えるだけで充分ではないか。この、気持ちのこもった1つに勝てるチョコなんて無いのだから。付き合い始めてまだ間もない僕は、それを痛感した。そんなバレンタインデー。

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