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「どうしたんですか、松本さん」

「はっ、え、あ、何ですか?」

「いえ、お飲みにならないのかなと思って」

「あっ、あぁごめんなさい、考え事を」

 パチパチと何度か瞬きをしながらグラスを傾ける。気を付けて、チェリーが落ちる。

「あっ」

 ほら見たことか。

「お気になさらず。お洋服は大丈夫ですか?」

「すみません、大丈夫です」

 恐縮そうに頭を下げる松本さんに新しいチェリーを取り出しながら訊いた。

「どうしたんですか、何か困った事でも?」

「・・・いえ何でも」

 あるだろうがい。こんな松本さん初めて見たもん。

「お話を聞くのは、得意分野ですよ」

 かろん、と新しいチェリーをグラスに落として言ってみる。松本さんは困ったように眉根を寄せて小さく言った。

「実は、逃げて来て」

「逃げて? 松本さんが?」

 そんなまさか。

「えへ、まぁその。この間お話しした年下の子から、なんですけど」

「あの、以前松本さんに告白された方ですか?」

「そう、その子」

 その子からいったいどうして逃げることに? 嫌なことでもされたのか?

「実は昨日、チョコあげたんですけど」

「ほう、チョコをお渡しに」

 予想外の展開。そう言えば気になっているとは言っていたけど。チョコをあげるまでの仲になっていたのか。

「それで、その、渡したのは良かったんですけど」

「はい」

「恥ずかしくて、つい」

 そう言ったかと思うと、バッと勢いよく両手で顔を覆った。

「だってこんなの久しぶり過ぎて。顔を合わせるのが恥ずかしくなっちゃって」

 えぇ~! なぁにこれぇ! 松本さん可愛すぎるんですけどぉ!

「でも、それを覚悟でチョコをお渡しになったのでは?」

「や、まぁそうなんですけど! 昨日は残業後にパッとあげただけだから、どうってことなかったんですけど・・・」

「けど?」

「今朝、顔を合わせたら、彼、とても・・・嬉しそうにお礼を言ってくれたから」

 今にも“プシューッ”と湯気が上がりそうなくらい、松本さんは真っ赤になっていた。おうおう、いくつになっても乙女は可愛いねぇ!

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