19 黒崎八式vsブラダマンテ・後編
二人とも同時に
原典においても、ロジェロとブラダマンテは終盤で一騎打ちをする場面がある。
もっともそれは、ブラダマンテと結婚するための戦いである。彼女は「自分より強い男でなければ認めない」と言い出し、結果として身分を隠したロジェロと戦う羽目になるのだった。
(ロジェロからしたら、ブラダマンテをうっかり殺す訳にはいかなかったからな。
丸一日、彼女の攻撃をかわし続ける持久戦しかなかったってのも、分からなくもねえ)
何とも辛抱強い話であるが、そのせいかロジェロは守戦に徹した戦い方を得意としている。
守りを固めて、敵に打ち込ませるだけ打ち込ませ――疲れて隙が出来た所を反撃するには、うってつけの戦術である。
しかしロジェロは、剣のみを携え、所有していた
「……盾は使わないのか?」
「ああ。コイツは『一騎打ちには』不向きだからな」
「そうか。ならばわたしも盾は使わん。剣のみで立ち会おう」
お互い剣を構えたまま、静かな睨み合いが続く。
「どうした黒崎殿。来ないのなら――こちらから行くぞ」
ブラダマンテは己の間合いを察したのか、突如
急に踏み込まれ、黒崎は魔剣ベリサルダの刃を合わせるのがやっとだった。
「ぐッ……!」
「ふん。どうやらきみは、こんな
単純な力比べにおいては、男性である黒崎に分がある。
ブラダマンテとて並の騎士よりは優れた腕力の持ち主であるが、今の黒崎は騎士ロジェロとしての力強さも併せ持っている。まともにやり合っては男女の筋力差で力負けしてしまうだろう。
しかし今の鍔迫り合いにも似た状態では、刃の部分を両手で持つブラダマンテが優勢であった。
黒崎は魔剣の柄を両手で握ったまま。体勢の優劣から押し込まれてしまう。
(この剣の使い方って確か、甲冑が発達し始めた頃に編み出されたヤツだっけか?
分厚い金属鎧を
この時代に成立してた戦術とは考えにくい。なんでこんな技を知ってるんだよ、この女騎士……!)
このままでは引き倒され、そのままトドメを刺されてしまう。
黒崎はタイミングを見計らい、とっさに身体を引いた。不意に重心をずらされ、さしものブラダマンテもたたらを踏む。
その隙に黒崎は女騎士の腹に蹴りを入れつつ距離を取り、体勢を立て直した。
「ほう……押し勝てると思ったのだがな。意外とやる」
「抜かせ! アンタだってバランス崩されてからの蹴りを喰らったクセに、涼しい顔でいなしやがって……!」
黒崎は冷や汗をかきつつも、剣を構え直して防御を固める。
「あくまで自分からは手を出さないつもりか。舐められたものだ。
だが今の手が
ブラダマンテはニヤリと笑い、
「――わたしが得意とする剣技にて、存分にもてなそう!」
騎士が基本動作として行う、剣による礼の構えから――ブラダマンテの斬撃が、瞬時に、だが猛然と黒崎に降り注ぐ!
「う……おぉッ!?」
凄まじい斬り込み。絶え間なき連撃。何より突きの引き手の速さは、隙が少なく即座に次の攻撃に移る事ができる。
スピードを売りにしたブラダマンテの技は、黒崎とて幾度か目の当たりにした筈だが――こうして実際に相手取ると、きわめて厄介な剣術だと痛感する。
(最低限の動きで、致命になる攻撃だけを
よーく観察すれば、どの一撃でこっちを仕留めにかかっているか、見極められる筈だ……!)
全ての突きには対処しきれない。黒崎もまた
魔女の島で
しかしアストルフォと共に各地を旅し、冒険や一騎打ち、
黒崎は見据える。ブラダマンテの素早い剣筋を。恐怖に屈せず、その切っ先から片時も目を逸らさない。
鎧や身体に細かい傷が増えていくが、彼の瞳に燃える闘志の灯は全く衰えを見せなかった。
(ほう……ヘタレな男だと思っていたが、なかなかどうして!
そこらの騎士であれば、ここまで劣勢に立たされれば戦意を喪失してしまいそうなものだが。
この目はまだ勝負を諦めていない。ふふッ……なかなかいいな。
ゾクゾクするよ、その勝利に貪欲な視線ッ!)
久しく忘れかけていた、ブラダマンテの中に眠る騎士の血が、強者を欲する衝動が、沸々と
相手がどのような反撃を狙っているか。気になる。自分の磨き抜かれた剣技をも上回るのか。気になる。百戦錬磨の女騎士ブラダマンテを真正面から打ち負かす事のできる勇者なのか。とても気になる!
「おおッッ!!」
激しい金属音が響き渡る。猛攻に黒崎がひるんだのを見て、ブラダマンテは必殺の一撃を放った!
(来た! ここだッ!)
黒崎はロジェロの卓抜した動体視力を用いて、ブラダマンテの動きに大きく力が入る瞬間を見逃さなかった。一瞬ひるんだように見えたのは「誘い」だった。魔剣ベリサルダを交差するように繰り出し、彼女の突きの軌道を僅かに逸らしたのだ。
「!?」
「貰ったぜ!」
すかさず黒崎は手甲を利用し、ブラダマンテの右手を強打した。彼女の
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