女の子と媚薬と✖✖✖✖✖

志田 新平

第1話 悪魔は天使の容姿をしてやってくる



「あれ、マッキーじゃん?」

 マッキーこと俺、日向真希時(ひゅうがまきと)には世の中で絡まれたくないものが三つある。

 コンビニ前にたむろする不良、FF外から失礼するクソリプ、そしてこの少女、夜坂中学校三年、月宮愛梨(つきみやあいり)だ。

 緩やかにカールした長髪をツーサイドアップにして、白いセーラー服にスカート丈は短め、顔はおとぎ話に出てくる妖精みたいな感じ。

 控えめに言ってかなり可愛い。

 が、危険だ。かなり危険だ。どれくらい危険かって言うと、噛み付き亀の目の前に男性器露出するレベル。いや、もうちょっとマシな例えはないかな……。

 ともかく。

 今までこの女に関わってろくな目に会ったことは無い。必ず酷い目に遭う。

 だから俺はどうしたか。

 逃げた。月宮の方とは反対側に。くるっと背を向けて、今来た廊下を早歩き。

「ねぇ、マキト。待ってよ、待って待って、何で逃げんのー?」

 後ろから月宮の声。俺、ダッシュ。

 ――大丈夫、このまま何とか逃げ切れる――。

 そう安堵しかけた刹那。

「マキトが女子更衣室覗いてるゥゥゥーー!! エッチ、ヘンタイ、ドスケベェェェ!」

 後ろから大声があがった。勿論、犯人は月宮だった。

「うわぁぁあああああ」

 俺は奇声をあげながら、Uターン。月宮の声をかき消すように、俺も奇声を上げ続ける。

 月宮は俺が戻ってきたのを見て満足そうに、ニコッと笑った。きっと悪魔もこんな笑い方するんだろうな、って感じの笑顔だ。

「イェイ! マッキー元気? ご機嫌いかが?」

「ご機嫌は最悪だよ、お前のせいでなァ!」

 それ、男性をマジで社会的に抹殺出来るからやめろ。幸いなことにここは夜坂中学校の中でも旧校舎だから、人は少ない。

「私みたいな美少女に声をかけられたのに逃げるなんて、マッキーどういう神経してるのカナ? 私みたいな小悪魔系美少女嫌いとか?」

「おめーの場合は小悪魔じゃねえんだよ、アークデーモンなんだよ、サタン系少女が何、小悪魔面してんだ」

「まったく言ってくれるなぁ、マッキーは。ツンデレさんなのかな?」

「ハッハッハ、寝言は寝て言え」

「ふと今、思ったんだけど異性に対して『寝言は寝て言え』ってエロくね? 『もぅ、私の寝言、そんなに聞きたい?』とか『お前の寝言を俺に聞かせてくれよ』ていう告白のセリフ、あると思います!」

「ないと思います」

 あーもう、と俺はちょっと苛立った。月宮のペースに完璧に引きずられてしまっている。俺は後悔しだした。

 早くここを立ち去らないと後戻り出来なくなる。

「なあ、月宮、悪いんだけど俺これから剣道部なんだよね」

「だから?」

「だから、急いでるわけ。用がないなら――」

「用がないなら私はマッキーに話しかけちゃいけないの!?」

「うん」

 速攻で頷いた。

「そ、そんな……。そこまで言う事ないじゃん!」

 一転してちょっとしおらしくなる月宮。

「そう言われてもな……」

 夜坂中学校の要注意人物ナンバーワンは絶対こいつだと思うし。

「私だってちょっとは傷つくんだよ?」

「ほお?」

「私だって暇じゃないのにマッキーにこうやって喋りかけてるんだよ。私、マッキーのことがこんなに大好きなのに、マッキーは私の事なんとも思ってないんだ……」

「ほほう? では、どれくらい俺のことが好きか言葉に表してくれたまえ、月宮クン」

「アイスの蓋についてる残り滓のアイスくらいには好きかな」

「薄っす!」

 それこそアイスの蓋なみに薄い愛情だった。

「いやいやでも重要じゃないアイスの蓋。絶対なめるじゃん。100%舌を這わされるわけでしょ? 愛されてるわけじゃん?」

「いや……なめねーよ」

 ……キチンとスプーンですくって上品に食べます!(違う)

 閑話休題。

「なあ、本当に頼むって。剣道部、遅刻したらしばかれるから」

 俺は改めて月宮に懇願した。

「わかったわかった。冗談はこれくらいにするさ」

 月宮の声のトーンがはっちゃけたのから落ち着いたものに変化した。

 あ、ヤバい。俺は瞬時にそう直感した。もう遅い。

 月宮の声が変化した時は、それはもう月宮の魔手に俺が収まってるってことだ。

 月宮は穏やかに微笑みながら言う。


「ねえ、マッキー、媚薬に興味はあるかい? それもとっておきの、効果絶大の、ね?」


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