第10話 口下手 後編

いつからだ…私が、思ったことをちゃんと口にすることができなくなったのは…

まあ、お母さんのせいでしょけど…


そう、それはおばあちゃんがまだ生きている頃のことだったな。


「私は、ケイリを他人思いな優し子に育てたいの」

「ケイリは私の娘だ、お母さんの子ではない! 私はあなたのようにはなりたくなかった。あなたのような、騙されると知りながらもヘラヘラ笑う偽善者に! 」

「あなたみたいに分厚い壁を築いて、寂しくないのかい? ケイリまでそうさせるつもりかい? 」

「お母さん分かってるんの? ケイリは危険な召喚獣と契約しているのよ! ケイリは自分を守らなければならないのよ、私の娘に余計なことを吹き込まないで! 」


このような会話は、私にとっては日常茶飯事だった。けれど、母さんの厳しさに反して、おばあちゃんは優しかった。だから、私はおばあちゃんが大好きだったの。


「ケイリ、人を疑うのは悪いことではない、自分を守ることもね。けれど、あなたの母さんみたいに、疑うばかりじゃあ孤独な人になるわ。もっと人の気持ちを考えて、もっと人の状況を考えたら、きっと誰も許せるはずだ。そうね、魔法の言葉を教えようか」

「魔法の言葉? 」

「そう、魔法の言葉、それは、でもまあ、だよ」

「でもまあ? 」

「そう、ポジティブな思考をできるようになる魔法の言葉だよ」


そうなおばあちゃんも、私が六歳の時に亡くなった。

おばあちゃんが亡くなったあと、私達はカイル兄さんがいる町に引っ越した。


お母さんはおばあちゃんのことが嫌いだった。私は、おばあちゃんといる時間が、お母さんとの時間よりずっと長かったため、私もおばあちゃんと似たような性格に育てられた。けれど、お母さんは私のことが…


あの頃は、本当にお母さんのことが怖かった…


「二度とその言葉を口にするな、やはりお母さんにあなたの面倒を見させるべきではなかった! あなたのために、仕事もやめて、こんな田舎まで引っ越したのに、どうして私の言うことを聞かないの? 」

「ママ、あた…」

「口答えしないで」


そう、お母さんはちょっとヒステリックなところがあって、理屈が通じないと言うように、全然話させてくれないんだ。だから、子供の頃は大変だったわ。そのせいで、私は、自分の思ったことを言えなくなった。


そうなお母さんを変えたのは、カイル兄さんだった。まあ、これはまた別な機会に…

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