第1話 召喚師ケイリ

あたしはケイリ、16歳、何処から見ても美人だけれど、もしこの世界は物語だったら、あたしはきっと主人公ではない、なぜなら、あたしより主人公にふさわしい人がいる。


「ケイリ、ドアを開けてくれ」

遂にこの日が来てしまったのか、あたしの大好きな、幼馴染のカイル兄さんが冒険者になって、村を出る日が。

「遂に装備を買えるだけのお金は貯めた。僕は冒険者に成れるんだ、ケイリは喜んでくれないのか?」

喜ぶはずないじゃない。

「昔と変わんないな、ケイリは・・・怒ったらすぐ部屋に閉じこもる、本当にいいのか? 二度と会えないかもしれないぞ」

さよなら、あたしの初恋…

「ケイリ、ドアから離れろ! 」

「え!? 」


ドカン!

カイル兄さんがあたしの部屋のドアを壊した、でもあたしは怒ってるから、カイル兄さんを無視続ける。

「怒るとすぐに冷めてしまう、な、ケイリ、機嫌直してよ、ケイリに無視されるのは辛いんだ」

「・・・」

「な、ケイリ、僕と一緒に冒険者にならない? 」

「はぁ!? 」

「ケイリは召喚師、僕は剣士、いいコンビになれると思うけど」

「あたしの召喚獣は戦えない、カイル兄さんも知っているでしょう」

「でも、最大10匹召喚獣と契約を交わせるだろう? ケイリは生まれた時から既に1匹と契約を交わしていた、つまりケイリは召喚師としての才能は高い」


そう、あたしは召喚師、あたしは生まれた時から召喚獣と契約を交わしていた。

召喚師になるには、少なくとも1匹、人間以外の生物と契約を交わさなければならない、しかし、相性がいい種族としか契約を交わさない、だから、召喚師は誰にも成れる職業ではない。

けれど、極めて珍しく、生まれた時点で召喚獣と契約を交わされている人がいる。

召喚するずっと前から分かってた、あたしの召喚獣はすごく強い、その証拠に、召喚師は召喚獣の強さによって、最大十匹召喚獣と契約を交わすことが出来る、召喚獣が強くほど、消費する枠が多い。あたしの召喚獣は一匹で、枠を全部使った…

それだけではない、少ないけど確かにいる、契約しても、主人から働きの代償を求める召喚獣が。金しか動かせない召喚獣も、強敵との戦いでのみ召喚出来る召喚獣も、一定回数しか召喚出来る召喚獣もいる。


六年前、あたしが十歳の時、裏山で初めて召喚獣を召喚した。目隠しされ、鎖に縛られている、女性だった、種族はわかんない、悪魔かもしれないし、堕天使の可能性もある。

彼女は無魔法を使える、無属性魔法ではなく、無魔法、全てを無に返す魔法だそうよ。

けれど、魔法を使えさせたければ、自分の体の一部を生け贄に捧げなければならない、一番弱い魔法でも、最少でも指一本は持って行かれる。心臓を捧げば、一番強い魔法を使ってくれるだそうよ。召喚する度に何かを捧げなければならない、だから召喚して魔法を使わないと損することになる、今回は初めて召喚したから勘弁してくれたけど。


この召喚獣の危険さは十歳だったあたしにもよく分かる、召喚獣枠を全部使った上で、代償を求める召喚獣が弱いはずがない、全てを無に返す魔法もヤバそう。


正直もうあの召喚獣を召喚するつもりはない、けれど、召喚獣枠を全部使われたから、他の召喚獣と契約することも出来ない、だからあたしは召喚師に成れない。

あの日、召喚獣を召喚したあと、あたしの召喚獣は戦えないと、嘘をついた。まぁ、嘘ではないかもしれないけどね。


しかし、あの召喚獣だけで枠を使い果たしたことを、みんなは知らなかった。カイル兄さんに教えるつもりはなかった、だって、戦えない召喚獣がそんなに枠を使うはずはない、あの召喚獣のことを誰かにバレたら、あたしが戦略兵器として、このフルブル聖王國に軟禁される可能性だってあるって、お父さんが言った。


だから困るの、どうやってカイル兄さんを断れば…

それに、実のところ、カイル兄さんと離れ離れになりたくない、あたしはカイル兄さんのことが好き、カイル兄さんは優しくて、顔も良くて、騎士だったカイル兄さんのお父さんから剣術を習ってるから凄く強い。

けれどカイル兄さんは多分、あたしのことを、妹みたいにしか思っていない。

やはり断ろう。


「あたしは装備を買うお金がない、魔法も習ったことないし、武器も使えない、相性がいい召喚獣とも、きっと出会える保証はないのよ。あたし、足手纏いにしかならないの」

「僕がケイリを守るから大丈夫、それに、ケイリの装備の分も、僕が出すから」

「え? そんなお金あるの? 」

「あるさ、最初からケイリと一緒に冒険するつもりだったからな」


嬉しい!


「バカ! 自分の分だけなら、もっと早く冒険者に成れるはずだったではないか! 」

「ケイリと一緒に冒険したかった」

「本当にバカだな、言っとくけど、あたしの召喚獣は全く役に立たないからな」

「大丈夫」

「じゃ、行こうか」

「行くって何処へ? 出発は明後日なんだぞ」

「魔法適性を測らないと」


いつか、あたしはカイル兄さんのために召喚獣を召喚し、カイルのために犠牲することになるでしょう、そんな予感がした、それが、この召喚獣があたしと契約した理由、これがあたしの運命、そう思った。


その時のあたしはまだ知らなかった、カイル兄さんは罰当たりなハーレム野郎だったことを。

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