初心者向けのゾンビ映画【アジア編】

【はじめに】

屍之山しのやま「講師の屍之山です。初心者向けゾンビ映画紹介も今回で終了ですね。非常勤講師の腐胴さんに引き続き補助をお願いしています」

腐胴ふどう「助講師の腐胴です」

屍之山「ラストということで、映画に関する豆知識を何かお願いします」

腐胴「SNSのアイコンが『レオン』のマチルダの女はメンヘラの確率が6割以上なので付き合うときは慎重にいきましょう」

屍之山「思っていたのとだいぶ違うのが来ましたね。何か思うところがおありなのでしょう。さて、今回は日本含めアジアで製作されたゾンビ映画に絞って紹介いたします。歴史は欧米に比べるとまだ浅いですが、ここ最近では名作も生まれてきましたよ。では紹介に移ります」

腐胴「次点で『アメリ』の女も要注意です」

屍之山「SNSの話はもういいです」


【アイアムアヒーロー】

屍「まずはこちら。2016年日本公開、監督は佐藤信介です。花沢健吾の漫画が原作ですね。主人公・英雄ひでおは35歳で借金を抱えながらアシスタントで生計を立てている漫画家です。彼女とも不穏になって、鬱屈した毎日を過ごしていましたが、ある日からじわじわと全国にゾンビが発生し……という感じですね」

腐「1本目から邦画で漫画実写化ですか。あまりいいイメージがないのですが」

屍「これはもう邦画でこんなゾンビものが作れるなんてというくらい革新的な映画でしたよ。まず映像が大迫力です。韓国で撮影したというカーチェイスのシーンなどは圧巻ですよ」

腐「日本は撮影許可が下りるのにいろいろ規制が多いから、アジア諸外国で撮影する邦画も増えたと聞きますね」

屍「この作品の中のゾンビは生前の行動を繰り返すという特性があり、驚異的な身体能力を持ったスポーツ選手のゾンビなど、ゾンビに個性があるのも見所です」

腐「そんなゾンビに銃もない日本人が対抗できますか?」

屍「そこなんです。日本のゾンビ映画で、土葬の件はウィルス性ゾンビで解決できるんですが、頭部を破壊するという条件に必要な銃が調達しづらいという問題があるんですよね。日本でシリアスなゾンビ映画がほぼなかった原因もそこにあると思います。コメディタッチにして適当な武器で倒すか、最強の女子高生がセーラー服に日本刀で戦うというようなアニメ的な表現かで二分化していました」

腐「ビデオ屋の邦ホラーの棚によくコスプレAVみたいなパッケージありますね」

屍「講義中なのでもっといい例えを探してください。英雄にはクレー射撃の経験があり、合法的に散弾銃を所持できるんです。貴重なその銃を巡って仲間割れが起きたり、普段では使うはずのない銃を手放せない主人公に非日常に憧れるヒーロー願望が象徴されていたりと、銃のない日本でも納得のいくストーリーです」

腐「名前が英雄でヒーロー願望を持ってるから、アイアムアヒーローですか」

屍「最後まで観るとタイトルもとても印象的なのでぜひご覧ください」


【新感染 ファイナル・エクスプレス】

屍「次はこちらです。2016年、韓国のヨン・サンホ監督の作品です。日本では昨年17年公開でした」

腐「『お嬢さん』『アシュラ』『哭声/コクソン』と去年日本公開された韓国映画は名作揃いですね」

屍「そうなんですか。あまり詳しくなくて……。というのも韓国ではゾンビ映画がほぼ作られてないんです」

腐「屍之山さん、マジでゾンビ映画しか観ないんですか」

屍「研究の方で忙しくてですね。韓国では映画よりwebコミックなどでゾンビものが認知されているらしく、元々アニメ映画の監督だったヨン監督は作りやすかったのかもしれません」

腐「韓国はホラーも多作ですからゾンビがないのは意外ですね」

屍「韓国初といっていいこの作品ですが評価はとても高く、各国の映画祭で出展・受賞し、『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督、【シリアス編】で紹介したスティーブン・キングなど数々の著名人が評価し、【コメディ編】で紹介した『ショーン・オブ・ザ・デッド』のエドガー・ライト監督もゾンビ映画の中でも最高峰と絶賛しています」

腐「海外でリメイクとかされそうですね」

屍「物語は、仕事一筋で家庭を顧みない父親ソグが誕生日を迎える娘スアンに別居中の母親に会いたいとせがまれ、乗った釜山プサン行きの特急列車の中でほぼ全編展開します」

腐「密室劇に近い造りなんですね」

屍「ですが、演出やエキストラの量、演技も含めてとても緊張感とスピード感がありますよ。人間がゾンビに襲われても、次々押し寄せるゾンビで覆い隠されるため、スプラッタな場面描写を抑えて規制を緩和するという、新しめの手法も取られています」

腐「他にも従来のゾンビ映画にはあまりない設定が多く見られると聞きますが」

屍「はい。まず、韓国は日本と同じく銃社会ではありませんから、この映画にはほとんど銃が登場しないんです。ですから、ゾンビを殺すことはできず、精々殴って押しのけひたすら逃げ回るしかないんですね」

腐「結構ハードモードですね」

屍「次に、ゾンビ映画のラストは『どこかにあるゾンビがいない新天地を目指す』というものが非常に多いんです。しかし、この映画は目的地はあくまで終点の釜山なんですね」

腐「原題を直訳すると“釜山行き”なのはそういうことですか」

屍「そうですね。閉鎖空間で敵を殺すことも自死も選べず、終着点に向かって進むことしかない極限状態の中、利己的だったソグはスアンを守るため成長していくのですが、彼に協力する乗客も対立するのも皆、生き残りたい・大事なひとを守りたいだけなんですよね。そんな人間ドラマもこの映画の面白さです」

腐「善悪では割り切れない作風は韓国映画に多いイメージがあります」

屍「ゾンビ映画黎明期には人種問題も貢献していたという考察があることは前にお話ししましたが、韓国も少し思い当たる面がありますね」

腐「北朝鮮のことですか?」

屍「はい。人種も言語も同じなのに国境を隔てる隣国があるという状況は、この映画内のひとに極めて似たゾンビにも繋がると思います。ゾンビを倒せないからバリケードを置いて遮断する、その障壁の中にも階級差や対立があったりと象徴的ですね」

腐「そういえばソグ役で主演のコン・ユは『サスペクト 哀しき容疑者』で北朝鮮工作員を演じて高く評価されていました」

屍「これを機にどんどんゾンビ映画を作ってほしいところです。ご覧の際は前日譚にあたる同監督のアニメ映画『ソウル・ステーション/パンデミック』もご一緒にどうぞ」


【インド・オブ・ザ・デッド】

屍「最後はタイトルでお分かりの通り、2013年のインド映画です。監督はラージ・ニディモール&クリシュナDKという方です」

腐「まあボリウッドは世界の映画業界でどんどん勢力増してますからね」

屍「この作品は基本的にコメディですね。失業したり彼女に振られた若者たちが、旅行に訪れた離島で仲良くなった女性にロシアン・マフィアのドラッグパーティに誘われるも、そのドラッグでゾンビパンデミックが起こるというのが導入です」

腐「ナチスとロシアン・マフィアには映画じゃ何してもいいみたいなお約束ありますよね。屍之山さん、ひとつ質問しても?」

屍「何でしょう」

腐「予告を見ると、ドラッグを使った人以外にもゾンビが急増してる気がするんですが。死者復活説をとっても、インドって火葬の文化圏ですよね」

屍「いい所に気づきました。インドでゾンビが発生した原因。それは……グローバル化です」

腐「ヤクでもやってんのか?」

屍「貴方と一緒にしないでください」

腐「俺もやってねえよ」

屍「いや、本編で本当にそう説明されるんです。確かめてみてください」

腐「ラストの作品がこんなガバガバでいいんですか」

屍「まあ、ゾンビものはこのくらい自由でいいという見本ですね。全体的に緊張感はありませんが、インドらしい音楽や案外熱い展開もあり、普通に楽しめる作品ですよ」

腐「ちゃんとしたインド映画が観たかったら『きっと、うまくいく』でも観ましょう……」


【終わりに&次回予告】

屍「さて、これでゾンビ映画紹介もひとまず終了ですね。次回からはゾンビものを書くにあたって基本的な疑問、『ゾンビに意識はあるのか』『ゾンビでも腐敗しないものはあるのか』などを取り上げて、解説していこうと思います。放課後応援コメントでの質問も随時受け付けますよ」

腐「お疲れ様でした」

屍「腐胴さんには映画紹介を行う機会があれば、補助をお願いしたいと思います。また、要望次第で普通の講義もお手伝いいただくかもしれませんね」

腐「“非常勤”って言葉の意味知ってるか?」

屍「それではまた次回お会いいたしましょう。講義を終わります」

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