2限目……ロメロって誰さ

 講師の屍之山しのやまです。さっそく受講してくださる方や、受講者の方々からのコメントもいただき、ありがたいことです。それでは第2回目の講義を始めましょう。


 まず復習ですが、ゾンビは元々ブードゥー教由来の呪術であったこと、それを題材にした映画は第二次世界大戦前から存在していたことはお話ししましたね。しかし、それらは皆さんがイメージするゾンビ像とは違ったと思います。

 今回は「現在のゾンビのイメージは何から作られたのか」と、それに「大きく関わったロメロとは誰か」この二点についてお話ししたいと思います。


【ロメロゾンビとは何か】

 前回お話しした通り、ゾンビが登場する映画は作られていたものの、ホラーでは吸血鬼や狼男などのビッグネームに比べてインパクトがなく、最初にゾンビが出る『恐怖城』を作った監督の次回作はよせばいいのにメロドラマに寄せて大コケするなど、低迷期というか、ジャンルとして確立しているかすら怪しいものでした。

 そんなゾンビ映画界に救世主が現れます。それがアメリカの映画監督 ジョージ・A・ロメロです。皆さんも名前は聞いたことがあるでしょうか。ミドルネームの(・A・)が顔文字のようで可愛いですね。彼が撮る映画はまったく可愛くありません。

 映画大好き少年で、ホラーも好んだロメロ監督は、噛むことで仲間を増やす吸血鬼の特性や、つぎはぎで恐ろしいフランケンシュタインの怪物の外見などを取り入れ、独自のゾンビを作り上げていきました。


 そして、完成したのが1968年の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』です。

この映画は墓地から復活した死者たちが生者を襲う世界で、民家に籠城する人間たちをドキュメンタリー調で描いたもので、「噛まれると感染する」「腐りかけ」「頭部を破壊しないと死なない」など現代にも通じるゾンビ観を確立させました。


 続いて、1978年に作られた「ゾンビ」は、邦題の通りに劇中でゾンビという呼称も使われ、これのヒットによって、人喰いモンスターとしてのゾンビは広く知れ渡ることになったのです。「ゾンビが出たらショッピングセンターに立てこもれ」などのセオリーもこれで作られました。あと、『 Dawn of the Dead』という原題によって、「~オブ・ザ・デッド」という題名のゾンビものが量産されます。実感のない方は、レンタルビデオ店のホラーコーナーに行ってください。気が狂うほどあります。


【なんでヒットしたの?】

 シンプルに斬新で怖かったからだと思いますが、なぜヒットしたかというと、最初に公開されたのが60年代でアメリカだったからというのもあるかと思います。

 アメリカはキリスト教徒が多く、教理にある最後の審判に際しての死者の復活に備え、肉体を壊さないよう土葬にするのが一般的です。神による復活を待って埋められた身体が腐臭を放つ怪物になって戻ってくるというのは、冒涜的で恐ろしい光景に感じられたでしょう。


 そして、大事なのが60年代のアメリカといえばベトナム戦争と人種問題ですね。

 ベトナム戦争は主にゲリラ戦で、密林の中で前にいるのが一般人なのか民兵なのかわからないという過酷な状況でした。どっちかなと迷っていたら騙し討ちされるし、面倒だと大型の兵器で一掃すれば民間人を巻き込んで反感を買い、復讐に燃える民兵を増やしてしまいます。そんな繰り返しで、アメリカは撤退を余儀なくされました。

 この状況は、さっきまで味方だったひとがゾンビになり、倒せなくてマゴマゴしてるうちにどんどんゾンビが増え、一個体は弱いのに結局数で押し負けてしまうというゾンビものの構図と重なります。


 また、法律上平等になったとはいえ当時人種差別は根強く、まだ報道規制も少なかったので、私刑の映像がテレビで流れたりもします。同じ人間とされながら別種の者たちが相手の脅威に怯えたり、血まみれの惨劇を行うのは、ゾンビと人間にも当てはまるし、『ナイト・オブ~』のラストは結構直接的にそれを描いています。

 それらを経験した当時のひとたちにとっては、怖かったでしょうね。


【今観ても怖い?】

 正直CGもろくにない頃なので画像のチープさは否めません。ゾンビも数は多いですが、死人なので腐りかけで足も遅いし、現代のホラーゲームなどに慣れている方々にはそこまで怖くないかもしれません。

 でもロメロ監督の映画で本当に怖いのは、最初から理性がないゾンビより、極限状態でだんだん理性を失っていく人間たちの方です。国や時代は違っても、人間の対立は変わらずありますから、心理的な怖さはちゃんとあると思いますよ。

残念ながらロメロ監督は昨年2017年に亡くなり、復活の兆しはまだありませんが、追悼も兼ねてご覧になるといいと思います。


 B級脳腐れスプラッタなイメージを持たれがちなゾンビですが、始まりは意外と社会的でしたね。「アホなホラーは書きたくないぜ」と思っている受講者さんも、これならいけそうでしょう?

 でも、「ゾンビといえばアメリカだし、日本以外を舞台に捜索するのは自信がまだ……」という受講者さんのために、次回はアジア圏でも幅広くゾンビが作られるようになったきっかけでもある、「ゾンビウィルス」のお話をします。

 次回から本格的に創作にも少しは使える話になると思います。みんな大好きバイオなハザードの話も出ますよ。

 では、講義を終わります。お疲れ様でした。

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