第一話 「年明け (前編)」
「今年もこれを捲るのは最後か……。」
思い起こすのは課題や大掃除で明けくれた冬休みの平凡な日々。
聖なる夜も深い意味でなく精を出した。
お陰で清く年越しできるのもまた事実だけど。
「ピンポーン」
(……来たな。)
急いで玄関へと向かう。
「ガチャ」
「新婚さんいらっしゃーいっ!」
「え?…お邪魔します。」
「なんでやねーんっ!」
「ナイスツッコミ〜♪」
「愛ちゃん、お久しぶりでーす。元気してましたー?」
階段を降りると姉ちゃんの
「おい、姉ちゃん、
「まぁまぁ、そんなかっかすんなって。」
笑っている瞬を見てるとどこか腑に落ちないがいつもの事なので気にしない。
そして二人はクラスメイト。
俊は見ての通り大人しいがお人好し。女子の中では競争率も高く本人は自覚が無いようで謙虚な姿勢を忘れない。
瞬はマイペースで意見が合わないこともしばしば。でもどこか憎めない奴。それも有ってかクラスのムードメーカー。
「はい、どうぞ。お土産でーす!」
少し大きめの紙袋を姉ちゃんに渡す瞬。
「何入ってるのかな?」
「『
瞬のお父さんは蕎麦屋を経営している為、持っていくように頼まれたんだろう。
「
「え〜わざわざいいのに〜。今度お礼しなきゃだね?」
「そんな逆に大丈夫ですよ!」
今年の年の瀬は例年よりも冷え込み、関東では珍しく大雪警報も発令されることも度々有った。
そんな寒気すらも吹っ飛ばすテンションの瞬と夏は暑苦しいけど冬はちょっぴり暖まる姉ちゃんのやり取りは何の変哲も無く、暇を持て余している俺の日常に変化を付けるには充分過ぎるものだった。
「そういえばね、こないだお勧めしてくれた『モンファイ3』買ったんだよー!」
モンファイとはモンスターファイターの略で怪物同士が熱いバトルを繰り広げる対戦型格闘ゲーム。
「まじっすか!?愛ちゃんやりますねー。」
「ちょっと待っててね。」
姉ちゃんは自分の部屋へと消えてった。
「俊ごめんなー、瞬空気読めよー。」
「いや、大丈夫だよ。皆楽しそうだし。」
「俊もそう言ってる事だし、ね?免じてくれよー。」
「仕方ないなぁ……。」
「じゃーん!」
携帯型ゲーム機を手にした姉ちゃんが戻ってくる。
「あ!それ新カラーじゃないっすかー!」
「高かったよー?最初は翔和も許してくれなくってさー。あたしが働いてるのにねー?」
「確かにそうだけれど……生活が苦しくなるのはお互いなんだぞ。」
「翔和ってなんだかんだ優しいよなぁー。」
「だって事実じゃん……。」
「愛ちゃん、実は俺も持って来ちゃってるんで後で一緒にモンファイしましょー!」
「えー!ほんとー!やったー!……あれ?俊君結構髪伸びたんじゃない?前に切ったのいつだっけ?」
「はい、もう2ヶ月位経ったかもしれないです。」
「じゃあ、後で切らなきゃだねー?」
「お願いします、それとカラーなんですけど……少し色落ちしてきたの気になるんですよね。」
「そうねぇ……じゃあ、それも含めて任せてちょうだいっ!」
普段は無口だが姉ちゃん相手にきちんとコミュニケーションを取れる俊には安堵する。
「お前ら何時間ここで話し込む気だー?そろそろ、部屋に行くぞー。」
「あ、ごめん。瞬、上がろっか。」
「はーい。」
「じゃあ、また後でね〜。」
姉ちゃんの一言を背中で聞くのを最後に二階の自部屋へと向かう。
ブルーハワイメイト。 小春日和。 @Hqru_589
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