第15話 寵愛
ジューコフはヴァシレフスキーとともに食堂へ早足で急行していた。いつもの通りのすまし顔をしながら、内心ルーシヴィアの愚行に対して罵倒したい気持ちでいっぱいだった。
「なぜ直談判だなんて……カーロッタの赤軍入りを断った私への意趣返しかしら?」
「そーっすね。ジューちゃんがけんもほろろに断ったからじゃないっすか?」
「ヴァーちゃん、口調!」
おっと、失礼と悪気などこれっぽちも見せない
廊下に人影はなく、盗聴器・盗聴魔法の類も感じられない。彼女たちの会話を盗み聞きしているものはいないと思うが、それでも確信はできない。
口調を崩し飄々としている親友を羨ましく思う。彼女が砕けた口調を披露するのは限られた人間の前だけである。自分は、生真面目な性格もあって普通のしゃべり方しかできない。私はつまらない女でしょうか、と内心危惧する。
でもだって、仕方がない。彼の好みがわからないのだから。リスクはおかせない。
「さすがのベリヤっちも廊下にまで盗聴器は潜ませないっしょ」
「貴女は彼女を侮りすぎです」
残念がながら軍部のトップとして絶大な権力を握るジューコフであっても、NKVDにはその影響力が及ばない。今回のルーシヴィアの暴挙は、
異世界の現状に憤っているのも、姉妹を哀れに思っているのもジューコフの決して嘘ではない。だからこそ、ソ連一常識人な自分が手を尽くして保護したのだ。
だが、それよりも優先することがある。これは、ソ連人民すべてにとって最優先事項だろうと、ジューコフは確信していた。
それは――――スターリンの寵愛である。
確かにスターリンは転移後、なぜか妙に丸くなったというか、距離が近づいたように感じる。だが、だからといって気安く声をかけてよい存在ではない。
ゆえにこそ、ルーシヴィアの直談判は暴挙と言えるのだ。
この件が周囲に波及し彼女を管轄していたジューコフに与える影響は予想がつかない。それよりなによりも、スターリンの反応が全く読めない。
もし、嫌われでもしたら……。
誰にも――それこそヴァシレフスキーにも――言えないことだが、赤軍の長老だったトハチェフスキーを追い落とした計略には自分も関わっている。
お世話になった恩人を蹴落とすのにはさすがに胸が痛んだが、それだけだ。
別に粛清して命を取るわけでもないし、内輪もめでソ連を瓦解させるつもりもない。だから何も問題ない。人民のすべては本気でそう思って行動していた。
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