神様(に)転生 ~神様になって世界を裏から操ります~
羽田京
第1章:精霊システム: βサービス開始
プロローグ(精霊歴元年)
●冒頭
・神様(主人公)視点
・世界の住人視点
・歴史書視点
で進みます。
●
モニター越しに、鬱蒼といた大森林が広がる。その傍で、ひび割れた大地を耕そうと四苦八苦している集団がみえる。
「がんばれ勇者! 負けるな勇者!」
とはいえ、人跡未踏地帯の開拓には苦労しているか。ここでテコ入れしないと、全滅しかねん。
彼らが善良な人物で助かった。悪の帝国から逃げてきた勇者たちは、間違いなく善性の人間たちだ。
これで、精霊システムを開始できる。精霊システムに善人は必須だからな。
「フレーフレー勇者! いけいけ勇者!――――精霊を使って人類を裏から操るなんて、わくわくするわね!」
しかもよりによって、勇者を利用するなんて、と嬉し気に語る幼女。お気に入りの魔王が倒されて激怒していたのに、今や勇者を応援するようになった。ちなみに、これでも俺の相棒の神様です。
精霊システムのテスターとして勇者以上の適任者はいない。魔王が倒されたのは俺としても残念だったけれど、結果オーライだ。
俺は誰かって?
職業:神様
仕事内容:世界を管理するだけの簡単なお仕事です
「よし、ノームに化けていっちょ勇者と契約してくるか」
「精霊システム普及の第一歩ね! いってらっしゃい」
まずは食料問題を解決して進ぜよう。題して食べ物の精霊作戦。世界の安定のため、勇者には良き広告塔になってもらうぞ。
◆
【 精霊歴元年 】
俺は、鈴木太郎、どこにでもいる平凡な男子高校生。名前をよくからかわれるが、両親からもらった大事な名前だから気に入っている。そして――勇者だった。
そう勇者『だった』。高校の帰りに急に光に包まれたら可愛い王女様の前。異世界召喚ってやつだな。
魔王を倒してくれ。って頼まれたんでほいほい勇者をやったわけさ。
で、魔王を倒しました。途中経過? 割愛するぜ。笑いあり涙ありの一大スペクタクルだった。楽しかったなあ……。
物語だったらさ、魔王を倒してハッピーエンドなわけじゃん。
――でも、現実は違った。
この世界『リ=アース』は、魔法が使える一部のヒューマンの特権階級が富を独占し、圧制をしいていた。
なにより許せなかったのは、ヒューマンたちが同じ人類であるはずの獣人、エルフやドワーフを亜人と蔑んで奴隷にしていたことだ。
字面だけじゃ伝わらないだろうが、本当に、本当に酷かったんだ。
魔王がいる間はまだよかった。世界を滅ぼそうとする魔王は、人類共通の敵だったから、団結しようとしかけたんだ。
けれども、うまくいかなかった。なぜかって? そりゃあ、俺がいたからさ。
人類が団結する前に、勇者様が共通の敵たる魔王を成敗しました。
魔王本人から、世界平和のために魔王は創造神に造られたって聞いちまった。苦い思い出だ。
それで、いままでと変わらずに差別と貧困が蔓延りましたとさ。
それだけじゃない。ヒューマンの勇者が魔王を倒したもんだから、ますますヒューマン至上主義が強まったんだ。
酷すぎる現実を前に、俺は立ち上がった。魔王との約束もあったし。『勇者』という立場を利用して、意識改革をしようとしたんだ。
俺を召喚してくれた王女様も、次第に俺のことを理解してくれるようになった。
最初は奴隷の何がいけないの? って顔していたけれどね。徐々に、徐々にだけれど、亜人差別もなくなっていくんじゃないかな――そう思ってたんだ。
王女様との婚約も決まって、順風満帆。と、思ってたらヒューマン至上主義者に襲われた。
幸い王女様は無事だったけれど、あと一歩で死ぬところだった。だというのに、周囲の人間は、天罰だというんだ。
染みついた特権意識、都合のいい一神教への強制崇拝とヒューマン至上主義は、もはやどうしようもなかった。
ありていにいって、この国は腐りすぎていた。だから――――ぶっ壊してやった。
「勇者様、どうかしましたか?」
「あぁ、昔のことを思い出していてな。それと、勇者様はやめてくれ」
「ふふ、わかったわ。タロウ」
「なぁ、エリィ。俺は……俺たちは正しかったのだろうか」
「それは誰にもわからないわ。けれどね、あなたについてきてよかったわ。私だけじゃなく、みんながそう思ってる」
帝国はいま血で血を洗う内乱のまっさなか。だいたい、俺のせいだ。
その王女様に、許しをもらえて安堵する自分がいる。いまも大勢の人間が戦火に苦しんでいるというのに。
だから、この東方フロンティアに逃げてきたんだ。
いまは妻となった王女様のエリィ――エリザベートと、俺を信じてついてきてくれた人たちとともに。
種族も身分も関係ない理想の国をつくるために。
さて、辛気臭いのは終わり。今日も頑張って、このフロンティアを開拓するぜ!
けど、あんまうまくいってないんだよな。降水量が少ない不毛な大地。危険がいっぱいの森。
大自然相手じゃ勇者の力なんか役にたたないし。生活にも役に立たん。
春まで食料がもつかどうか……。内心焦りが募っていく。周囲には隠しているが、心労で眠れない日々が続いていた。
『困っているようじゃな』
誰だ!?
『わしは、土の精霊ノームと申す。わしと契約してくれんかの。さすれば、大地に実りを約束しましょうぞ』
これが、俺と精霊との歴史的な出会いだった。
◆
【 勇者から精霊へ 著アルバ・シュミット 】
かくして勇者と王女一行は、帝国を脱出し、東方へと向かった。
いまでこそ、フロンティアはポジティブな意味をもつが、当時の東方フロンティアは、不毛な大地と魔物がはびこる樹海が広がった『忘れ去られた世界』だった。
フロンティアでの生活は困難を極めた。
とくに食料の確保は喫緊の課題であったが、冬を越す為の食料を蓄えることができそうになかった。
すべてを捨てた帝国へ帰ることもできず、ひたすら開拓を進める日々。その中で、奇跡が起きた。土の精霊が現れたのだ。
今日、勇者と精霊が契約した日をもって精霊文明の誕生とする説が有力である。
しかし、当時の状況を文明と呼ぶにはいささか無理があるように思われる。
なぜならば、食料こそ土の精霊魔法に依存していたものの、日常生活は、人の力に頼っていたからだ。
しばらくの間、精霊魔法を使えるのは勇者と限られた人間だけであり、精霊は日常とは隔絶された神秘的な存在だった。
精霊が日常生活と密接にかかわるようになるのは、これより先の時代、わが国の前身たる共同体「精霊の隠れ里」の出現を待たねばならない。
歴史の体験者として、隠れ里の登場をもって真に精霊文明が誕生したことを、私は強調したい。
それは、勇者のみに依存していた歪な社会から、精霊を介した共同体への発展を意味しているのである。
【 たべものの精霊 著者不明 】
むかしむかし、わたしたちの国ができるずっとむかし、勇者さまがこの大地にやってきました。
勇者さまはとてもつよくて、まものからみんなを守りました。
けれども、たべるものがありません。
畑をつくろうとしても、あれはてた大地では、たべものができません。
森へ入ろうとしても、たくさんのまものがいるせいで、たべものがありません。
みんな困りました。勇者さまでも、たべものを作ることはできませんでした。
そのとき、土の精霊さまが、あらわれました。
精霊さまは、勇者さまとけいやくし、大地をみどりに変えました。
勇者さまはよろこびました。
けれども、すぐにはたべものはできません。
しょくりょうは、いまにも底をつきそうでした。
精霊とけいやくした勇者さまは、作物を育てるまほうを使いました。
作物はぐんぐん育ち、あっというまにたべものになりました。
こうして、たべものに困らなくなった勇者さまたちは、しあわせに暮らしましたとさ。
ですからいまも、わたしたちはかんしゃを込めて、土の精霊さまを、たべものの精霊と呼んでいるのです。
【 魔王 ~帝国の落日~ 著ウルレイカ・フィル・ホーングレン 】
魔物の大群を率いて、世界を恐怖のどん底に陥れた存在、魔王。
魔物の軍勢に急襲されたアストラハン統一帝国の対応は後手に回った。
いくつかの都市が落され、多大な犠牲を払ってなんとか戦線を維持することができた。
国土は荒れ、民心はすさみ、軍に被害が出た。これらは帝国没落の遠因になっている。
魔王との戦争は長期化するかに思われたが、奇跡が起こる。
帝国が勇者の召喚に成功したのだ。彼らによって、たった一年で魔王は討伐された。
かくして世界に平和が訪れたかに見えたが、勇者の反乱によって崩れた。魔王討伐は、続く解放戦争、帝国内乱の幕開けだった。
裏切りの勇者は、秩序ある世界を混沌とさせた。
のちに彼は、魔王は世界の均衡を保つために創造神が遣わした存在だったと証言しているが、真偽は定かではない。
たしかに、種族の垣根を超えて協力し合おうとする風潮はあった。
しかし、仮に事実だとしても、魔王により貴賤に関係なく、多くの犠牲が出たことを忘れてはならない。
神聖文明においても、数多の従属神が顕現したが、創造神の姿を見た者はいない。
ゆえに、魔王をまるで悲劇の英雄であるかのように扱う精霊国人の発想は理解に苦しむものである。
●
・エルフたちや魔物の世界設定は神様視点で徐々に明らかになっていきます。
・神様視点で語られる真実は、住人が体験した事実、それをもとにした記録の偶像をぶち壊すことでしょう。
・期待の新人神様の主人公ですが、全知全能ではありませんので、いろいろと工夫して世界を操っていきます。その根幹が、精霊システムとダンジョンです。
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