第6話 夢の記憶
私は兎洞のことを思い出しながら村にある自分の家へと帰っていた。
生きていた、ただそれだけのことを喜べたらよかったのにな。と何度も思い返す。次から次へと欲求が湧き出てくる。ベットに腰掛け古い記憶を探る。
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「はいこれどうぞ」
「なにこれ」
私はめんどくさそうに彼の方を見て言う。
手渡されたのはお世辞にもうまいとは言えない本、だろうか?
「物語だよ?那古は言ってたじゃん。大好きな騎士があんな辛そうな顔をしていなくなっていくのは嫌だって」
裏がないようなぽかんとした表情で兎洞はこちらを見た。
悲しい終わりは嫌だ、それはそう思うけど・・・と言う言葉を飲み込んで渡された本を見た。どうしろっていうんだ。物語なんて・・・。思い出して私はまた孤独感に際悩まされる。筋書きのある物語じゃない。この夢はどこかで起こった現実なのだ。・・・・けれどもし、私が物語の、その場にいたら助けられたのでは、と言うことは何度もなんども考えた。想像をして、もう終わったものなのだと馬鹿らしくなって・・・。
言葉を話さない私を心配したのか、兎洞はまた言葉を続ける。
「だからね、僕は続きを書いて見たんだ。見て見てよ。これならみんながしあわせになれるよ」
「!」
起こったことは変わらないけど。それでも意味は変わってきてくれるんじゃないかな・・・悲しいことだけじゃなくて。
「起こったことってあなた・・・」
変なことを言ったかな、と彼はこちらを振り返る。
「少なくとも那古はそう信じてるんだよね」
彼がかいた物語は優しい物語だった。それは彼の人柄をも表すようで。
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当時、私はクラスと馴染まずにいた。あえて距離をとっていたのだ。こんな優しい世界に溺れないために。そんな私のところへ話しかけに来たのが兎洞だった。兎洞は初等学校から同じだった。存在だけは知っていた人。中等学校へ入って初めて話をした。私はその時、彼に1つの悲しい物語を話したのだ。その話を聞いた彼はこうして幸せな続きを持って来てくれた。人が良すぎると思う。私の話した物語は幸せな物語となった。けれど、私が話した物語はこんなお話だったはずだ。
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そのお話はきっと何かの副産物だった。 何かの記憶。とある高説の騎士様の記憶。金髪の少女と白髪の少女が楽しそうに笑っている。でもそんな日々も長くは続かないのだ。
彼は優秀な騎士だった。敵を無効化することに長けていて、きっと誰にでも優しかった。だからこそその結末が悔しい。
その災禍の日は前触れもなく訪れた。 ー一一瞬にして失ってしまった なんて儚いのだろうと、その人は涙を浮かべて呟いた。 同じなのに。 もともとは同じように話し、暮らし、支え合った人々。 再びその武器はこちらへむけられた。 共に逃げていた人とは先ほどの銃撃で切り離された。後列であった私達は武器を持つ彼らによって先へ進むことを拒否されている。 ーーあの時沢山の人を失ってしまった。僕らはこれから未来をなせる人を、未来を失ってしまったんだよ。 諦める。もう不可能だ。自分はこれ以上・・・・
火薬だろうか火の臭い、そして血の臭い。
そして圧倒的な死の臭いを最後にその意識は途絶えた。
ーーーきっとこの熱さを。この痛みを忘れることはないだろう。
死に至る寸前に、彼は一人の人間を目にする。
「任せておいてくれていいよ。僕は吟遊詩人なんだ。君の想いはしっかりと受けづいたから・・」
「きっと君のご友人も無事だよ」
「君に伝えられないのが残念だけど」
その風景だけを、ずっと繰り返し見ていた。
かつて起こった出来事なのだろうか。断定はできない。けれど、私は信じている。これはきっと過去に起こった出来事の跡形なのだと。
とても昔に、ひどい戦争があったと聞いた。だから、ここに見た風景もきっと珍しいものではないのだろう。多くの人がどんな理由であれ、この世界からはいなくなっていく。ある人は未練を残したまま、またある人はまだ生きたい、と叫んだまま。
私は傲慢なのだ。私の周囲にいる人間には幸せになって欲しいのだ。彼の騎士には大きな未練を残していることが感じられた。だから、私にもわかった。その彼の意思を私に継いで欲しいと思っていることを。
彼の意思を継ぐと言うことは私の望みを否定することを同時に意味した。私にはやりたいことなんて何1つとしてなかったけど自分のこれから持つであろう望みを否定することは躊躇われた。けれど、ここで私が夢の中の騎士を無視してしまったら、彼の思いは一体どこへ行ってしまうのだろう。君の思いを持っていく、と言った吟遊詩人も得られたもは彼の客観的な心理であり、心の内まではわからなかったのだ。せめて、私が知ることのできた出来事。私はその事実を不意にはしたくなかった。
そんな日々の合間に私は、私が師匠と呼ぶことになる人物に会うことになる。
彼は私のその悩み事をまるで完璧に把握していたかのように私に接してきた。
その結果、彼の思惑通りなのかは知らないが、最終的に私はその夢と決別することになる。
「わたしはあなたの思いを叶えられない。けれど。きっと、絶対にあなたのことは忘れないわ・・・」
ずっと覚えている、と私はいった。あなたは確かに生きていた。そしてわたしに意思を与えた。限り、あなたは決して消えることはない。
「そうだね、僕は思っていたんだ。オルシアもエクレシアも精一杯生きていたのを知っていた。けれど、僕がいなくなってしまったら彼女たちはどこへ行けばいいんだ?」
わたしは驚いていた。ただ見ていただけの夢の騎士がこうしてわたしと対話をしているということに。
また彼は続けて言った。その想いはどこへいくというのだろう、と。
そんなことはわからないけれど、覚えていれば、それは永遠でしょう、とわたしは答えた。その彼女たちにも親愛を感じている。かつて存在していた全てのもの、それがわたしの足の下にはある。過去は決して私たちと離れているわけじゃないんだね。そう呟いていた。ふと思いついた言葉だった。この状況に至って、初めて感じ取れたと言った感覚だった。
その言葉にその騎士はふと微笑みを見せる。何も返答を返していない。だというのにどうしてその騎士はわたしに笑いかけたのかは今でもわからない。
「それをいうなら君もだね。君だって苦しかったはずなのにずっとありがとう」
そう言って夢の中の騎士はわたしから消えて言った。夢というには暖かすぎた記憶。思い返すと、私1人ではその記憶に飲み込まれてしまっていたと思う。
当時の私は初等学年であった。毎日見る夢、見たこともない記憶。思い通りにならず、手には届かない。そんなものがが私をいらただせていたと思う。
助けてくれた人物は、わたしに教理聖堂という場所に属しているんだよと教えてくれた。かっこいい青年でわたしが憧れを抱くには十分だった。
最終的には私を助けてくれた人でもある。だから、私は後々に教理聖堂に助力するようになる。
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そうだ、とわたしはまた思い返した。
私が見ていた夢はそれだけでなかった、と。けれどこの夢は一度見たきりだった。その記憶の中の人物は1人の信仰深い少女だった。
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彼女は、その朝も、悪夢を見たようで、仲間よりも早く起きていた。
そうして、彼女は玄関を開く。周りはガラクタだらけだった。それは当たり前だ。彼女たちはそういった場所を選んで住んでいたのだから。 ーーー空だけには、悠久の記憶が。これだけを便りに生きていけば。 ギィ…下の階へ降りて古びたドアを開いた。周りを確認して何もない事に安堵し、空を見た。そこにはいつもと相変わらず美しい風景が映し出されていた、雲が流れ太陽に覆い被さる。 その光が隠されたとしてもそれは眩しく光り輝く。 ジャリ、と足を動かす。
彼女は「わぁ…」と声を出していた。あそこへ生きたいのだな、とわたしはそっと彼女の見ている空を見ていた。 ーーーあの時沢山の人を失ってしまった。僕らはこれから未来をなせる人を、未来を失ってしまったんだよ また歩き出した。多分、見えやすい場所はないかと歩き回っているのだろう。 彼女はずっとあの風景に見とれていた。 冬の早朝、澄み切った空気は異物を許さないといったように澄み切った空気のみで満たされていた。
彼女はきっとその中で異物にならぬよう気を付けていたのだ。 でも、その注意も長くは続かない。そう、意識するまもなく、空のオブジェに釘付けになっている。 ジャリ、と彼女はもう一歩歩き出した。 寒さが栄えて暑さは衰えきっているこの季節。 彼女にとっては時間などは関係がないのか。 そんな彼女のことだから、遅刻をするのは当たり前の事であり、仕方がないなあと思われていたのだろう /*その先は駄目なんだ、オルシア!*/
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何かおかしな叫びを聞いた。
わたしが知っているのはそのぐらいかな、と言ってわたしはベットに横たわる。
「本当、悪い悪夢よね」そう言って私は何をするのでもなく手を天井へと伸ばした。
届かないよ、そんな気弱な言葉を心のうちで聞いた気がする。
「・・・・」
昔、言葉が必要とされていなかった時期があったと聞く。
その時、どうやって・・・・。伸ばした手のひらをぎゅっと握りしめ、ベットの上へと移動する。身体を横にして枕を抱きかかえた。 あれは起きたこと、もう過ぎ去ったこと。もう変えられようのない過去。
あのような崇高な人でも避けられようのない悲劇!そう考えて、私は窓をあげて空を見る。不気味なほどに浮かぶ美しい文様。まるで城のようだと思う。この風景を兎洞は好本当に好きだった。けれど、私はどうしてもこの風景を好きにはなれなかった。それは今でもそうであって。
まるで、私たちに重みが押しかかってきているようだ。
懐かしい記憶ばかり思い出していた。
身体を起こし、ベットから身体を離し、床へ立って少し身体を動かす。
「・・・そんなことない、明日からかつて兎洞の引越した場所へ行くのよ、準備をしなくちゃ!」
そう声に出すことで気分を入れ替え、私はあしたへの準備へ取り掛かった。
かつて見続けた夢。今はもう見ない風景。確かに存在した人々。そんな彼らを私は・・・
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