第4話 最初のクリア
昔あった、共同意識はもうすでに壊れている。
「僕ならテイアの鍵になれる」
と僕はいった。
「我々の願いはテイアへの道筋を閉ざすこと」
と、乗末さんはいう。
「私はテイアに行くことが目的」
と蓑輪さんいった。
その結果出来上がった同盟関係。
「我々はまずテイアへの鍵を手に入れることが目的で、君が必要だ。ところが君にはその願望はないんだろ?」
手伝いを申し出た僕に乗末さんは疑い深く聞いた。
「ええ、言ってしまえば僕はテイアには興味はないんです。けれど、テイアに行くことが僕の役割だから手伝います」疑いを持たれないように自然にいう。本当に、後ろめたいことなんて何1つとしてないんだから。
だから、君達の力を僕たちに貸してくれ。僕は無力だ。ただ鍵になることにしかなれない。さらに言葉を続けた。
「勘違いしなくてもいいんですよ。人は生きた証というものが欲しいでしょう?僕は凡人なんですよ。代替可能で僕の代わりはいくらだっている。だけど同じものではないでしょう?だからね、僕が僕なりに自分になれる方法、考えたんです。まあ、この方法しか思いつかなかったわけですが」
そう言って僕は彼らの合意を得た。つかの間の同盟行為。
その楽編の場所へ至るまでの期間の強力だった。
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「随分と汚れてきたなあサワオク。洞窟に入った時はそれでも綺麗な服だったじゃないか」乗末さんは笑いながらそう話しかけた。
「ちょっと面倒ごとに巻き込まれましてね」
やっぱ関門というからにはそう小手先ではいかなかったようです、と答えた。それでも面白いものを見ている様子の乗末さんに、僕は言葉を続ける。
「いきなり過去の風景の幻覚見せられたんですよ」それでムキになって地面に突っ伏した、と。地面に突っ伏すとは何があったんだよ、と返す乗末さんと僕を見て、そばにいた少女が言葉を発する。
「本当変わったのね兎洞」
見慣れない顔だった。忘れたの?とその少女はさみしそうな表情をする。怒るのでもなく、皮肉を言うのでもなく冗談をいうのでもなく。
「君は・・・」
「畦倉那古よ。忘れたの?ほら、昔・・・」
思い出した、と僕は笑いかけた。さっき幻影にも出てきたのに、どうして忘れていたのだろう。と、同時に罪悪感も浮かんでくるのだった。
「いやいやいや、なんているの那古」
同盟は蓑輪さんと乗末さんと僕の3人だったはずですよね、と乗末さんの方を見て確認する。いやそれがな、と乗末さんは話し出した。
「お手伝いがいた方がいいかと思って」
さっき来てもらったんだ、と何気無い様子でいう。
はい?と僕は素っ頓狂な声を出す。僕の守護はきっとあなた人でも大丈夫ですーーー。この人こういうところが本当予想がつかないよな。まあよろしく頼むという乗末さんの言葉を聞いて、
申し訳なさから僕は手を振って彼女の方へ近寄ろうとする。けれど彼女はただ悲しそうな顔をして顔を横に降っただけだった。
ただ、その行動だけで僕を拒絶しているということが感じられた。参ったな。その行為は少し前に僕がしてきたことじゃないか。
さて、と乗末さんは手を叩いて
「これで3つのうち、1つの難題はクリアされたぞ。お疲れだったな、サワオク。」
お気になさらず・・・そう言っても僕は那古に近づいていう。
「もっと笑いなよ、那古。」
せっかくの再会だろ?とさっきの言葉を繰り返す。
必要ないわ、と顔をそらしてそそくさと前を歩いて行った。
その言葉に幾らかの寂しさを感じつつも空を見た。
この世界には古いおとぎ話があった。
天上の世界のこと。
昔とてもえらい王様が世界を統一した。
罪なき世界を。
罪なき世界なんて、そん世界を実現したものならば、もはや救済者にも見えて来るものだが。
・・・そっと今の関係を振り返る。
僕は那古とも仲良くはないし、乗末とも契約関係にしかない。
細い糸。まだ利用価値があるから組まれているグループ。
「さて、蘇我品のところへ行くか」そう乗末さんの言葉で僕たちは指針が決まる。
「今回の関門の場所は無事突破でよかったな」
そうですねと僕は返す。そして空を視界に捉えつつまた話す。
「出来ればこのまま進めばいいんですけどねえ・・・」
那古は黙ってついてくる。
この光景に何か冷たさを感じながら歩いて行った。
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「クリアしたか。よかったな那古」とピンク髪の女性は言う。
「私たちの目的が達成されるという意味では良いことですね」
彼女のその声はどこか淡々としていて。
だから乗末のような周りの感情を考えない奴でも何かほかの思惑があったんだなということが感じ取れた。
「お前、帰りたくなったらいつでも帰ってよかったんだぞ?」
わざわざこんな場所までついて来て、と心底呆れたようにその女性はいう。
「良い観光でした」
「・・・」
まあ、お前がいいならいいけどさ、と行って彼らは飛行機へ乗り込んだ。
彼らの拠点は遥か遠くにあった。
このトネの地ではなく。
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「そうだね、僕は澤奥兎洞だ。」
本来僕と蓑輪はただクラスの弾きものといった感覚でしかなかった。たまにしか学校にやってこない那古。同年代の子など興味がないと言った様子で、クラスの子達が話しかけに来たとしても無言で立ち去ってしまう。
僕は興味がなかった。ただ空だけを見ていた。
だから、本当はあの事故でいなくなった人たちなんてーーー
「彼の性格が変わったということは私でもわかります。」
事件が起こって、学校に登校しはじめた当初、その時、那古はそう答えた。
大事故の後、僕は性格が大きく変わったというわけで、腫れ物のような扱いを受けた。
勿論、それは他のクラスの子たち、つまり被害にあわなかった子にも当然のごとく気味悪がられた。
近所の人は前の自分は妖精が連れていったのだ、なんて噂をした。
それでも親は僕を守ってくれた。とても感謝している。と、同時にそれはどれほど彼らの重みになってしまったのかも知っている。
とはいえ、僕は僕なんだ。そう思って生きてきた。
僕と同じ人間なんだから仕方のないこともあるんだ。隠された罪も、贖罪も、・・・贖え・・・そんなことを考えながら僕も飛行機に乗り込んでいた。
6年前、あの事故の日。僕はかつてあった生活の全てを失った。僕は腫れ物扱いしてくる住人や学校が嫌になり、引っ越すことになるのだった。かつて生活していた村を思い浮かべてた。小さな村だ。情報の電波は驚くほど早かった。
だから、高等学校を卒業した後、その村、つまり僕の生まれた村へ赴任することになったときには驚いたものだった。
村の風景自体は変わっていなかった。勿論、そこの住人たちも大方は変わっていなかった。出て行って、入って来て、といったものはあったのだと思う。当たり前のように事件のことは完全に忘れ去られたわけでもなく、僕は道ゆく人から見られていたのに気づいていた。けれど、「人は見たいものだけを見る、真理ね」
そう笑った彼女を覚えている。何かの縁でしょうと彼女は笑って言った。
「せっかくなのだから笑なさいな。わたしも少し前にここに越していたのよ、加えて持病があって、買い物に行くのも億劫なの。だから、私の手伝いをしばらくなさい?」そうして過ごした日々がどれほど幸福だっただろうーーーそんなことを思い出しながら僕は眠りについた。
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