第98話 『なんとなく』の話。(はじめて取材を受けて改めて思った事。憧れのノンフィクションライターに紹介していただいた事。)

 はじめて取材というものを受けた。楽待新聞さんという不動産投資専門のネットメディア。2023年8月4日に記事が公開された。


 私が一番伝えたかった事は『仕事のストレスでインポになりました。どうか憐れみをください。まだまだ沢山売れ残っている筈なので、どうかコミックエッセイを買ってください』である。

 私個人にとっては人生での特筆すべき悲劇だし皆々様へお願いしたい事なのだが、そんな話など先方は望んではいない。「知らんよそんな事」だろう。


※「入居審査は信じるな」!? 家賃保証会社の現役社員が明かすホンネ

コミックエッセイ『出ていくか、払うか 家賃保証会社の憂鬱』の原作者にインタビュー

https://www.rakumachi.jp/news/column/315907?uiaid=tw_pg


 加えて先日はノンフィクションライター クーロン黒沢さんにコミックエッセイを動画の中で紹介していただいた。

 シックスサマナという電子書籍の編集長。シックスサマナは本当に面白い。貪り反芻するように何度も何度も読み返している。

 クーロン黒沢さんはまさしく天才である。だから本当に嬉しかった。


※シックスサマナライブ 信者という働き方

https://www.youtube.com/watch?v=E9qS1i5wlAM

※有料ですが、本当に面白いです。


 話を戻す。


 楽待さんの取材から出来上がった原稿を確認したり修正したりしていて、改めて思う。やっぱり家賃保証会社の、特に管理(回収)担当者の仕事は解りにくすぎる。そして、全家賃保証会社の事など私は知らない。知っている人間もたぶんこの世にいない。


 各社バラバラなのだ。記事中に延滞発生率は「10%程度」と出てくる。もちろん私の発言で嘘でも無いが、あくまで私の知る範囲の話だ。

 全く違う延滞発生率の会社も当然ある。上下どちらかはともかくとして。

 殆どが上場もしてない家賃保証会社。そうでなくても延滞発生率など公開してない。する理由も無い。


 以前にも書いたと思うが、ある不動産会社の子会社の家賃保証会社は異常に延滞発生率が低い。その会社の役員から直接数値を聞いた人間が私に言った。


「あそこまで数字(延滞発生率)が低いと、家賃保証会社と言うより単に保証料を吸い取るだけのシステムだ」


 なぜそこまで低いのか? 『延滞発生しそうな人間』は他社──例えば独立系の保証会社に投げるから。


 どうしたって説明し難いものもある。『なんとなく』の感覚。

 私は『お金を払って下さい』という仕事を最初に小さなサラ金で経験した。もう20年以上前の話だ。今では絶対できないような手法も使っていた。

「なんとなく延滞客の家ってわかるよね。番地とかアパート名とか見なくても」

 同僚が呟いた。私も当時は経験が浅かったが、なんとなくわかるようになりかけていた。


 例えば家賃保証会社の管理(回収)担当者として2年くらい経過すれば、もちろん人にもよるが、なんとなく『夜逃げしている』『中で死んでいる』。そういう感覚が働くようになる。100%からは遠くても『なんとなく』。それは結構、当たる。


 私が『ソナーマン』と呼ぶ同僚がいた。彼は『ドアをノックすると室内の物量がわかる』と真顔で私に言った。夜逃げした部屋限定だそうだが、そんなの、真に受けるわけがない。わかる筈がないからだ。人間にそんな機能は備わっていない。


 しかし、それなりの率で彼は『当てる』。


 もちろん本当にノックの反響で物量がわかる筈がない。経験と勘と延滞客の人物像からの推測だろう。もし本当にそんなものがわかるなら、彼はどこかの研究施設で頭に電極とか埋め込まれるべきかもしれない。とっても珍しい動物だから。


 例えば延滞客が夜逃げした。家財道具は撤去。明渡は完了。いつもの仕事。

  

 ではどこで『夜逃げ』と判断するのか。単に部屋の使用が無いから? ライフラインが停まっているから?

 これも以前に書いたと思うが、人それぞれに判断基準がある。


 TVの有無は大きな材料だと思う。延滞客の部屋などかなりの率でゴミだらけ。夜逃げするような状況なら尚更だ。

 TV台にホコリが積もっている。しかしTVがない。『引越ししたよね』というポイントになる。

 衣類の量や靴の数はもちろん重要。女性の場合は特に下着。下着が全くないのなら、もう帰ってこない可能性が高いと思う。しかしそれも結局は『思う』だ。


 ともあれ、沢山のモノがある中で『何が無いのか?』に注目する。 


 では全ての状況が『夜逃げ』と示していたら家財道具を撤去するのか?

 そうではない。

『もう延滞客が戻ってこないか?』更には『もし仮に戻ってきても、部屋の明渡が完了されてカギが交換されている。中の荷物が無くなっている。延滞客は諦めるか?』など、結局のところ絶対に正確にはわからない。


 もちろん『これこれこういう状況だから部屋は明渡されてると見做して残った荷物を撤去しました』と説明できる状況だからそうしている。それはそうだが──私は10年以上、家賃保証会社で管理(回収)担当者をしている。

 家財道具を撤去した数は──入居者が死亡したものも含めて──100や200ではない。1ヶ月で10件撤去した事もある。

 一度の苦情も、ましてや損害賠償請求された経験などゼロだ。

 苦情や損害賠償請求などが『発生しない』から、撤去している。


 最終的な判断基準はどこなのか? これがもう『なんとなく』である。 

 

 部屋に『何が無いのか?』、部屋が『どれくらい使用が無いのか?』だけではない。『どういう人物だったのか?』当然に判断基準だ。


 状況が全て『夜逃げ』を示していても、アタマにアラートが鳴れば訴訟手続きをする事もある。『あと1ヵ月部屋の使用が無ければ……』とその場の判断を保留する事もある。逆に、傍から見れば危なそうでも『大丈夫』と進む事もある。


 しかしこんなもの本当に、本当の所、『なんとなく』である。決して科学ではない。『あなたの感想ですよね?』と言われたらその通り。そうではあるがまず、『外さない』。

 

 延滞客が支払うのか、出ていくのか、そんなものも本当の所はわからない。延滞客本人にだってわからないかもしれない。


 そういうあやふやな仕事の話を私は書いている。


 あなたは人間の、ある仕事をそれなりの期間続けている人間の『なんとなく』を、どれくらい信じる?

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