第44話 家賃の総量規制をしてくれないもんですかね?

──こんな収入で住める部屋なわけないだろう?


延滞が発生する。顧客情報を見ながら電話を架ける。頻繁に、そう思う。


延滞客が退去する。明渡訴訟を提起されて強制執行される。


そもそも彼らはその部屋に入居できる身分では無かったのだと、強く思う。



妥当な家賃は、手取り収入の3分の1とか4分の1とか、それくらいと言われる。

しかし往々にして入居直後に延滞を起こす人間はそのような家賃の物件に住んでいない。


月収18万円なのに家賃9万円の部屋に住んでる男性。

月収20万円なのに家賃11万円の部屋に住んでいる女性。


コイツらは、死んだら英霊になるのではないか?

それくらいの剛勇である。


支払いができるわけがない。

よくそんな賃料の部屋と契約するものだと感心する。


だが、不思議に思わないのだろうか?


誰がどうみても、無茶な家賃なのである。

仲介する不動産会社もわかっている。

わからなかったら白痴である。


ならばなぜそんな部屋を貸すのか?


理由の全てではないが、家賃保証会社が存在するから──というのも一因だ。


『家賃保証会社と契約させるから、家賃の取りっぱぐれはありませんよ』


まさしく『生活保護だから家賃の取りっぱぐれはありませんよ』──と家主を説得し、生活保護受給者を入居させる不動産仲介業者と同じ構図である。

生活保護受給者の場合はそこに『念のため家賃保証会社とも契約させましょう』と付け加える。


生活保護受給者には確かに住宅扶助(家賃)が支給される。

だからといって延滞が発生しないなど有り得ない。

それは私が散々にこれまで書いた。



家やマンションを購入する35年ローンは法律で規制しろ、という意見がある。

終身雇用も年功序列も既に存在しない。無理があるからと。


貸金業法には総量規制がある。

名目的には『年収の3分の1までしか貸付できない』という規制。ただし思いきりザルな制度。抜け道とすら呼べない簡単な方法ですり抜けられる。が、まぁ心意気としては、返せもしないカネを貸すなという事だ。


家賃の上限規制が定められた国もある。

日本ですら地代家賃統制令が1986年末まで存在した。


しかし家賃の規制は基本的には『更新時の家賃値上げを、無制限に上昇させる事は許さない』である。

新規の契約を規制するようなものではないし、現代の日本には存在しない。


もちろん、外国にあるような家賃の上限規制にはいろいろな不具合が存在する事は理解する。

投資用マンションを建てよう、買おうという動機が薄くなる。市場原理に委ねるからこそ、不動産投資は投資の対象として魅力的になる。


ただ少なくとも私は、賃貸物件の賃借人に対して規制は必要と思う。

それは前述したような家賃上昇を抑制する規制ではない。

総量規制のような『月収の〇分の1までの家賃の部屋しか借りられない』という規制が必要に思うのだ。


こんな規制は存在も提言も聞いた事がないが、それでもだ。

(もしかしたらあるかもしれないが)


因みに私は、貸金業法の総量規制に関しては反対である。

なぜなら純粋に借主と貸主(貸金業者)の関係だからだ。

貸し倒れリスクが許容できないのなら貸さなければ良い、それだけだ。



貸金業者はそうなのだが、家賃保証会社は少し違う。違うのだ。

どうしても契約時に不動産会社や家主が間に入る。


賃借人に家賃保証会社を選ぶ余地が殆ど存在しない。

不動産管理会社・家主と取引のある家賃保証会社と契約させられる。


それは逆に言えば家賃保証会社も契約相手を選ぶ余地がないともいえる。

どういう事か?


Aという信用力の低い入居希望者。彼はある大手の不動産会社を通じて家賃保証会社へ申し込みをする。

当然、家賃保証会社には審査基準が存在する。が、家賃保証会社と不動産会社との関係次第で、審査基準を緩くせざるを得ないケースがあるのだ。


なぜか?


そういう信用力の低い客の契約も引き受けるからこそ、不動産会社はその家賃保証会社を使ってくれるからだ。


であるからこそ『どう考えても払えるわけもない契約』が成立する。

契約者との間に、基本的には何者も介在しない消費者金融では有り得ない契約だ。



自ら経済的に破滅する連中はこの世に存在する。たぶん未来にも生まれ続ける。


誰がどう考えても払えない家賃の物件を契約する。


最初の支払いから延滞する連中など、家賃保証会社の管理(回収)担当者ならゴマンと目にする。


入居直後に仕事先を退職する。最初から払えない。

彼は2日後の支払いの予定すら考えずに行動する。


彼らはそういう人間なのだ。

彼らは誰かが規制しなければ、どうしようもない程に、どうしようもない連中だ。


では果たして総量規制のような『月収の〇分の1の家賃の物件しか借りられません』という法規制は可能なのか?


当然、賃貸用物件の新規着工は減るに決まっている。

しかし人口がどう考えても減少する日本でそんなものがボンボン建つのが異常である。


レオパレス21やTATERUで問題になった『投資用アパート』。

そもそもあんなものに需要があったのか。

誰も、カケラも、オーナーに同情していない。単なる投資失敗だからだ。


価値があるのかないのかわからない仮想通貨に賭けた連中とどこが違うのだ。


仮に投資用物件で儲けたら寄付でもしてたのか。するわけがない。

だから誰も同情していない。



東京の人口はまだ増えると予測される。賃貸物件の需要は、増えるかもしれない。

私は、だからこそ規制をして良いのではないかと思う。

東京一極集中は問題なんだろう?


だったら、規制は家賃も払えないような人間を地方に放出する効果もあるのではないか?



視点を変える。


払えもしない家賃の契約を引き受ける家賃保証会社にも問題はあるのではないか?

そう言われるかもしれない。全くその通りだ。


ただ、以前にも書いたようにこの業界は既に消耗戦に入ってる。


家賃保証会社と契約した際に入居者が支払う保証契約料。

これはある程度の割合で不動産会社へキックバックされるのが常だ。


そのキックバックの率が60%を遥かに超える家賃保証会社すら存在する。

社員は当然低賃金。それでも存在する。してしまう。まさに牛丼戦争の家賃保証会社版が現在進行形で展開している。


消耗戦がいつ終了するのか? たぶん延々と続く。

入居者が払えもしない契約を引き受ける家賃保証会社も無くなりはしない。


それが誰を幸せにするのだ?

仲介手数料を手にする不動産会社と、まがりなりにも家賃収入を手にする家主だけだ。

それは投資の失敗を無理矢理に家賃保証会社へ転嫁させて取り繕っているだけではないのか?


少なくとも消費者である入居者は幸せにはなっていないのではないか?


不動産会社にも家主にも、そして家賃保証会社にも自制は期待できない。


できないので、悲しいが『月収の〇分の1の家賃の物件しか借りられません』という法規制をしてくれないもんですかね?


どう考えても払えるわけもない部屋に住み始める──自ら破滅の道を征く連中と話すのは、疲れるのだ。

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