第17話 Investment target

もっとも儲かる家賃保証会社のスタイルをご存知だろうか。完全とはいかないまでも実践している会社もある。


改まって書くのも恥ずかしいがそれは、保証をしない事だ。



今回は少しいつもと話題を変えたい。家賃保証会社も上場している所がいくつかある。今後も増えるだろう。では家賃保証会社は投資対象としてどうなんだろうか?


いまさら書くまでもないが、私は家賃保証会社の経営者や役員ではない。財務担当者ですらない単なる管理(回収)担当者だ。


だから今回は無学な管理担当者の与太話と思って聞いて欲しい。


2018年。タイ。パタヤ。

東南アジア最大の風俗街を擁するリゾート地。


年々日本人を見かけなくなっていく気がする。


若い男女や少人数グループなら韓国人、団体なら中国人、ビジネスマン風ならインド人が多いように最近は思う。

昼間のビアバーから廃人のようにぼんやり通りを眺めているのは主にリタイアした白人か。


ビアバーで一人で呑んでいると中国人の若いビジネスマンから話しかけられる。

勉強している日本語を使ってみたいそうだ。雑誌にたまに書いてある詐欺師とかではないのは一見してわかる。適当に話してはいサヨナラ。


日本人は本当にみかけなくなった気がする。

そして反比例するようにインド人が多くなっていると思う。



それを顕著に示すのが、風俗店の女の子だろう。

看板にはインド人好みの濃いメイクの女の子が微笑んでいる。



以前は水タバコが吸えるビアバー等は見かけなかった気がするが、最近はよく目にする。


ビアバー10店舗程が蝟集したエリア。海沿いがテラスのようになった場所が私は好きだ。


ビールはハイネケン。あまりシンハーは好きではないから。


カウンターから年配の女性(経営者ではないと思うが)が出てきて隣に座る。

女の子を呼ぶよう話しかけてくる。女性が指さした「オススメの女の子」が私に微笑む。

まあいいか、と私も笑って──彼女にドリンクを一杯奢る。


しかし隣に座ってもらいたいとは思わない。カウンターからこちらに来ようとした女の子を手で制して、来なくて良いとやんわりと伝える。

私は夜の海を眺めてぼんやりしたいのだ。何も考えずに。


それでも商売。ママさんが話しかけてくる。


ペイバーは600バーツ。ロングなら女の子へチップ4500バーツ。

へえ、先ほどウォーキングストリートで話したゴーゴーバーの女の子はロングが5500バーツといっていた。年々値上がりする。日本では考えられない事だ。


要らないと返答する。私はここへはそういう事をしにきているわけじゃないからと。いつも使う断り文句。



簡単にビアバーやゴーゴーバーでペイバーとか呼ばれる料金の意味を説明する。


買春のためお店の女の子を連れ出すなら、店に連れ出し料を支払う。これをペイバーと呼ぶ。

ロングやショートというのは、女の子を拘束する時間だ。ショートならセックス一回で終わり。

もちろん、ロングの料金を払っても、なんだかんだと理由をつけて帰る女の子もいる。フィリピンならその傾向は更に顕著だと、以前マニラのホテルで白人のオッサンに聞いた。

まあ、その辺りは女の子との相性や彼女の性格次第なんだろう。日本の風俗店のようにキッチリしてない所は良いと思う。


最近は1バーツが3.4円くらいで推移しているので、5000バーツなら17000円くらいか。


例えばタイの適当な安っぽいレストランでガパオライスを注文すれば150~200バーツくらいだと思う。500円は確実に超えるのだ。

吉野家の牛丼より高い。

旅行雑誌で安い安いと喧伝される屋台のチキンだって、50バーツくらいはする。

ならばファミチキと大して値段は変わらない。



昨日はバンコクのプロンポン駅近くのビアバーにいた。

女の子に誘われるままビリヤードを楽しんだ。彼女は、売春をしないと言っていた。


国が豊かになれば、売春で生計を立てなくても良くなる女性が増える。

それは、とても良い事だと思う。


経済格差が激しい国なので一概に言えないが、バンコクに限れば既に大阪市より豊かに見える。


少なくとも私がある程度の教育を受けた外国人だったとしたら、わざわざ日本にやってきて働きたいとは思わない。



ところで、私はタイの事情通でもなければ風俗通でもない。

それがなんでこんな事を書いたのか?


──家賃保証業界のエラい人が注目している商機。それは多分「移民」だ。

もっとも、外国人労働者の受入は移民とは違うらしいが、世間ではやっぱりそれは移民だろうという事なので今回は「移民」と書く。


少なくとも私はある大手保証会社の役員から、今後の商機は移民だと面と向かって言われた事がある。


家賃保証会社で上場している企業はいくつかある。

民法改正や、移民受入の報道などを見て、家賃保証会社を注目している人もいる。



民法改正では今までのような連帯保証人を付けられなくなるし、移民が賃貸物件を借りるなら保証会社を使わざるを得ないから、家賃保証会社のニーズは高まるという事だろう。

高齢化社会は保証人に成りうる人間の減少でもあるので、人口減すらも家賃保証会社にとって追い風だ、と考えている人もいる。


ただ、本当にそうだろうか?

家賃保証会社はそれほど将来性のある業種なのだろうか?

ニーズがあるというのは必ずしも儲かる事を意味しない。

葬儀や介護のニーズは確かにあるが、ブラックで有名な業界でもある。両方の業界共に、それほど儲かっているという話は聞かないが、それは私が知らないだけだろうか?

ちなみに東証一部へ上場している葬儀会社ティア。

ROEは13.6%。

企業の良い悪いの目安の一つは、ROEが10%以上かどうか、らしい。ティアの数値は、立派な数字である。

しかし、葬儀業界全体をいま成長産業と捉えている人はどれくらいいるのだろう?


もちろん、私は経営者や役員ではない。財務担当者ですらない単なる管理(回収)担当者だ。



ただ、冒頭に書いたが、もっとも儲かる家賃保証会社のスタイルは──保証をしない事だ。これは間違っていないと思う。

そして完全とはいかないまでも実践している会社はある。どういう事か?


元々家賃というのは、例えばクレジットカードでの買い物やキャッシング──と比較すれば延滞発生率は低いと言われている。

(私はクレジットカードも含めた消費者金融業界、家賃保証業界でずっと働いているが、延滞発生率に関する統計的なデータをここで示せるわけではないので「言われている」と書く。実際、そう言われている)


大手不動産会社は自社で保証会社をもっている所も多い。なぜか? 儲かるからだ。

家賃の延滞は発生しないだろう──という入居者には、子会社の保証会社と契約させる。

当然保証委託契約料は支払ってもらう。しかし延滞は殆ど発生しないのだから、代わりに家賃を払わなくて済む。何もしなくていい。

これがビジネスと呼べるのか少し疑問も残るが、儲かる事は確かだ。


延滞発生が予見される入居者には、外部の独立系保証会社と契約させる。

そして独立系保証会社は入居者から支払われる保証委託契約料から10~30%(もっと多い場合もある)を、不動産会社にキックバックしなければならない。

それが不動産会社との契約なのだ。


かくして良い入居者は不動産会社の子会社の保証会社へ集まる。

しかし、延滞が発生しないと予測できる入居者であれば、そもそも保証会社と契約させなくて良いのではないのか?


ある大手不動産会社系列の保証会社は、異常に延滞発生率が低いと、別の会社の役員から聞いた。

延滞発生率はあくまで伝聞でしかないが、その会社はそうできるシステムをもっている。


その大手不動産会社は外部の保証会社にもたくさん保証させている。

自社系列では保証したくない入居者を渡しているのだろうとは、誰でも理解できる事だ。



上は1ヶ月の賃料が100万円を超えるような物件。下は高齢者や、非正規雇用、単純労働へ従事する外国人等が入居する物件。


儲かるのは当たり前だが前者だ。


仮に延滞が発生するにせよ、回収にかかる人的コストはそう変わらない。


そして、貸倒れが起こっても高級物件であれば敷金6ヶ月など納めている場合がある。その場合、保証会社は本来入居者へ返金される敷金から債務の充当を受けることもできる。


ここが低所得者層の多く住むいわゆるゼロゼロ物件との違いだ。



予測できる将来、増えるのはどちらか?

たぶん低所得者層相手の賃貸物件だ。


地方なら、賃料の高い物件そのものが少ない。


そして賃料の高額な物件で稼いだ金は、安い賃料の物件での延滞回収コストへ吸い取られる。


では前述した不動産会社系列の家賃保証会社であれば儲かるではないかと指摘されるかもしれない。

それはそうかもしれないが、子会社なのだ。そして、そういう会社は上場はあまりしないと思うので、普通の人は投資する方法がないのではないか。


加えるなら、いくらリスクの高い入居者を外部の独立系または金融系の保証会社へ委託させても、不動産会社が金銭リスクのすべてを回避するというのは困難だと思う。


孤独死が発見された部屋や、外国人がめちゃくちゃな使い方をした部屋の原状回復費用は、とても保証会社からの保証では賄いきれない。


であればやはり不動産会社や家主の負担は発生するのだ。


不動産系保証会社が健全経営ができたとしても、親会社のコストが増大するならあまり良い話ではないだろう。



移民や更なる高齢化によってもしかしたら一時的には保証会社の売上自体はハネあがるかもしれない。


ただ、それから時間が過ぎれば──延滞の発生、原状回復費用発生──貸倒れが顕在化する。たぶん、顕在化までにはそんなに時間がかからない。

家賃の延滞など発生する人間は入居2ヶ月目から発生させるのだから。


仮に移民が大量に日本にやってくるとして──延滞を発生させないような良質な外国人は日本へ来たがるだろうか? 私が頭の良い稼げる外国人なら、日本で働こうとは思わない。



そもそも明るい展望など、少子高齢化が更に進む日本中のどんな業種にもないのかもしれない。しかし、中でも家賃保証業界は数少ない「ニーズはある」と言われている業種だと思う。

かつて介護業界がそう言われていたように。かつて葬儀業界がそう言われていたように。


家賃保証業界は本当に有望なのか?


もちろん、未来予測は絶対に当たらない、という一点のみ確実に的中するのだとは思う。

世界経済は超長期的には成長するにしても、ある特定の国のある一つの業界が投資対象としてどうかなど、不確実性が高すぎて予測は困難だ。ましてや上場しているある一社についてなど、絶対に予測不可能である。


だが予測はできないにしても、私には家賃保証業界は、そんなに明るい展望のある業界でもないと思うのだ。


皆さんはどう思うだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る