杉三シリーズ、概要とキャラクター
増田朋美
概要とキャラクターまとめ
杉三シリーズ、登場キャラクター(小説版のみ)
これまでの話数を整理するため、また、読者が混乱することを防ぐためにも、一覧を作ることにしました。ネタバレもありますので、未読の方は注意。この一覧には、小説版に登場したキャラクターのみ掲載しています。
1、主要キャラクター
主人公と、富士市の人々
影山杉三(かげやますぎぞう)
本作の主人公。通称杉ちゃん。読み書き計算と、歩行が自力でできないのに、どこか魅力のある、不思議な男。年齢は45歳と公言しているが、数字の概念を知らないので、正確な年齢は不詳である。定職にはついていない。本人の自称によると、商売は和裁屋。
普段着でも外出着でも、黒と白色の麻の葉柄の、大島紬(黒大島)の着物を着用する。羽織は身に付けず、袴もつけない着流しであり、柄はすべて麻の葉柄(吉祥文様のひとつ)で統一する。特に必要がない限り、和服で生活し、洋服は一枚も持っていない。黒大島を着用してはいけない場所(本来黒大島は、普段着であり、式典などには着ない)であっても着用して驚かれたこともある。
金銭に関して、全く執着しないのも特徴で、一万円札と五千円札の区別もできない。一人で買い物をすることはできず、必ず誰かに手伝ってもらって買い物をする。しかし、店の中で行われている、懸賞や福引などで当てる確率は高く、高級なものを引き当てて、それが騒動を巻き起こしたことも多い。
好物は、カレーライス。ルーの名前を読めるわけでもないのに、ルーを使い分けて、様々な辛さのカレーを作る。初めて出会った客人には、必ずカレーを作ってもてなす。得意料理はカレーに限らず、おかゆやサラダなど、様々な料理を作ることができる。化学調味料や農薬を嫌い、食材は高級野菜ばかり使用する。どんな栄養食品もカレーには叶わないと豪語し、ドリンク剤等が嫌い。
古筝(和楽器の箏の先祖にあたる、21絃の楽器)を趣味的に弾く。ノロに習ってからは箏も弾きこなすようになり、宮城道雄「手事」が十八番である。
和裁の腕前は、訪問着も簡単に制作できるほど腕が立つ。そうなると国家試験である和裁技能士一級が取得できる腕前だが、称号(資格)を持つことが大嫌いであることや、読み書きができないので、試験を受けたことは一度もない。
学歴は、小学校すら卒業しておらず、いじめられた経験もあったようで、「学校は百害あって一利なし。」という哲学を貫いている。時に、学校に通う子供たちに、「杉三のあきめくら」とからかわれている。なお、あきめくらという言葉は、現在では差別用語であるが、杉三は「響きがいいから」という理由で使用している。学校は、二度と行きたくないというが、何故か教育関係者にはよく説教をする。
歩行不能なため、車いすで生活しているが、電動車いすは大嫌いで、ぼろぼろの手動の車いすで移動する。誰かに買い替えを勧められても、買い替えたことは一度もない。歩行不能となった原因は不詳。
一人称は「僕」。二人称は「お前さん」。基本的に、誰に関しても敬語は使わず、使うのはからかい半分で話す時のみ。称号や苗字、芸名などで呼ぶことも嫌い、特に気になる人物には、妙なあだ名をつけて、本名をすぐに忘れる。自分のことを「杉三さん」などと呼ばれることも苦手で、ほとんどの人に「杉ちゃん」と呼んでくれと、頼んでいる。
嫌いなものは、学校の教師と、政治家、そして沢井忠夫。この三名に対しては、「有害人物」と公言するほど嫌い。
歌が上手いという設定である。見事なベルカント唱法をしっかり身につけており、炭坑節からオペラアリアまで歌いこなせる。
杉三の障害については、言語的には流ちょうで言語的に問題はなさそうである。文字が読み書きできないのは、現在よく言われる「ディスレクシア(難読症)」と思われる。黒大島以外着用しない、車いすを買い替えしないなど強いこだわりもあり、自閉症的な一面も見られる。総称して、なんという病名になるのかは不詳。本人が自己紹介するときは、「僕は天下一のダメな男」もしくは、「僕は世界一馬鹿な男」と、称することが多い。また、「障碍者ではなくただの馬鹿とよべ」や「すべてのものは馬鹿の一つ覚えでできている」など日常的に「馬鹿」という言葉を多用するが、誰に対しても偏見は持たず、すぐに親しくなってしまう、和裁に関しては天才的な能力があるので、完全に「馬鹿」とは言えない一面もある。決め台詞は「バカは明るい」。
伊能蘭(いのうらん)
杉三の親友で、年齢は46歳。刺青師。杉三と同様に歩行不能。ごみ置き場の前で倒れていたところを杉三に発見されて出会った。子供のころは画家志望であった。ドイツへ留学し、ベルリン芸術大学卒業。その後大学院へ進んで研究し修士号を持っている。しかし、学生生活が長かったことが災いして就職することができず悩んでいたところ、たまたま偶然刺青師彫菊(本名菊岡和美)に拾ってもらって弟子入りし、刺青師となる。芸名は「彫たつ」。
刺青師となってからは、エリート大学出身であることもあり、腕は超一流で、ベルリンで行われたタトゥーコンペティションで優勝したことがある。しかし、その影響で心内膜炎を発症してしまい、治療のためにやむを得ず帰国した。帰国後は、失意の生活を送っていたが、個展を偶然見ていた女性、アリスから熱烈なプロポーズを受けて結婚。杉三の隣の家の空き家を買って住み始め、現在に至っている。
実家は懍のような特別な身分というわけではなさそうだが、150年以上続いている製紙会社を経営している、屈指の大金持ちである。
いわゆる、彫り師と呼ばれる職業にあたり、日本では嫌われることの多い職業であるが、暴力団などには一切施術したことはなく、いじめなどで受けた傷跡を消したり、リストカットなどの痕を消すために入れ墨を彫ることが多い。また、精神障害のある者たち、特に女性にとっては強い味方となり、彼女たちが主人公の物語では、激励のために吉祥文様を彼らの体に彫っている。
基本的に、一般常識にたけていて、奇行を繰り返す杉三に常識的な意見を出すが、大体は聞き入れられず、様々な災難に見舞われる。時に杉三の兄と間違われることに閉口している。頭が硬く、自分では親切心からしていることが、じつはうるさいお節介にすぎず、かえって内紛の原因になることがよくある。特に、水穂とは、それでよく対立する。しかし、友人を思う気持ちは強く、問題解決のために勉強会にでたり、ときには、直接抱きしめるなど、突飛な態度を取る。時折頭に血が上って激怒することも数多く、経済的に豊かなことから、時折危険なものにまで手を出してしまう。
今時珍しく、タトゥーマシーンを操作することができず、筋彫りから、色入れまですべて手彫りで彫る。時折それを馬鹿にされるが、「江戸時代の刺青師は総身彫りだって手彫りでやった」と言って対抗する。
青柳懍(あおやぎりん)
蘭がベルリン芸術大学に在籍していた時に受け持ちになった大学教授。同じく歩行不能であり、原因はマルファン症候群による。杉三からはその疾患名を覚えてもらえず、単に「とんがり耳」としか呼ばれない。通称は青柳教授または、青柳先生。名を呼ばれることは、極めて少ない。年齢は、83歳と高齢ではあるが、白髪交じりの黒髪を長髪にするなど、そうとは見えない容姿をしている。専門分野は鉄の制作で、時に鉄がまだ普及していない発展途上国に赴き、学生を引き連れて製鉄を指導している。数多くの途上国や原住民の下で滞在したためか、割と不衛生な場所でも平気で行動できる。
現在は、自宅を改装し、様々な問題を抱えた子供を預かり、製鉄を通して立ち直らせるための「製鉄所」をやっている。子供を含めて誰に対しても敬語で話し、杉三を「杉ちゃん」とは呼ばない唯一の人物でもある。時に、引きこもりや精神疾患などに悩む子供の預かりと称して、実は「子捨て」を行おうとしている親と、対立することも多い。そのような親は、高額な費用を払って、子供を置き去りにしていくが、そこで得たお金は、すべて福祉団体に寄付してしまう。
私生活では、妻と息子がいたが、何れも自殺によりなくしている。二人を亡くした時は、「鉄なんか作っても意味がない」と落ち込んでしまったこともあったが、これが、製鉄所つくりのきっかけになった。
実家は、戦前までは非常に有能な公家である。父は青柳公と呼ばれた有能な軍人であり、親族のほとんどが政治家になっているという名門である。懍本人は、障害を持って生まれたため、危うく捨てられそうになったのを、母が自身を連れてベルリンに「避難」したと思い込んでいるが、父はとてもそれを後悔したという。
滅多に感情的にはならず、いつも敬語で静かに話すわりに、内容は結構厳格であり、時に冷酷とされることがある。あるいは、障害のある人間にわざわざ苦労をさせて能力を試したりすることもあり、由紀子を新聞紙でたたくなど、体罰も平気でする。これらのところを、現代の教育者からは批判される。しかし、必要以上にたたいてしまうことはなく、虐待には当たらないとして、彼を支持する人は数多い。
背中一面に龍の入れ墨を入れているが、これは、途上国の人々と交流を持ちやすくするために入れたもので、暴力団などと関連はない。
磯野水穂(いそのみずほ)
蘭と小学校時代の同級生で、当時は犬猿の仲であったが、同窓会で和解し、親友になっている。蘭とは同じ学年であるが、早生まれであり年齢は45歳。現在は懍の手伝い人として、製鉄所に住み込みで働いている。桐朋音楽大学卒。旧姓は右城。結婚後も旧姓のほうが知られており、特に音楽関係者からは、右城くんと呼ばれる。ピアニストとして将来を嘱望されていたが、磯野家の婿養子になってから、体調を崩してしまい、危うく妻に殺害されそうになったところを杉三に救われる。得意な作曲家はレオポルト・ゴドフスキー。その超絶技巧はリストよりもすごいものがあり、世界一難しいと言われる、「ショパンの主題による53の練習曲」を全曲弾きこなした事がある。しかし、それは貧しかった生活を立て直すためにやっただけのことで、本人は、これを快く思っていない。しかし、麟太郎によれば「100年に一度の天才」と言われ、その後もしつこく、演奏会をひらけとせがまれている。
酷いアレルギーを持ち、小児喘息を悪化させて気管支拡張症に移行させている。この事情を知らない人には、大体労咳と間違われる。小麦や肉、あるいは天候などに過敏に反応して大喀血を度々起こすが、それが、非行少年たちの更生に役立っていることが多い。本人の話によると、当たった食品はこれまでに100以上あり、唯一完食したものはかっぱ巻き。端正な顔立ちをしていて、外国の映画俳優に劣らないほどの美男子だが、医療機関や役所などでは邪見に扱われることが多い。
概ね、床に臥すことが多いが、製鉄所の利用者たちには重要な役目を伝授していて、思っている以上に活躍している。
実家は銘仙の製造と販売を手掛けており、経済的に貧しい環境で育った。銘仙といえば、もともと目専と呼ばれた貧しい人の着物として知られているので、つまるところ彼も被差別部落民である。そのせいか、自信がなく前向きになりにくい傾向がある。
蘭とことなり言語能力に非常に優れており、ヨーロッパの主要な言語は理解しているようである。そのせいか、文書の翻訳や、外国人と遭遇した場合に通訳を頼まれ、そこから騒動が勃発したことも。
大変に几帳面な性格でもあり、外出の際は袴もはく。所持する着物の八割から九割が銘仙である。通常は敬語であり、独特の訛りがある日本語も話す。
「二人の杉ちゃん」では、杉三に骨髄を提供してもらって、食べ物にあたるということはなくなるが、食べ物を通して拷問されたときの記憶に苦しめられ、結果として食事をとらなくなり、深刻な飢餓に悩まされることになる。
影山美千恵(かげやまみちえ)
杉三の母親。介護施設を経営する社会福祉法人の理事長。杉三が生まれてすぐに夫を亡くし、以降、再婚はせず、女手一つで杉三を育て上げた。
のんびりした性格の女性で、必要最小限のこと以外は、杉三には手を出さず、学校にも行かせなかった。それを指摘されたこともあるが、「本人が嫌がっているのなら、しないほうがいい。」という方針をかえないでいる。楽天家でもあり、犯罪に巻き込まれるとか、トラブルがおきるなどは一切気にせず、杉三たちを遠方へ旅行に出したことも多い。
時に、杉三に、なぜ文字を教えようとしなかったのかを指摘され、ひどい母親と罵倒されたことがあるが、「無理やり普通の子に合わせようとするのではなく、できないことを打ち出すのなら、できることを、伸ばしたほうがいい」として、対抗している。
「偉くなると、おごって悪人になってしまうので、偉くなりたくない」という哲学を持っていて、それは息子の杉三にも受け継がれている。
華岡保夫(はなおかやすお)
蘭の小学生時代の同級生。現在、富士警察署刑事課課長。階級は警視。もともと、優秀なキャリア組で、警視への昇格も早かったが、刑事としての経験は比較的浅いまま昇格してしまったせいか、捜査と取り調べがとても下手である。その下手さは、部下の刑事たちにもよく知られているほど。懍もなぜ警視まで昇格したのか、不思議がるほど小心者で優柔不断。
大の風呂好きで、一度入ると40分以上風呂に浸かっている。自宅はおんぼろのアパートであり、ユニットバスのため、風呂に入った気がしないと公言しており、よく杉三や蘭の家の風呂を借りて、長風呂をすることが多い。特に、事件が解決すると蘭の家にやってきて、必ず長風呂をする。あるいは、捜査に行き詰って、考えるために長風呂をすることもある。彼が持ち込んだ話が、騒動を引き起こしたこともよくある。
現在も独身であるが、恋愛はしてみたいようで、水穂と対照的に、美男子ではないことにがっかりしている。また、食べ物や日用品など、様々なものをプレゼントしているが、杉三に食べられるか、使わずじまいになってしまうかのいずれかである。
医師の華岡青洲と同じ姓であることを、唯一の自慢としている。
たま
水穂が拾ってきた全身真っ黒のイングリッシュ・グレーハウンド。主人の水穂によくなつき、時に悪人にかみついたりと、機転を利かせて彼を助ける。性別は雄で、名前から連想すると猫のようだが、立派なグレーハウンド、つまり犬である。灰色ではなかったところから、捨てられてしまったらしい。後ろ足が悪く、引きずって歩く。唯一覚えた芸は「お座り」である。
水穂に継ぐ虚弱さで知られ、散歩中に神社の石段から転落し、後ろ足の手術を受ける。その後ドイツでリハビリをし、歩行不能を免れる。後に、諸星正美の飼い犬である、雌のグレーハウンドのサリーと結ばれ、三頭の子犬が生まれている。
庵主様
杉三の家の近所で寺を構えている尼僧。正式な名前は不詳。いわゆる尼さん。杉三が、何か困ったことがあると最終的に頼りにする存在で、彼が黒大島で葬式に出ても許してやっている。僧侶として、葬儀や仏前結婚式を執り行うほか、悩みを抱える人間のための仏法講座「観音講」も行い、杉三がよく参加している。
山田先生
華岡と業務提携している監察医。形式的な性格で、何でも理論で判断してしまい、杉三とよく対決するところとなる。時に華岡が重大事項を伝えるために、二人で製鉄所を訪問することもある。
池本院長
杉三が通院している病院「池本クリニック」の院長。杉三のよき理解者でもあり、面会時間を守らない杉三を、許してやることが多いなど、寛大な性格である。ただ、高齢であるせいか、力で抑えようとしなければいけない場面ではあまり強くない。
村下(むらげ)
製鉄所で働く、鉄づくりを直接指導する人物。姓名は不詳だが、「鉄は待っていてくれないぞ。」が口癖の、頑固一徹な中年男性。
伊能アリス
蘭の妻。アルバニア人。もともとは、売春業などをしていた。蘭とはドイツに留学した時に知り合った。もともとはイスラム教徒であったが、結婚を機に仏教に改宗している。イスラム教の教えを徹底的に嫌い、女性の自由な活動を望む。きわめて明るく、さっぱりした性格で、ムスリムらしくない女性。顔にスカーフはつけず、化粧もしないでいつも素顔のままで居る。
蘭との間に子供はなく、それをコンプレックスに思っており、他人の子に役立つ仕事がしたいと思い立ち、助産師になることを決断。助産師学校へ行くために東京に移住し、助産師の資格を取ったのち、再び蘭と生活している。現在の女性が病院で出産することを嫌がり、できるだけ自宅出産を奨励して、妊婦さんの相談に乗ったり、ときに泊まり込みで出産の手伝いをすることもある。「遅すぎたスタート」では澤村禎子の出産を介助した。
伊能晴(いのうはれ)
蘭の母親。富士市でも屈指の大金持ちで、製紙会社を経営している。頑固でなかなか他人の言うことを聞かないことから、雇っている職人たちから、「母御前」と呼ばれて恐れられた。退職を希望した職人の実家に多額の金を送って、退職させないように仕向けるなど、かなり悪事をしたこともあったらしい。水穂から贈賄だと指摘されたときは、多額の賠償金を支払わせ、彼の実家を壊滅させたこともある。そのほか、職人たちに、パワーハラスメントを行っていることでも有名であり、これによって大損をしたことも数多い。現在も、息子の蘭や、沼袋も頭が上がらない存在である。
しかし、文化的なことには関心が高く、俳句サークルの主催者の追悼句集を自費出版するのを手助けしたりしたこともあった。
沼袋
晴のお抱え運転手。蘭のことは「坊ちゃん」と呼んでいる。子供のころの水穂が同和地区に住んでいたことを知っていたが、蘭には知らせていなかった。父親を早くなくしてしまった蘭にとっては、父親代わりのような存在で、本人も蘭を可愛がっている。
須藤聰(すどうあきら)/ブッチャー
製鉄所の利用者の一人。学生時代は柔道をやっていて、その体格の大きさからブッチャーと呼ばれていた。本人はその呼称を嫌っていたが、杉三により、綽名として命名されて以来、定着しており、本名を忘れられることもしばしばである。自身では、勤勉こそ男の美学だと思い込んでいるが、いくら働いても女性からは好まれない。
姉の有希の看病に手を焼いていて一時不安定になり製鉄所に入所したが、最終的には、水穂の手により、銘仙の工場へ雇われ、製鉄所から卒業する。その後も水穂の看護人として、しょっちゅう製鉄所に現れる。現在、銘仙をインターネットで販売する事業をしており、本人は「貧乏呉服屋」と名乗っている。
須藤有希(すどうゆき)
ブッチャーの姉。高校中退で働いていない。その劣等感から危ないところに手を出してしまい、危うく救われるというパターンが多い。正直な女性で騙されやすい。時折、変なことで心配をすることも数多いなど、どこか一般的な人から、感覚が外れているが、本人は全く悪びれた様子もない。しばしば半狂乱になって暴れるなど、問題を引き起こす。病名は不詳。大変美しい顔をした美女で、それを武器に、無茶なことでもしてしまう。女を武器に世渡りする方法を心得ていて、男を誘惑するのが得意である。
小久保哲哉(こくぼてつや)
御殿場市に在住する弁護士。日本の人権問題に詳しく、一念発起した蘭が法律の勉強を始めるため、彼の主催する講座にやってくる。私生活では、妻と離婚し、息子の親権すらもらえなかったあわれな父。騒動が終結したあとも蘭とは交流があり、レポート添削などをしている。時折法律関係などで杉三から呼び出されることもある。スクールロウヤーとしても活動しており、小学校にて子供の相談にも乗っている。刑事事件の弁護も担当し、その依頼は、殆どが、杉ちゃんが知り合った人物のものである。
増田カール
通称カールおじさん、或いはカールさん。杉三の近隣で呉服店を営んでいるイスラエル人男性。日本人以上に着物にはまってしまい、お客さんにする説明が好評で売り上げはうなぎのぼり。水穂に関しては、ホロコースト時代のイスラエル人と同様に、日本にいながら異民族として生きている人物と解釈している(古代の被征服民の子孫が同和地区の起源として提唱されているが、確証はない)。イスラエル人らしく商才があり、着物にも詳しい。着物が決まりごとに縛られているのは閉口しており、もっと自由に着物を着ていいのではないかと思っている。
塔野澤恵子(とうのさわけいこ)
製鉄所の食堂で調理係として働く中年の女性で、文中では食堂のおばちゃん、調理係のおばちゃんなどと表記されているが、本名は塔野澤恵子である。涙もろくて、情が厚く、すぐに涙を流す、いかにもおばちゃんらしい人物。多忙なため、唯一の娯楽はお笑い番組を見ることしかなく、落語が大好き。尊敬する人物は桂歌丸師匠。歌丸師匠の話をし始めると、止まらずに続けてしまう悪癖がある。
旧姓は前田。出身地は福島県郡山市。実家はリンゴ農家。調理学校を卒業後、専業主婦となるが、大地震が原因で家族全員を亡くし、1人助かる。その後、ひどい鬱にかかって製鉄所に来訪し、旧姓に戻ることはなくそのまま調理係として住み着く。その後、小濱秀明と再婚し、製鉄所を離れて実家のリンゴ畑を引き継ぐ。
小濱秀明(おばまひであき)
恵子さんの二番目の夫。左腕を欠損している。職業はりんご畑をやりながら、画家としても活動しいる。よく働き、気の利く男だが、かつて、覚醒剤取り締まり法に違反し捕まったことがある。出身は北海道の留萌。親族の数が多い。結婚してからも、小濱君と呼ばれる。恵子さんと結婚後の姓は前田秀明と改姓しているが、結婚後も小濱秀明のほうが知られている。左手が無いので絵筆を口にくわえて絵を描いている。子供向きの絵画教室やワークショップもやっている。
尊敬する人は古賀春江。
画家として、個展を開くのを目標にしている。
今西由紀子(いまにしゆきこ)
杉三が水穂と久留里線に乗って旅行に行ったときに、久留里駅に勤めていた駅員。久留里駅で水穂に一目ぼれしてしまい、彼を追いかけてJRを退職。岳南鉄道に転職して、吉原駅にて駅員として働く。恋愛はしてみたいが、結婚を束縛と思ってしまういまどきの女性であったが、水穂を心から愛し、彼も受け入れた唯一の女性となる。水穂のことに好意を寄せている女性に嫉妬したり、ときに悪事めいた事をしてしまうなど、危険な女とも取られるが、それは、水穂を思ってのことである。
曾我正輝(そがまさき)/ジョチ
「木」より登場。焼き肉店「ジンギスカアン」を営む実業家。生まれてすぐに遺伝子の異常である、嚢胞性繊維症にかかったことが判明。生後すぐ父が死去し、母が再婚、弟の敬一が生まれたため、自分だけが部外者となってしまった過去がある。その部分を杉三にからかわれ、「部外者」という意味の「ジョチ」というあだ名をつけられた。常に鼻をかんでいて、黄色い鼻水がトレードマークである。辛子色の羽二重の着物に、黒い羽織袴を履いて生活することが多い。青柳に代わり、製鉄所の管理を任されている。
本人は、様々な福祉施設や商業施設を買収して改良することを何とも思わないが、蘭たちの会社ではライバルとなり、「美濃の蝮より恐ろしい波布」と言われ恐れられている。共産主義に傾倒しており、自身が結成させた政党のメンバー獲得のため、杉三たちの前へ現れるが、逆に、杉三たちに金を貸すなど、援助者としてかかわることになる。趣味はクラヴィコードを弾くことで、バッハの「ゴルドベルク変奏曲」を好む。東京芸術大学楽理科卒というかなりの高学歴だが、本人にしてみれば、希望していた商学部への進学を、反故にされただけで、ただの経費削減されただけ、としかみていない。
なお、彼がこれまでに買収した施設は、保育園、老人施設、障害者施設など、様々な物があり、ある意味蘭の会社よりも、強力なネットワークになっている。ちなみに家紋は千鳥紋。
曾我敬一(そがけいいち)/チャガタイ
父親の違うジョチの弟。杉三からチャガタイと呼ばれる。兄に代わって、実質的な焼き肉屋の経営をやっているものの、店の運営法方針などは兄に頼りっぱなし。歴史上のチャガタイは、かなり荒っぽくて厳格な人物であったらしいが、全く正反対でのんびりした性格をしている。体が大きく、胴回りは兄の二倍ちかくあるほど肥満している。笑い方も豪快で、親切で優しい性格でもあり、親が不在で困っている子供に、無料で焼肉を食べさせた事がある。現在子供がなく、店の後継者がないことに悩んでいる。妻は曾我君子。
小園さん
ジョチの運転手。普段は無口で何もしゃべらず、しゃべる時は、結構重大な場面であることが多い。ときに高速道路を飛ばして、成田空港まで運転したこともあった。その時は、ストレス解消になったと話していた。
鈴木イスマイール(またはイシュメイル)/ぱくちゃん
水穂が骨髄移植のために入院した時に知り合った、中国生まれのウイグル族の男性で、富士市松本にてラーメン屋、イシュメイルらーめんをやっている。実家の家族は中国国内で起きた暴動で全員なくなっている。学校にもほとんど行っておらず、日本語の敬語文法もまるで理解していない。しかし、ラーメンを発明した民族として誇りを持っており、ウイグル族ならではの太麺に、日本のラーメンをミックスさせた、黄色いさぬきうどんのようなラーメンを作っている。大好物はどら焼き。妻は日本人女性の鈴木亀子。ぱくちゃんというあだ名の語源は分かっていない。ちなみに、彼の名は英語読みするとイスマイールとなるが、本人はイシュメイルと名乗っている。しかし、名前を間違われても平気。
広上麟太郎(ひろかみりんたろう)
世界的に有名なオーケストラの指揮者。水穂とは同級生。長年世界の有名なオーケストラと共演を重ねてきたが、メンバーの高慢さに呆れてしまい、現在素人で結成された、市民バンドの指導を中心に活動している。水穂が部落民であることを知ってしまった、唯一の音楽家となる。水穂を「天才」と称し、もう一度音楽業界へ戻そうとするが、果たせなかった。忘れ物が多く、いろんなものを忘れてくることで有名。
パリの人々
マーク・モーム
パリに住んでいる彫菊の弟子。師範免許を獲得し、「二代目彫菊」と名乗って活動中。日本語は流ちょうであるが、書くのは苦手なようで、誤字や当て字がとても多く、ほとんど平仮名ばかりで書いている。
トラー
マークの十年離れた妹。杉三からの愛称は「おとらちゃん」。中学、高校(リセ)以来体調を崩してしまい引きこもりとなってしまう。意外にかわいらしく、女優のヴィヴィアン・リーにどこかよく似た色気を持つ。気性の荒っぽい女性で、一度頭に血が上ると、鎮火するには多少時間がかかり、時々奇想天外なことをひらめいて、家を飛び出す癖がある。水穂に思いを寄せている。
チボー
愛称「せんぽくん」あるいは「ちぼ君」。マーク、トラーの近隣に住んでいるバイオリニスト。トラーに思いを寄せているが、水穂に盗られたと勘違いするなど意外に繊細な一面を持っている男。トラーとは幼馴染で同級生。よく杉三からは「男らしく告白しろ」と言われる。
シズ
ロマの老女。元々は売春婦をしていた女性で、同和問題の根本的なことは知らないものの、水穂を理解した女性となる。学校へは行っておらず、読み書きは可能だが、表記はロマ語を使う。モーム家の手伝い人として雇われる。
歌がうまく、シューマンの君に捧ぐなどを歌える。
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