第2話 あの日の出来事
きっかけは高二の夏休みのあの日だった。
あの日、あたしは一人で学校から帰っていた。
夏休みだったし、下校時間も中途半端だったから、絡陽生はあたし以外に数える程しかいなかった。
一人だったこともあってか、あたしは多分ぼーっとしてたんだと思う。
横断歩道を歩いていたら、突然、何か耳障りな音がすぐ近くでして、あたしは思わず立ち止まって振り向いてしまった。
振り向いた先に見たのは、こちらへと突っ込んでくる車だった。
――間に合わない。
足を動かそうとしたけど、自分の足はまるで地面にくっついたようにピクリとも動かなかった。
――あたし、死んじゃうんだ。
車がスローモーションで向かって来る。
思わずあたしは目を閉じた。
……1秒……2秒……3秒……。
あたしの感覚で3秒くらい経った時、誰かに手をぐいっと引っ張られた気がした。
動かなかったはずの足が宙に浮くと同時に反射的に目を開ける。
あたしが数瞬前までいた所を車が通り去っていったのが見えた。
「ふう。危なかった。大丈夫ですか、連伝先輩? 」
そう言ったのはあたしを助けてくれた絡陽中の制服を着た男の子だった。
……、誰だろう…。
「あの、連伝先輩?大丈夫ですか?大丈夫でしたら、あの……、少し離れていただければと……」
あたしはその男の子にくっついたままだったことに気付いて、慌てて離れた。
「えっ?あ。ご、ごめんなさい!えと……、ありがとう、助けてくれて。絡陽生……だよね?紺のネクタイ……ってことは一年生?」
「そうです。……あ、僕、広瀬優と言います。先輩がご無事で良かったです」
「ほんとにありがとう。広瀬くんがいなかったら、私、轢かれてたね……。もし広瀬くんさえ良ければまた今度お礼させてもらえないかな?」
「いや、そんなにたいした事では無いので、気になさらなくて大丈夫です」
「じゃあえっと、だめ?」
「あ、いえ別に、そういう訳ではないんですけど、申し訳ないですし…… 」
「なら、今度お礼に何か奢るくらいさせてよ。これくらいだったら、たいした事じゃないしね? また連絡したいから、メアド教えて?」
「……、分かりました。えっとメアドは――」
あたしが広瀬くんと出会った瞬間だった。
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