La Saint-Valentin〜恋人たちの宴〜
セイヤ。
ep1
「卒業までもう1ヶ月ですねー先輩」
彼はそれまで読んでいた本を閉じ、そうつぶやいた。
「そうだね。私が卒業して一週間、一人になって寂しくてキミが泣いてしまわないか心配で今日も眠れないよ」
ここ文芸部は私が卒業してしまえば、部員は彼一人になってしまう。ということは新入部員が入らないと人数不足で廃部になってしまうわけだ。
「もう、からかわないでくださいよ。安心してください。僕がしっかりと部員集めして、もう一度立て直します」
「ふふっ……まあ、簡単じゃないだろうけど頑張りたまえ。……ただキミのことだ、また女の子ばっかりくっつけてきてしまうのではないか」
彼は会うたびに違う女の子を連れている。ただの友達と主張をしているが、私としては面白くない。
私は一年前、一人きりになってしまった文芸部に一人で過ごしていた。そんな時に彼が私の書いた文芸部発行の小冊子をもってここへ訪ねてきたのだ。
最初はもともと人との関わりが苦手で冷たい態度を取っていた。しかし彼はなぜか私に懐いて文芸部に通うようになっていた。
その頃、私はこの小冊子を作るときに元部員たちと揉め合いになり、この性格のせいで冷たい言葉をかけてしまい、皆辞めて行ったのだ。
『僕は、先輩の書いた物語が好きです。もっと書いて欲しい。読んで見たいと心から思いました』
彼は心から私の事を尊敬しているようで、どれだけ皮肉な事を言っても変らず接してくれた。
一度、彼の前で元部員たちと喧嘩になったことがあった。その時に慰めてくれた彼を突き放してしまった。
「私はキミの思っているような人ではないわ!数ヶ月の付き合いで、わかったようなこと言わないでっ!」
言ってから後悔した。
またあの時と同じだ、皆離れて行く…と。
「それでも!僕は先輩から離れません!」
彼は声を荒げてそう言った。
「先輩とあの人たちの間に何があったかは知りません。でも、少なくともこの文章を書いた時の先輩は、こんなこと心から思ってはいなかったんじゃないですか?」
と言って彼は例の小冊子を見せた。
「これは、先輩の願いですよね」
そう、私が書いたのは自分自身の願いだったのだ。
沢山の仲間と協力して一つのものを作り上げて行く物語。一人で何でも抱え込もうとする私とは真反対の主人公。私はそんな人になりたくて、私のために書いた物語。
それを私の願いと見抜いていたから、どんな酷い言葉をかけても変らず接してくれていた。
「 ––––––っ!」
涙がこぼれ落ちる。彼は心から私を認め尊敬してくれていた。その事に気付いた私は嬉しいような、愛しいようなわけのわからない気持ちでいっぱいになった。
その時はっきりと一人ではなかったと実感し、同時に変わろうと思えた。
……とそんな事を思い出しているとある事を思い出した。
「そうだ。キミ、卒業の前にもう一つ大きなイベントをわすれていないかい?」
「イベント?」
彼は首を傾げた。
この一大イベントを忘れるとは、どれだけなんだか。
私は席を立ちカバンの中の小包を見る。
私の中に溜まってしまっていた甘い気持ちを乗せて作った渾身一つ。
それでも乗り切れなかった甘みは、渡す時に一緒に吐き出してしまおう。
彼の反応が楽しみだ。
私は赤くなったであろう頬を隠しきれていないポーカーフェイスで彼の元へそれを持っていく。
2.14.present for you
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