stage 38 夏安居 -Ayaka side-
塩ノ山のテッペンに
ヴィクラマシーラの"
※夏安居=シャンバラ国の信者がこもって修行をする夏合宿。
いつまでも冷めやらぬ甲府盆地の熱のせいで、傾けるグラスは汗だくだ。
なんとも気まずいことに、隣のゲストルームには王様のメンテにやってきたヨシキくんとアルチャナが泊まっている。
聞くところによると、今回はブロックチェーンなる最新の技術を応用した様々な連携機能が付け加えられるそうだ。
(邪魔だなぁ。あのインド女)
「あ~あ。ばっかみたい。なーにが生きとし生けるものを救いたいよ。私って最低のクズ!」
それは、そんな妄想にひとしきりふけったあとに、3本目のビールを取りに立ったタイミングだった。
「すみませーん。アヤカさ~ん。起きてますか・・・」
ドアの向こうから聞こえてきたのはカリンの声だ。
「どうぞ~。開いてるよ」
「ごめんなさい、お休みのところ。って、あ~っ!アヤカさんいっけないんだ~。敷地内の飲酒は厳禁です!」
「ヤバッ!見つかっちゃったか。だってさー、山梨県ってカンボジアより暑いんだもん。飲まなきゃ寝れないでしょ~」
「アハハハハ。連日の熱帯夜ですもんね。教団きってのトップインストラクター様に誰も文句なんて言えません」
「キャハハ。それじゃ遠慮なくやらせてもらうわ。ところで今夜はなに?たまにはガールズトークがご所望かしら?」
「・・・・・・」
「黙ってたら分からないよ。大丈夫。私は少々のことじゃ驚かないから」
「・・・・。あのね、アヤカさん」
「うん」
「先日の騒動ってどう思います?」
「あぁ~・・・。カリンちゃんはその件でヘラってるのね?」
「・・・・・」
「"次はシャンバラ教団の呪殺疑惑です"って。キャハハハハ。さっきのニュースキャスターのセリフは死ぬほど笑ったよ~。くだらな過ぎてコーヒー吹いちゃった。まるで、なろう系の魔法ファンタジー。ギャハハハ」
「・・・・」
「ん?あらら・・・。あんまり面白くなかったかな?いちおう女子アナのモノマネだったんだけど」
「私・・・、ナオキさんに進められてシャンバラ王にお伺いを立てたんです。呪詛の力について」
「うんうん。ベストな判断ね。AIの答えは弁護士よりも的確だし。このご時世に気でも触れたかって怒られたんじゃない?」
「いえ。その反対で・・・」
「はっ?!」
「コメンテーターの死は、間違いなく護摩の霊験だって」
「なにそれ?最近のシャンバラ王は冗談までかますの?」
「そんなんじゃないんです。それどころか、もうすぐ祈りのパワーが目に見える形でデータ化される時代が来るって」
「・・・・・・」
塩ノ山から吹き下ろす風が、私の脈管を通り抜けていく。
その後、私はうつむき加減のカリンから、シャンバラ王の呪殺に対する見解や、ヴァジュラバイラヴァの灌頂について事細かく聞き出した。
「アヤカさん。私、何が正しくて何が間違っているのか分からなくなっちゃいました」
「カリン?・・・・。それは、高貴なるシャンバラ国の代表とは思えぬ言葉ね」
「・・・・・・・」
「教団が"ヴァジラヤーナのプロセスに入ってきた"ってことじゃない?」
「本気でおっしゃってるんですか?」
「もちろん本気。ヴァジラヤーナには善も悪もない・・・」
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