stage 32 ロマンチック航路 -Naoki side-
シェムリアップでの会合から1ヶ月も経たずに、右翼やデモ隊によるヴィクラマシーラへの圧力が嘘のように弱まった。各メディアは、シャンバラ国が「日本の国柄を尊重する」と宣誓したことで、「民族派団体が態度を軟化させた」と報じたが、これは表向きの台本である。言わずもがな、日本の街宣右翼はヤクザの庇護のもと活動を行う団体が多くを占める。つまり、元締めの暴力団にさえ話が通ってしまえば、あとは鶴の一声でコントロール可能なのだ。
「どうだヒロ?これがマネーの力だ。つまりよ、民族派なんて息巻いても、所詮は手懐けられた飼い犬にすぎねー。善人面こいたプロ市民まで仲良く鳴りを潜めた
「・・・・・・」
「俺はナショナリズム自体が嫌いなわけじゃない。先の大戦で散った英霊たちへの感謝だって絶対に忘れねぇ・・・。だけどな、愛国心を不満のはけ口にしたり飯のタネにするヤツは大嫌いだ。ましてや、生まれ育った祖国につば吐く反日リベラルなんてもってのほか。平等主義を取り違えた甘ちゃんパヨクどもは、死ぬまで太鼓でも叩いてろ!」
「やはりブッダが説いた中道こそが不変の真理・・・。極端な対立論争ほど愚かな行為はありません」
「シャンバラ流に言うなら無分別か」
「アッハハハハ。なんだか最近のナオキさんは、僕より密教の極意を掴んでますね」
「まあな・・・。タントリズムは理屈じゃねー。愛国に酔う右翼や唯物論者のフェス左翼には理解不能だろう」
「今回の件はとてもいい勉強になりました。しかし・・・、また一つ僕の中に新たな懸念が生じたことも否めません」
「言ってみろ」
「僕たちの教団は、これからもずっとみかじめ料を納め続けるしかないのでしょうか?尊い布施が外道どもにむしり取られていくのは忍びなくて・・・」
「ヒロ、心配はいらねえぞ。俺を誰だと思ってる?」
「・・・・・」
「この機会に、シャンバラ国は日本の裏社会と大口契約を結んだんだ」
「??」
「対等な立場のビジネスパートナーになったんだ」
「ビジネスパートナー?」
「ああ。歌舞伎町を寝城にするドラゴンフラッグ系の団体とヤクザが密談を交わして、第2工場で作ったテルマを日本に卸すことになった。何度も言うがヤクザは金が全て。利害さえ一致すれば、宗教、信条、人種、主義主張なんてどうでもいいってわけさ。アッハハハハハ。ある意味ヤツらこそが世界一、平等主義な連中だ」
「・・・・・・」
「トンレサップ湖で船に積まれたテルマはメコンデルタを下って海洋に出る。そして、何べんもの瀬取りの末、九州のとある離島にたどり着く。どうだ?イマジネーションを働かせてみろよ。400年ぶりの朱印船貿易が復活だ。最高に魅力的な航路だと思わねーか?」
「シャムの英雄、山田長政の世界ですね!」
「おう。俺はRomanticが止まらねーぜ」
※ ※
『瀬取り(せどり、英: Ship-to-ship cargo transfer)』とは、洋上において船から船へ船荷を積み替えること。一般的には親船から小船へ移動の形で行われる。
※引用「瀬取り」『フリー百科事典・ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)。2018年3月9日8時(日本時間)現在での最新版を取得。
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