stage 15 沙羅双樹 -Naoki side-

 オープンを迎えたヨガスタジオ「沙羅双樹」は、バンコク在住の駐妻たちや、福利厚生で大幅な割引が受けられるアソークコールセンターの社員で賑わっていた。


「さすがナオキさん、初っ端から盛況ですね」


「ヒロ、この手の店舗はスタートダッシュが肝心なんだ。いきなり流行ってるところを見せりゃ、後はフリーペーパーやらブロガーが勝手に宣伝してくれるからな」


俺とヒロがバックルームのモニターから大忙しのフロントを眺めていると、雇ったばかりのタイ人スタッフが内線をかけてきた。

 

「ヨガ、センセイ、イマス」


「お、来たか。ありがとな。すぐに通してくれ」


     ※     ※


「ナオキくん、お久しぶり!」


目の覚めるようなブルーのワンピース姿で現れたのは、オープニングイベントである「初心者ヨガクラス」のインストラクターを引き受けてくれたアヤカ姐さんだ。


「張り切ってるねー。ナオキくんは会う度にオーラが増してるよ。なんだか私まで元気になっちゃう」


「いやいや、姐さんのセクシービームには敵いません。それはそうと良く回復しましたね。すげー滑らかに話せるようになっててびっくりっす」


「フフフッ。これには秘密があるの・・・。さっきね、フライトの前にをつまんできたから」


「クッキー??」


「エヘヘ。もちろんスペシャルなやつ。何故だか分からないけど不思議よね。ハーブ入りのクッキーを食べると凄く調子が良くって・・・」


「なーるほど。それはグットタイミングっす。レッスンが終わったら、そんじょそこらの草とは比べ物にならないを是非お試しあれ」


「喜んでご馳走になるわ。アッハハハ。ところでうちのダンナから連絡あった?」


「あれ?姐さん、アニキと一緒じゃなかったんすか?」


「うん。ここで待ち合わせなの。あんにゃろう、どこで油売ってんだ・・・」


そんな会話で盛り上がっているところに、カメラマンを引き連れたカズさんが駆け込んできた。


「ほらな、ヒロ。噂をすれば影。さっそく大手フリーペーパーの撮影クルーがやってきたぜ」


「も~遅っい!!最愛の妻に失礼でしょ!」


「ぐはっ!ゴメン、ゴメン」

 

ご立腹の姐さんにローキックをもらったカズさんはこの上なく嬉しそうだ。


「痛ててて・・・。今日中に撮影を済ませて最新号の特集ページにブッ込んでやろうと思ってさ」


「それは助かります。あ、紹介が遅れました。カズさん、アヤカ姐さん、このヒョロっちい男が相棒のヒロです。ちょっとばかし変わってますが。ハッハハハ。可愛がってやってください」


「ヨロシクね!ナオキくんから聞いてるかな?私はオカマちゃんだから恋しちゃだめよ。キャハハハハ」


「よろしくヒロくん。クルタパジャマがよく似合ってるよ。まるで若き日の麻原彰晃だ。あっはははは」


「おっ!カズさん、ご明答。こいつは正真正銘の元オウム信者っすよ。今も密教修行に励むバリバリのタントリストです」


「そうか。それなら俺たち夫婦とも気が合いそうだ。ナオキにとはなんたるかを説いてくれよ」


「私だって負けないわよ。クンダリーニ・ヨーガなら相当なもんなんだから。一度シェムリにも遊びに来てね。超オススメの瞑想スポットに案内しちゃう」

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