白パン二つ、ミネラル一つ
銀輪2号
第1話
いつにもまして寒さが身にこたえる朝に僕は着古したダウンを羽織ってエレベーターを降りていく。マンションの入り口で誰かが落としたであろう手袋が片方だけあるのを見つけて、放置しておくのもすっきりしないので管理人室の小窓にかけておいた。オートドアのエントランスにゆとりのある清掃の行き届いた場所に手袋一つが落ちていると、ただの日常品が妙な違和感を覚えさせるのはなぜだろう、そんな思いにつられ、ややぎこちなく自宅をあとにした。
近くの公園までは歩いて10分もかからずに行ける。雨が降るような気配はなく風もほとんど吹いてない、これなら長く外にいられそうだった。散歩を決めた理由は1年半前から車移動が増えてめっきり歩かなくなり、いい加減足腰が弱っているのを先月に痛感したからだ。それは出先で他職種連携のオリエンテーションにソーシャルワーカーと共に老健施設を訪問した時のことで、リハビリテーションルームのあるフロアへいこうと階段を上ったら、太ももに重みを感じるくらいの鈍さを覚えたのだ。たった1フロア片道分の階段移動でこんなに足が鈍くなるなんて衝撃だった。何一つ運動の趣味を持っていないからといって、30手前の自分が陥っていい健康状態でない、そんな危機感を覚え、急遽足腰を人並みに戻すべくぼんやりした朝の時間を使うことにした。いきなり走ってはあっという間に足がガクつくんじゃないかと不安だったのでジョギングは避けたもののもっと歩かないと意味がなさすぎる、と今度は公園の中をぐるぐる回ることに。幸いそこは市が用意した運動公園、十二分な広さとコースが整っている。
コースに足を踏み入れていざ、と深呼吸をしたら空気のおいしさを知った。
これはいい、いいことを僕は始めたな。
いい気になり、きっとサマになるだろうと持ち出した音楽、フワフワしたリズムと頭の高いところで鳴っていそうな歌声をイヤホンから流す。誰の歌かは分からない、ストリーミング配信が選んだものを誰かはわからないままそれでいいやと、画面を見て確かめもせず視線は少し先に手足はやや大振りで運動を始めた。
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