10 X年の先

  1 GのX年


 もう曲がり角を少し入った。


「寄ってく?」


 そう言うイエロー先輩に、眼鏡の大人しそうなミナミが一人頷いている。


「うん、行こ、『うさぎや』に行くか?」


 レッド先輩、楽しそうです。

 どこだろう?

 私は、てくてくと後を追った。


「そうだな、『うさぎや』、ストファイのツーが入ったっぽいっすよ」


 じゃがりんの情報である。


「五十円だしな」


 そこは外せないらしい絹矢先輩。


「北口百円だぞ」


 イエロー先輩には、厳しいらしい。


「取り敢えず、『うさぎや』でOK?」


 絹矢先輩が皆を頷かせた。


「えーと……?」


 私は不思議な顔をしていたと思う。

 そこは、ごはんを食べる所じゃないよね。


「これから、ゲーセンに先に寄って行くんだ」


 絹矢先輩に教えて貰った私の困り顔。

 そりゃびっくりだわ。

 小学生の時に六男の夢咲松就ゆめさき まつなり叔父さんに連れて行って貰って、横顔のメダルを大切にしたっけ。

 『大切な小物入れ鳩ちゃん』の小さな引き出しに。

 その位だな、ゲームセンターに行ったのは。


 少しすると、『うさぎや』に着いた。

 やはりゲームセンターらしく、うさぎちゃんはいなかった。

 残念、ぷりちーうさぎ~。


 入り口には、今流行りと聞いた何歳迄生きられるか分かるゲーム機「エックス年」が置いてあった。


「面白そうだけど、誰もやってないんだよな。二百円なんだよ、これだけ。五十円の四倍だろう?」


 絹矢先輩が懐を苦しそうにした。


「占いみたいなものですか?」


 占いに凝っていた私は目を奪われた。

 きらきらーん。


「やってみる? 俺が先にやってみるか」


 コインを入れる。


 カチャリ。


 ――イニシャルと生年月日を入れて……。


 ピピピピ……。


 そうそう、絹矢先輩は三月十一日。


 そして、クイズに答える。


 ――好きな食べ物はどちら?

   A・ラーメン。

   B・刺身。


「えーと……。今はA」


 ふーん、ラーメンがお好きなんだ。


 ――睡眠時間は?

   A・六時間以上。

   B・六時間未満。


「大体、B」


 私も同じだなあ。

 通学中に寝ても眠れた気がしないよ。


 ――タバコは?

   A・吸う。

   B・吸わない。


「Bでしょう」


 良かった、私は喘息もあるし、超苦手。


 ――お酒は?

   A・飲む。

   B・飲まない。


「飲み会があるしな。俺の出身地だと飲めと言われてしまうんだよ。Aか」


 お酒、お好きなんですね……。


 他、数問答えると、最後の選択肢が出た。


 ――どちらの門をくぐりたいですか?

   A・ピンク。

   B・黒。


「何これ? 一応黒が好きだし、B」


 黒のTシャツ着ていらっしゃいますよね。

 本当に黒が好きなんだ。


 ――結果が出ました。


 ピピピピ……。


 下の方から紙が出て来た。

 絹矢先輩が手に取る。


「あ、何か占いみたいですね」


 ゲームセンターは慣れないけれど、占いなら私は楽しかった。


「そうだね」

「何て書いてあるのですか?」

「余命八十年だって。俺、そんなに? 百歳越えるんですけど」

「良いじゃないですか」


「さーちゃんもやる?」

「え? えええええ?」

「どうしたの? 無理しなくてもいいよ」


 せ、生年月日が……。

 それさえなければ。


 ここでいっそ、事情を話しますか。

 取り調べには、ならないと思う。


  2 お腹バーニング


「絹矢先輩って、干支は子年なんですか?」


 櫻は、ふと思った。


「そうだよ。さっと計算したの?」


 何か、笑っていて、嬉しい。


「いや、えーと……。干支が近いもので」


「ふーん、そうなんだ。俺の家族な、俺以外丑年なんだぜ。面白いって思わない?」


 私が楽しいから、笑顔に見えるのかな?


「思います! うちは、両親が、申年で、弟がいるのですが、寅年なんですよ」


「へえー。弟さんがいるんだ。うちは、妹がいるんだ。菫って言うんだけど。……母さんが、花が好きなんだよ。良い名前だろう? さーちゃんの櫻も花だね」


 お花シリーズだ。


「そう言えば、母の名前は、葵と言って、花ですね。後、祖母は、ハナですよ。そのまんま」


「……。ちっと、いいっすかあ?」

「あ、はい」


 店の人らしい、煙草臭いお兄さんが肩を揺らして来たので、絹矢先輩が応じた。


「今、使わないんだったら、よいて欲しいっす」

「そうですね、分かりました」

「行こうか、さーちゃん」


 促されてスト2のある人気コーナーに行った。

 皆、反対側の見知らぬ人と対戦して燃えている。


 バーニングババババーニング……!


 技が決まりそうで使えない。

 バーニング何とかって技だ。

 可愛い女の子キャラを、失礼だが、ブルー先輩がフグみたいになって動かしている。

 相手は武骨な格闘家風。

 どちらかと言えば、女の子を応援したいな。

 可愛いし。


「青山先輩、がんばってください……」


 小声でエールを送った。


 ババババババ……。

 ホアチャホアチャホアチャ……。


「バーニング何ですか?」

「バーニングプロットじゃあー!」


 そう吠えた途端、バーニングプロットが炸裂した!


 ババーニングプロットー!

 ホアチャ……。


 格闘家は壁に削られて、コンボを重ねられた。


「青山先輩、凄いですね」

「……いやいや。偶々です」


 照れを隠せない所がいい人。


「お疲れさまでした」

「お疲れっす」


 二人とも挨拶して、偉いな。

 ちょっと、ゲーセンを誤解していたかも。


「なあ、俺、今日は金欠だから、帰るわ」

「うーっす」


 アニ研の皆はOKみたい。


「え? そうなんですか?」


 少しのお別れも辛いかも。


「さっき、四回分遊んだから」

「あ……。ごめんなさい……」


 そうでした。


「何で謝るの? 何も悪い事してないよ」

「私が、『X年』をねだったみたいで」


 ぺこりとした。


「大丈夫だよ。万年金欠病」

「そ、そんな。悪かったわ」


 私のせいじゃん。


「米は実家から来るんで、大丈夫。最低限食べられるから」

「うん……」


 ぐうううううう……。


 きゃあ!

 お腹が鳴っちゃったよ。

 恥ずかしい……。


「ここ出ようよ」

「はい」


 賑やかな『うさぎや』を出て、少し歩いた。


「ラーメンの美味しい所があるんだけど……」


 私を見ないで、前を向いて話していた。


「い……。いいですね……」


 私も前を向いて話した。

 誰も瞳に入れないで。


「どうする?」

「……はい」


 ちょっと、誰も見ていないでしょうね?

 あー、春なのに、ハワイみたい。

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