第45話 紫色の尋ね人(前編)

※お待たせしました! 今回は真剣な話なのでギャグ少な目です。でもこのお話にはギャグは要らないかなと。たまにはそんなお話があってもいいかな、と。




「ねぇ~、アミメキリンさんジャンジャンを何とかしてあげる手がかりが全然見つからないんですけど……(ドヤァ)」


「ですけどって言ってどや顔したら誰でもショウジョウトキになれるわけじゃないわよ!?」


 二人はマーゲイを彼女の部屋のベッドまで運び、夜の道を歩いていた。そろそろ一度ジャイアントパンダの家に戻らないと、心配をかけているかもしれない。


「色々相談を解決しましたけど、手がかりはやっぱり無いんですよね……」


 うつむく彼女の肩にアミメキリンはそっと両手を添える。


「つなぎ、焦ってはいけないわ。解決出来るところから少しずつやっていく。それが大事なことよ」


 頷くアミメキリンの瞳は真剣であった。かつて、タイリクオオカミにそう教わった記憶がよみがえる。


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「んむー、ほっ、くっ、あああ!!!」


 いつかのロッジ、アミメキリンが何かと格闘する声が響き渡る。


「まったく騒々しいなぁ……どうしたんだいアミメキリン?」 


 やれやれと肩をすくめながら近付いてきたのはタイリクオオカミ。


「せんせぇ……マフラーがこんがらがっちゃって……」


「あーあーこれは酷い、ぐっちゃぐちゃだな」


「しばらくマフラー無しになりますけど切って外しちゃうしかないですかね……?」


 はぁ、とため息をつく彼女にタイリクオオカミはこう言った。


「一件ぐちゃぐちゃでも解けるところから解けば、最後にはなんとかなるもんさ。探偵だって一緒だよ? どれ、私が解いてあげよう」


 アミメキリンのマフラーを手に取り、いじり始める。


「こうしてそうして……よし、出来た!」


「出来た!じゃないですよ先生! はじっことはじっこを結んだだけじゃないですか! もう一個わっかが出来ただけですよ!」


「ははは、悪い悪い。冗談だよすぐ直すから」


 その時、たまたまタイリクオオカミの上に、少し大きめの枝が折れて落ちてきた。動物が乗って折ってしまったようだ。


「おわっ!」


 枝がタイリクオオカミの背中にぶつかり、軽く前につんのめる形となる。そして、前にいたアミメキリンを軽く押してしまった。

 そのせいで、つるりとアミメキリンが枝から足を踏み外してしまう。


 まあフレンズならこのくらいの高さから落ちても怪我はまずない。オオカミ先生には後でたっぷり文句をいってやろう。


 とか思っていた瞬間、アミメキリンのマフラーの結び目が枝に引っ掛かり宙吊りになってしまった。


「ぐええええぇ!!!!!」


 超強力なパワーで首を絞められる彼女。アワレ、アミメキリンサン、サヨナラ!!


「アミメキリィィィンッッッ!!!」


 タイリクオオカミは彼女を助ける為に木から飛び下り、爪でマフラーを切ったのであった。

 

 ちなみにこの日は、危険な場所で遊ぶなとアリツカゲラにこってり絞られたのち夕食抜きであった。痛む首に空腹が染みた。


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「うん、何でこんなオチになるか分からないけど順番に解決して、そこからヒントを得てまた次の謎に挑むのが大事よ」


「オチ……? まぁ、分かりました、所でアミメキリンさん気付いてますか?」


 つなぎは話の途中で何かを見付けていた。


「何?」


「さっきから、木の影で誰かがこちらの様子を見ていますよ。アミメキリンさんをじーっと」


「うそっ!? まさか、私を狙う何者か!?」


 月夜ばかりと思ってはいけなかったか。考えられるのは彼女、ジャイアントパンダ。PPP達と仲良くして朝帰りどころか数日空けての帰宅。パパ許しませんよ的なあれか。


「誰かに狙われているかなんて聞いたこと無いですよ…… そこにいるのは誰ですかー?」


 つなぎは隠れているフレンズに向かって声をかけた。数秒の後、返事が返ってくる。


「あれ~、何で分かったの~?」


 木の影からひょこりと出てきたのは、PPP1のマイペースであり癒し系、フンボルトペンギンのフルルであった。


「こんばんは~、名探偵さんとその助手さん。マーゲイの事や他の皆のお願い聞いてくれて、ありがと~」


「ふふ、どういたしまして。何か困ったことがあれば、言って頂戴ね!」


「まぁチケット捏造疑惑で逮捕寸前だったんですがね」


 へっ、と鼻で笑ってアミメキリンを横目でみるつなぎ。


「その事はギリギリセーフだったから!!」


 ちなみに捏造した場合はマーゲイの元で1日雑用である。PPP達の側で働けると喜んだ者達が、帰るときには死んだ顔になっている。再犯率0%らしいです。


「そんな探偵さんたちに、私からとっても大切な相談があるんだ~。 ……聞いて、貰えますか?」


 フルルの声が、緊張した物に変わる。真剣な目でこちらを見る姿に、さすがに二人も真面目に聞く体制を整える。


「……どんな相談でも、聞くわ。力になれることなら、協力も惜しまないつもりよ」


「素晴らしいライブも見せてもらいましたからね! 任せてください、どんなことでも(アミメキリンが)何とかしてみせますよ!」


 二人の返答に満足したフルルは、静かに頷き本題の話を始めた。





「これは、半年ほど前の話になるのかな……? 私ね、一時期、おんなじ夢を見ていたんだ~」


 どこかの岩に囲まれた場所で、一段高い所にいる自分。周りには、ペンギンがたくさんいて、こちらには目もくれない。

 ただ、一羽を除いて。


 他のペンギンが群で集う中、そのペンギンは、じっとこちらを見つめていた。夢の中なので、自分は動けず相手もこちらに話しかけてこない。ただ、お互いを見つめ続ける奇妙な時間が続いていた。


「ずっとそうしているだけだったけど……でも、何となく楽しかったんだ~。大変な練習で疲れた時も、夢の中ではゆっくり出来たの~」


 スローペースな彼女の憩いの空間は、夢での一時であった。


「でもある日、彼は、いなくて。その日は、周りで見てるヒト?達の声がやけに大きく聞こえて…… 夢の中でも会えない日が続いて、それで……」



 見ていたヒトの一人がいった言葉が聞こえたんだ。


 ────グレープくんが、亡くなったって。私には、それが彼の事だって、すぐに分かったんだ。


「フルル……」


 彼女は賢い。物事の本質を捉えることができる。だからこそすぐわかってしまう。

 アミメキリンはたまらなくなって声をかけたが、返事は無く話は続いていく。


「その時、空に向かって、彼が登って行くのが見えたんだ~。私の方を見て、手を伸ばした様に、そう見えたよ~…… 彼が本当にいるのか、どこにいるのか、何も知らないけど、行かないでって思ったんだ。しっかりお話もして無いのに、さよならなんて嫌だったんだ……」


 さあっと一筋の風が吹き、フルルの髪を靡かせる。月の光に輝いた雫が、彼女の足元に落ちたのは気のせいでは無いだろう。


 だが、振り返った彼女は笑顔であった。


「そしたらね、たくさん聞こえて来たの。周りのヒト達の声が。彼を、ジャパリパークに連れていってあげてって声が」


 本当にたくさんの声が。


「だから、私も精一杯、声を張り上げたんだ……ジャパリパークに来て!って」


 その瞬間、不思議なことが起こったという。


「周りのヒト達の声も、私の言葉も、皆、光に変わって彼を包み込んで……」


 夢はそこで終わり、そこから先の記憶は無かった。


「それから、もうその夢は見なくなったんだ~。PPPとしての活動も忙しくなって、半分忘れ始めてたんだけど……」


 フルルはアミメキリンの手をそっと取り、もう片方の手で何かを乗せた。


「紫の……腕輪?」


 古い、何の変鉄も無い腕輪。でもフルルにとっては違った。


「私の夢の中で、彼がずっと着けてたものと一緒なんだ~。ライブの後の落とし物に、紛れてたのを見付けて、それから気になってしょうがなくて~……」


 えへへと笑い、彼女はアミメキリンから離れる。


「私、グレープくんに会いたいです。手がかりでも良いから探してください、よろしくお願いします」


 フルルは、丁寧に頭を下げた。顔を上げず一心に、返答を待ち続けている。


 彼女はきっと、自分で探しに行きたくて堪らなかっただろう。しかし、PPPの仲間達を放ってはおけない。だからこそ我慢し続けてきたのだ。

 仲間ともしかしたら会えるかもしれないフレンズ、天秤にかけ続けた彼女の心の強さに、アミメキリンは感服した。


 そして、そんな者達の為に探偵は存在するのだ。


「分かったわ、私が、必ず探しだしてあげる!」


 その願いを了承すると、フルルの緊張がとけ、やっと普段の姿を見せてくれた。


「良かった、ありがと~! ……ふぅ、凄く緊張してお腹へっちゃった~」


「じゃあ、ジャパリまんでも食べますか?」


 つなぎが懐から取り出したそれを受け取り、フルルはやっと笑顔を見せたのであった。


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