第43話 PPPとロックが好きだから

※お待たせ致しました。南国とイワビー回です。本当は一話でイワビーとジェーン両方書きたかったんですが、無理でした(白目)




 アミメキリンとつなぎは、まずはイワビーの悩み解決の為聞き込みをしていった。きっと皆イワビーがPPPにとってかけがえのないものだと答えてくれると思っていたからである。


 しかし、結果は予想とは違った形で表れた。



ファン1 ロックが良くわからないけどイワビー可愛い


ファン2 イワビーめちゃ好きだからもういっそイワビー単独ライブに朝から晩まで参加したい 


ファン3 ロックはともかく元気良くて大好き


ファン4 PPPのメンバー誰好き? 僕は~この子 イワビーピカーン! 勿論、皆も好(ry



 思ったよりもファンにロックが理解されていなかったのである。

 いや、何となく分かるけど説明出来ない、そんな感じであった。取り合えずみんなイワビーすこすこ失われし都すこランティスの民であることは分かった。


「参ったわね、私もロックって良く分からないから、必要かとか言われてもわからないし……ファンから聞いた話もこんな形ではそのまま伝える訳にもいかないわね」


「結局の所皆イワビーさん好きって事なんで、本人の自信の問題だと思うんですよね……」


 ロックそのものに対する理解はともかく、ロックが好きな所を含めてイワビーが好き。それを上手く伝える方法を考えるも、なかなか良い案が出てこなかった。 


「ああ~、もう直接本人に言っちゃおうかしら! 皆PPP大好きだから心配する必要ないって!」


「最悪そうするしか無いかもしれないですね……お腹減りました、ご飯にします」ゴソゴソ


 ポケットを漁るとジャパリまんが1つ、ラッキービーストにねだる度ジャパリまんが増える。


「しましょう、じゃなくてします、なのね。確定なのねご飯タイム」


「それは勿論です! そろそろみずべまんにも飽きたんですよねー、何故我々は同じものを食べ過ぎると飽きるのか……もぐもぐ」


 実は普通のジャパリまんに比べて各ちほーの名産ジャパリまんは栄養とサンドスター保有量で劣るのだ。

 その為飽きやすいようにこっそり調整されている。日常の中のちょっとしたスパイス程度に食べるのが丁度良いのだ。


「急に哲学的なセリフ言わないで…… 所で、ここどこかしら? だいぶ離れたところまで来ちゃったわね」


 木々が増え、あまり日差しも差し込まない場所に来てしまっていた。見覚えの無い景色であり、帰り道も良く分からなかった。


「確かに何か鬱蒼として不気味な場所ですね……いかにも何か出そうな……」


 その時、つなぎの声を遮るかの様に別の声が響き渡る。



「きゃああああああ!!!!」



「悲鳴!?」


 聞き覚えの無い声であった。このちほーのフレンズがセルリアンに襲われているのかもしれない。


「行きましょう!」


 悲鳴の元へ走る二人。そこまで距離は遠くない。


 走ること数十秒、もうすぐで聞こえた辺りへたどり着く、その時二人の耳は何か別の音をとらえた。


 ぶしゃり、ぶしゃり、と何か液体の入った物を切るような音である。


「な、何かしらこの音……?」


 そーっと覗き込んだアミメキリンの目に写ったのは、予想だにしない光景であった。


 剣を持ったフレンズが、何かにその剣を降り下ろしている。

 自身で剣を持つフレンズは意外と多くない。そこにいたのは、まさしく剣と言えば彼女、サーベルタイガーであった。


 手に持った剣を降り下ろす度にぶしゃり、という音と共に赤い飛沫が舞う。何度も、何度も降り下ろしては飛沫が飛ぶ様子を見て、彼女は嬉しそうに舌なめずりをする。

 一瞬見えた彼女の瞳は、真っ赤に染まっている様に見えた。


 一息ついた彼女は、ごそごそと何かを取り出す。辺りが薄暗く良く見えないが、それは丁度、フレンズの頭くらいの大きさをしていた。


(ま、ままままままさかガチの殺フレ事件!?)


 アミメキリンは慌てながらもゆっくりと後退する。見つかってはまずい、そんな気がした。しかし、マフラーが木に引っ掛かり、派手に転んでしまう。


「きゃあ! いたた……」




「………………見ましたね?」


 じろり、とサーベルタイガーの視線がこちらを向く。剣を構え。片手に持った何かを空中へと投げ、剣を振りかぶる。


「いやあああぁぁぁ!!!」


 アミメキリンが叫んだ、次の瞬間!


「────はい、剥きたてのパイナップルです、美味しいですよ、いかがですか?」


サーベルタイガーは顔に飛んだトマトの果汁を拭いながら、にっこり笑ってそう言った。




 結局の所、悲鳴は彼女自身のもので、パイナップルの果汁が目に飛んでめっちゃ染みて痛かっただけであった。目が赤いのもただの充血。


 サーベルタイガーは手に持った剣を主に料理に使う、料理好きなフレンズなのだ。


「ようこそ、トロピカル秘密基地(シークレットベース)へ。ここでは新鮮な果物や野菜を使った料理を提供しているのよ」


 二人へミックスジュースを出しながら説明をする。そしてその傍らには、メロンやキウイ、とうもろこしやレタスといったさまざまな野菜や果実が並んでいた。


「これは美味しいわ! 凄く濃厚なのに爽やか!」

「野菜不足のフレンズにもオススメですね!」


 そんなフレンズいるのか。博士と助手が怪しいか。


 二人はあっという間にミックスジュースを飲み干してしまった。空腹も手伝って最高の味であった。


「それにしても、この辺の気候に合ったものだけでなく、暖かい地方で育つ野菜や果物もありますよね……?」


 つなぎシェフ、あまりの美味しさからか食材の入手どころに興味津々です。


「ボス達がジャパリまんを製造するのに、一部本当の食べ物を利用していることは有名な事実だけれど、この近くに、ジャパリまんの材料用の農場があるの。そこで、余った分をくれないかってお願いしたら、貰えることになってね。それを使って、ここで色々なフレンズに料理を振る舞っているのよ」


 知るフレンズぞ知る隠れた名店な訳である。あんまり広まると供給が追い付かないため、こっそりやっているんだとか。


「なるほどね、処分する分ならすんなりくれるってことね」


 大型黒セルリアン出現以降、ラッキービーストのフレンズへの不干渉レベルも少し下がっていた。しっかりと話し掛ければ取り合ってくれる個体もあるようだ。



「ん? イワビーさん……料理………パイナップル……そうだ!」


 つなぎはいきなり立ち上がり、野生解放してトキの翼を広げる。


「ちょっ!? つなぎ、どうしたの!」


「イワビーさんを元気付ける方法を思い付きました! ちょっと必要なもの取りに行ってきます、イワビーさんここに連れてきて下さ~い!」


 そういって空の彼方に消えるつなぎ。


 後に残されたアミメキリンは呟く。


「いや連れてきてってどうやって悟られずに連れてくれば良いのよ……」




「なぁなぁアミメキリン、俺に見せたいロックな物ってなんだよ~、いい加減に教えろよ~!」


 数時間後、アミメキリンはイワビーを伴いトロピカル秘密基地に向かっていた。


「も、もうちょっとだから……」


 詳細を知らないアミメキリンは、冷や汗を書きながら彼女を案内する。連れ出す口実は見せたいロックな物がある、だったがかなり無理があると感じてもいた。


「アミメキリンさーん、イワビーさーん、ここですよー」

「あ、着いたわよ!」


 ようやく目的の場所へたどり着く。つなぎが手を振る横には、切り株で出来た椅子と小さな木のテーブルが置かれていた。


「よっ! アミメキリンに、ロックなものを見せて貰えるって言われて来たんだけど、何が始まるんだ?」


 イワビーは辺りをキョロキョロ見回す。この場にはいないが、見るファンがみたら何時もより彼女の元気が無いことに気が付くであろう。こういうとき、もっと身ぶり手振りが大きいのだ。


 つなぎはイワビーに近づき、握手しながら今日の趣向について話す。


「この間のライブ、すっごく面白かったです! そこで、PPPの皆さんに何かしらお返しをしようと思って…… 僕は料理が出来るので、イワビーさんに合う料理を作らせていただきました! ぜひ召し上がって下さい!」


 他のメンバーにも何かしらお返しをしたいが、悩み解決も兼ねてイワビーには料理を振る舞うという事のようだ。


 イワビーの手を離したつなぎは、予め近くに置いておいたのだ、カートの上に。


「今日作った料理は、ハンバーガーです」


 毎度お馴染み料理を運ぶカート&料理に被せるお盆みたいなあれ。つなぎは食材とこれをとしょかんに取りに行ったのだ。いやカートはいらん!


「お! ハンバーガーか! かばんが作ってくれて食ったことあるけど、旨かったな~!」


 イワビーは思い返しながらうんうんと頷く。かばんはゴコクへの出発までの間、色々な料理を作っていたようだ。


「でもハンバーガーがロックなのか?」


 イワビーの疑問ももっともである。普通のハンバーガーがロックだとはあまり思えない。


「ふふふ……それはどうですかね?」


 不適に笑うつなぎ。




「これが今日のメニュー! ハンバーガー・ザ・ロットです!」



 つなぎが蓋を取り料理をお披露目する。そこにはかなりの厚みのハンバーガーがあった。


「ハンバーガー・ザ・ロック?」


 イワビーが聞き返す。


「ロットです! すべての、という意味です。本来はビートも入るんですが……さすがに手に入らなかったので抜いてます」


「ふーん、すべての、ねぇ……」


 改めて目の前のハンバーガーの具材を確認してみる。バンズはセサミバンズ。そこにパティ、ベーコン、チーズ、トマト、オニオン、レタスが挟まれている。

 しかし良く見るとベーコンの上に何か黄色い物が挟まっている。


「ん? ベーコンの上の黄色いのなんだこれ? たまご?」


「それはパイナップルです」 


 つなぎは即答した。


「パイナップル!?」


 パイナップル酢豚を思い出す、平和なバーガーへの突然のパイナップルの乱入。


「いやいやいや無い方が旨いだろ!?」


 イワビーも思わずつっこむが、つなぎは笑みを崩さない。


「大丈夫です、食べてみて下さい」


「いや、でも……」


「食べてぇ!」


「おわ!? いきなりびっくりするだろ! 分かった食べるよ!」


 おそるおそる一口食べるイワビー。


「もぐもぐ…………あれ? 旨い!?」


 パイナップルの甘さが、パティのしょっぱさと調和して予想外の美味しさを産み出していた。


「そうなんです、邪魔かと思うパイナップルが、良い味を出すんですよ!」


 つなぎは小さくガッツポーズをしていた。何だかんだ作った物が美味しいと言って貰えると嬉しいものだ。




「何かこのハンバーガー、オレ達みたいだな……」


 両手でハンバーガーを持ちながら、イワビーは呟く。


「バンズは皆を支えるリーダーのコウテイ、チーズの溶けたパティやベーコンはチームの中心プリンセス、レタスやオニオンは味を整えてくれるしっかり者のジェーン、トマトは、他とは違う存在感を放ちながらも優しく味を包み込むフルル、そしてオレはこのパイナップル……」


 どれかが欠けても勿論美味しいが、たくさん入ってるほど美味しさが増す、それがこのバーガーなのだ。イワビーにはそんな特徴がPPPと重なって見えた。


「勿論このハンバーガーが嫌いだって奴もいるだろうな。でも、嫌いなもんを無理強いするのはロックじゃねぇ」


 イワビーはそう言って一度目を伏せ、もう一度顔を上げる。


「好きだっていってくれるフレンズ、たくさんいるもんな! 世界は自分のファンだけで出来てるわけじゃねえ、でも好きだから続けるんだ! ロックを! そして、アイドルを! そんなオレ達についてきてくれるやつらと一緒に、突っ走ってやるぜー!!」


 そう叫び、がぶりともう一口バーガーにかじりつく。


「んー、うめー!!」


 ハンバーガーを食べ進める度に、少しずつイワビーが纏っていたもやもやした物が消えていく様であった。




 イワビーがハンバーガーを食べている横で、アミメキリンはつなぎの脇をつつきながら彼女に語りかけていた。


「いやー、つなぎもたまにはやるわね! あんな料理出してきたときにはまたやらかしたかと思ったけど、しっかりとメッセージを込めてたのね!」


 笑顔でつなぎを誉めるアミメキリン。しかし、当の彼女はきょとんとした顔であった。


「あのー、アミメキリンさん何のことですか?」


「え? だから料理を使って彼女に心配しなくても良いってメッセージを伝えるなんてさすがだって」


「いや、このバーガーって黄色と赤がイワビーさんっぽくないですか? だからこのハンバーガーをイワビーさんに食べてもらって、その様子をけもったーに上げようかなと思って。ほら、マーゲイさんにカメラ借りてきたんですよ!」


 けもったーとは、みんなに聞いて欲しいことや見てもらいたいものを、各地に設置された大きな木の看板に貼り付けることである

 気に入った掲示物には、横に置いてある朱肉を使って自分の手のスタンプをぺたり。


「イワビーさんこっちみてー\(^^\)」


 つなぎの目論見は、単純にイワビー人気を上げる事であった。何故か本来の目的を達成できてしまったが。


「もぐもぐ……ほっふはへ(ロックだぜ)!」


「良い顔いただきー!」パシャ


「……………………」


 つなぎもイワビーも楽しそうだったので、アミメキリンは考えることを止めた。


「あ、あんまり広めないでね……?」


 サーベルタイガーの願いも虚しく、この写真がバズッてトロピカル秘密基地は秘密でも何でもなくなり、予約の取れない超人気店になってしまう。


 ただ、そうなった後もサーベルタイガーは楽しく、バリバリと料理を作っているらしい。彼女の闘いはここから始まるのだ。




※ハンバーガー・ザ・ロットはオーストラリア発祥のバーガーで、いくつか名称があります。挟んでいるものも色々なので、このお話で作ったものはほんの一例です、あしからず。

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