第29話 キリンは二度溺れる
※真面目回です。何か内容が淡々としてしまって申し訳ないのです……
「がつがつ……やっぱりカレーは辛すぎない方が美味しいのです」
「もぐもぐ……普通に作れば、普通に教えてあげるつもりだったのですよ」
辛さ地獄から脱却した二人は、つなぎに甘口カレーを作り直させてパクついていた。
「ちょっと! なんだかんだ頑張ったんだからさっさと教えなさいよ! ねえ、つなぎもそう思うでしょ?」
同意を求めるが、返事が無い。
「つなぎ?」
「…………zzz」
力尽きていた。
「寝てる…… そういえば徹夜していたんだったわね」
仰向けになり部屋の隅で寝ていた。その手にフライ返しを抱いたまま。最後にカレーをよそって出したはずなのになぜフライ返しが必要だったのだろうか。鍋のコゲとか落とすためならフライ返しは良くない。
「寝かせてあげましょうか」
アミメキリンは肩をすくめてその場を後にしようとする。
「ううん……アミメキリンさんがいない…………」
「……………………」
アミメキリンはマフラーを外して、丸めてつなぎの顔の上にぽんと置いた。
「…………zzz」スヤァ
つなぎは再び安らかな寝息を立て始めた。
「何かトレードマークを簡単に外してますがお前はそれで良いのですか?」
「ええ、予備を作ってあるから」マキマキ
「やべぇ手慣れてるのです……」
コノハちゃんドン引きであった。
「さて、気を取り直して話を戻しますが……最近この島では物騒な事件が増えているのです」
「いくつか我々で対処してきましたがやはり対処法を間違えて被害を出してしまうこともあったのです」
博士と助手はうつ向きながらも失敗した話も含めしっかりと伝える。
「フレンズそれぞれの自衛力を高めようとけもマなどを企画しましたがどうにも上手く行っているとは思えず……」
「そ、そーなのー、大変ねー」
アミメキリンの頭の中に魔法少女マ鹿ル☆ヘラジカが思い浮かんだが何とかかき消した。
ちびレオをかわいくする為にいつか再びあの姿になろうと意気込んでいたが絶対やめたほうがいい。ライオンも真似しそうだし。
「そこで我々は賢いヒト達の行動を参考にしようと思ったのです」
「まずはこちらを見てください」
きらきら輝く剣を携えた鎧の男が、他の鎧の騎士達と共に歩んでいる様子が表紙の本だ。
ぺらりとめくってみたが、中身は文字がびっしりで読むことが出来なかった。
「最初から読めるとは思ってないのです、かばんでも読むのに苦労したので。確かタイトルはオーサー王と円卓の……なんとかシ達です、多分メシ、です。やはり昔から長は人気だったのです!」
オとアの聞き間違いはリスニングにおける難関ポイントだが、聞き間違えるほどネイティブな発音だったのだろう。
「取り合えず中身をかいつまんで説明すると、凄い剣を抜いた人が丸いテーブルでわいわいしながらヤバイ困難に立ち向かう話なのです」
桃太郎を鬼退治の話、と一言で切ってしまうかのようなめちゃくちゃさ。
悲しいかな、ここには全然違うよ!と突っ込める博識サーバルちゃんはいなかった。
「凄い人気の本らしいので書いてあることは正しいはずです。つまり何がいいたいかと言うと…………」
「皆で美味しいご飯を食べればどんな困難も平気だと言うことです! ……剣は要るのですかね?」
そこだけ切り取ると何となく正しい気がするのは詐欺の常套手段。博士と助手は本気なだけに質が悪い。ヒトを騙すには味方から、よりも上を行く本人から、だ。
「円卓でご飯を食べれば、皆で島のピンチに立ち向かおうという気になるはずなのです」
多分中華テーブルを円卓だと勘違いしている。いや円卓ではあるのだが。
「ま、まぁ言いたいことは分かったわ。美味しい物を作らせるために、つなぎを試したの?」
「それもあるのです、つなぎは素直過ぎますが悪いヒトではないのです」
「ヒトが凄いのは知っていますが、としょかんの本の解析を進めるに連れ、その恐ろしさも浮き彫りになってきました。なので無条件には信用しません、我々は賢いので」
彼女達が島のフレンズを守るために尽力していることは、アミメキリンにも伝わった。
けもマも含め、彼女達の行いが島を豊かにしている側面があるのは確かである。
「協力するのは吝かではないわ。でも私だけの意見では決められないし、それに……」
それに、つなぎに関する情報も気になる。
「私達が旅してきた中であった話を伝えるわ、その後つなぎを起こしてくるから、協力する前に情報とやらを先に聞かせてちょうだい」
そうして小一時間ほど今まであったことを博士と助手に話し、眠るつなぎを起こしに行く。
「Zzz……マフ……うま……」
そこではつなぎが眠りながらマフラーをはむはむと口に入れていた。
チョップで起こした。
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遠く離れてじゃんぐるちほー、今日もジャガーは川を行く。たったひとつの船で渡して乗せる。ジャガーンがやらなきゃだれがやる。コツメカワウソが代わりを……やらない。
「あれ?」
泳いでいった先、あんいんばしの柱の上にフレンズが立っている。
「迷った…………しんりんちほーはここか? 木がいっぱいあるから見分けがつかない…………」
橋の上に立つフレンズは呟いた。
キョウシュウは木がたくさん生えているちほーが多く、見た目だけでは中々何処にいるか判断しづらい。
熱帯雨林と普通の森はまだわかるが、しんりんちほーとみずべちほーとか割りと似ている為、PPPがいるかいないかの違いではないのかと思ってしまうほどだ。
「おーい、そんなところにいると危ないぞー!」
ジャガーの問いかけにそのフレンズは振り向いた。
三股の槍と鹿の様な大きな角、服の袖はキイロト茶色のキリン柄、そして何より、額に3つ目の眼を持つ特徴的な姿をしていた。あと左手に持ってる奴は何か良く分からん。
「すまない、迷ってしまった…… しんりんちほーとやらは、ここで良いのだろうか?」
「ええーと、大分違うかな…… としょかんに行くの?」
「いいや、しんりんちほーに向かった、こう言うものを探しているのだ」
彼女が懐から出した紙は…………水に濡れたのか黄色と茶色でぐちゃぐちゃだった。
「あー、何となくわかったよ、アミメキリンを探しているんだね」
「何! 私の心を読んだのか!?」
驚きで第三の眼がある辺りをさわさわする。
「んー、何となく貴女とあの子の雰囲気似てるからね」
「なるほど、私は……むっ!?」
言葉を区切り、突如ジャンプする。その直後、川の中から突如セルリアンが現れ、橋にかぶりついた。
「このサイズがいきなり現れるなんて……ああっ! 橋が!」
かばん達と協力して作り上げたこの橋はジャガーにとって、もう思い入れの強いものになっていた。
その橋が壊されることにどうしても焦りを感じてしまう。ただ目の前にいるのは水中でひとりで相手するには厳しい大きさのセルリアン。
だが、ジャガーの目の前のフレンズはただ者ではなかった。
「ふん!!」
飛び上がった勢いで槍を叩きつける。それだけで、セルリアンを撃退してしまった。
「すっごーい……」
言葉が思わず口からこぼれるジャガー(サ並感)
「自己紹介が遅れてしまった。我が名はシヴァテリウム。あのお方より“武“の力を分け与えられた者。今の私に、迷いはない…… 全て切り払い打ち崩す者なり!」
その口上と共に、立っていたあんいんばしの柱がバキリと折れた。セルリアンの一撃に更にシヴァテリウムの攻撃が加わったことで耐久の限界を突破してしまったのだ。流石は全て切り払い打ち崩す者である。
「ブクブクブク……」
「ええ泳げないのぉ!?」
沈み行くシヴァテリウム。ジャガーはとことん自分はキリン救助に縁があると思いながら、彼女を岸まで引き上げたのであった。
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