じゃんぐるちほー つながる邂逅

第1話 はじまりの謎

 僕は絶対にあの子を守ると決めた。

 それなのにもう足は進まない、手は動かない。

 黒い海に飲まれて意識は闇に沈んでいく。自分の中の大切な何かが溶け出していく。


 ──やがて、僕は、死んだ。




 鬱蒼と茂る木々に強い日差し。

 ジャパリパークのじゃんぐるちほー。

 そこに流れる大きな川のほとりを、アミメキリンは歩いていた。


 普段ろっじを縄張りとしている彼女だが、尊敬するタイリクオオカミにとしょかんまで漫画の原稿を届けて欲しいと頼まれ、向かっている最中である。


 じゃんぐるちほー経由だと遠回りなのだが、いつもと違う道を行けばじけんに出会える、との考えであえてこちらに来ているのだ。


「お、おかしいわね…… 名探偵であるこのアミメキリンが道に迷うはずが無いわ……」


 絶賛迷子中であったが。


「冷静になるのよ私!」


 顎に手を当て、打開案を考える。いくら川沿いとは言えじゃんぐるは見通しが悪く、迂闊に動いたらさらに迷ってしまう。そんな中彼女が導きだした答えは


「……よし! 誰かに道を聞いてみましょう。ついでに何かじけんが起きてないかリサーチね! こうして道に迷ったのも、名探偵をじけんが呼んでいるからに違いないわ!」


 困ったら他のフレンズに聞くんだよ、とは尊敬するオオカミ先生より出発時に賜ったアドバイス。

 くるっと振り返り元来た道をダッシュ。彼女はいつも、じけん探しに全力なのだ。


 ただ、当然……



 ズルッ!


 「あっ!?」


 泥々の川のほとりを全力で走れば、転んでしまうのは自明の理であった。

 


「あーあ、泥々になっちゃった……ぐすん」

 

 スカートの裾を指でつまみ、泥で汚れた箇所を再確認する。

 さすがにふんだりけったりで堪えたのか、少し涙が出てきてしまった。


 思えばここに来るまでも随分苦労してきた。

 ゆうえんちではアトラクションが壊れその下敷きになってしまい、さばんなではいきなり出てきたカバに腰を抜かしひっくり返って頭を石にぶつけ、じゃんぐる入り口ではセルリアンに追いかけ回され道を見失う始末。


「泣いちゃだめ…… 立つのよ私!」


 でもくじけない、立ち直りが早いのが彼女の良いところである。


「取り敢えずこの泥を川で落としちゃいましょう」


 漫画の原稿を置き、川で体や顔についた泥を落とす。暑いじゃんぐるを歩いて来た体がさっぱりとして気持ちが良い。

 ざぱっと川から顔をあげ、一息つき辺りを見渡すと、こちらに向かって流れてくる何かが見えた。



「何かしらあれ……」


 ある程度の大きさがあるが、流木ではないようだ。しかし、そうなるとあまり大きいものは滅多に流れて来ないため、何だろうかと考え込んでしまう。


 少し近づいてきたため目を凝らして見ると、それは濃い青い色をしていて、手と足が付いているように見えた。


「…………って、フレンズじゃない! これはだいじけんだわ!」 


 ぴくりとも動かないそのフレンズ。これは一大事だとアミメキリンは大慌て。フレンズは身体能力が高いため、意識を失うことは滅多にない。なのに動かないということは、相当流されてきたはずなのだ。


「とにかく見過ごす訳にはいかないわ!」


 アミメキリンは急いでそのフレンズに向かって泳ぐ。

 実は、キリンはちゃんと泳ぐことが出来る。フレンズになった彼女もカナヅチでは無かった。犬かきの様に手と足を動かし、川の中腹へと向かう。

 しかし、泳いでもフレンズの元に辿り着けないどころか、どんどん流されてしまう。


(や、ヤバイわ。結構流れがはや……)


 そう思った瞬間、さらに流れが速くなる。姿勢が保てず、川の流れにもみくちゃにされる。


「た、助け……お、溺れる! ごぼぼぼぼ……」


 悲痛な叫びも虚しく消え、彼女とそのフレンズは仲良く川の流れに飲み込まれていくのであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る