序章
「取扱説明書。」
俺は「人生」というクソゲーを攻略した。
このゲームをスタートするとあらゆる設定が無作為に決まる。
このルールがチートになりハンデにもなる。
なんて理不尽なのだろうか。
「購入した覚えが無ければ、ダウンロードした覚えも無い。」
そう、誰一人と始める事を望んでいないゲームなのである。
ーー それが「生。」
一般的にはセーブデータが有り自由に好きな所からやり直せる。
ゲームオーバーになると「コンティニュゥー〜!」なんて言って生き返ったり、かっこつけて縛りプレイなんていうマゾスティックな人間もいる。
装備が欲しけりゃ課金すればいい、ガチャを回したきゃ課金すればいい、財力がありゃその世界では最強ゲーマーかもしれない。
残念ながらこの世界では、世界No. 1プレイヤーになる事は不可能。
「課金出来無ければ、過去に戻ってやり直しなんて出来無い。」
こんな残酷なゲームだがちゃんとゴール地点は用意されている。
但し
「どう足掻いても最終的には記憶ごと終焉を迎える。」
現在では如何様すらする余地なし。
ーー それが「死。」
クリア or ゲームオーバー
判断基準は己自身。
【絶対無課金性強制的ノーコンティニューリアルゲーム】
ーー それが「人生。」
俺がわかるゲーム内容はこんな感じだ。
敢えて説明した上で問いたい。
「人生って何がどうなったら攻略なの?」
この俺が個人的な見解を発表しよう、是非付き合って欲しい。
では発表します!
その前に簡潔な自己紹介を。いきなり鬱陶しいなんて思わないでくれ。
名前は「
以後お見知り置きを。
それでは気を取り直して。
もし「待ってました!そこまでいうならきっとすごい秘密を隠しているに違いない」なんて思ってる人もいるかも知れないが、至って誰しも考えることである。
それは勿論……
「『願い事が叶う事』だよなぁ!?!?」
今にも「そんなの分かっている」から始まる罵詈雑言で誹謗中傷されそうだが、まぁそう怒らないで欲しい。
始めに「攻略した」と宣言した。
正直客観的に捉えても、にわかには信じ難いが。
自分の「願い事」を考えてみて欲しい。
・異世界行きたいでふ。
・好きな二次元キャラと戯れたいでごわす。
・魔法とか超能力とか使ってみたいぴょん。
例に出したようなファンタスティックな事が頑張り次第でどうにかなるとしたら。「五感で感じたい夢が全て叶う」世界が現実世界に有るとしたら。実は気付いていないだけでそんな想い通りになる夢のような世界、行き来してるかも知れませんよ?
ー 興味ありますか?
もし、町内会の一大イベントとして「妄想力コンテスト」という大会が存在するならば優勝できる自信がある。恐らく右に出る者はいないであろう。
俺しか参加しない可能性も無きにしも非ずなのだが。
「年に一度の外出記念日になるんだけどなぁ。」
聞いて解る通り、引きこもりなのである。しかし、ただの引きこもりではない。
「妄想力を拗らせてしまったヒッキーニートだ!」
彼女は出来た事ないし友達もいない。恐らく一人暮らしだったら既にバッドエンドを迎えていたと思う。こんな捻くれ者の俺を支えてくれたのは弟。それはもう温良優順で。
「コンコン」とドアをノックする音が響く。噂をすればなんとやら。
「愁、起きてる?ご飯できたよ。一緒に食べよう。」
この声は紛れも無く弟。一聞、女性かと疑うような声をしている。名前は「
「はいよー、今行く。」
「早くしてね。冷めちゃうから。」
そう言うと瑞月は食卓へ。
珍しく急かしてきた。ということは俺の好きなパンプキンシチューに違いない!俺も食卓へと移動した。
テーブルの上には綺麗に盛り付けされた料理が置かれていた。パンプキンシチュー、サンドウィッチにサーモンのムニエル。全て瑞月一人で調理している。最近の18歳はレベルが高すぎる。三つも歳下なのにこうも出来が違うとは。
「やっぱり!最近作らないなーって思ってたんだよー。」
そう言ってイスに座る。
「早く来ると思って。最近、降りてくるの遅いから。温かいの食べて欲しいし。」
「なんて優しいんだ」と思いながら先に座って待っていた瑞月と目を合わす。一見、兄の俺ですら美少女かと錯覚してしまいそうな顔立ちをしている。ヘアスタイルも長めのボブで黒髪×ピンクメッシュ。容姿は華奢で可憐だが意外と凛々しい所もあったりする。可愛いのが好きでスカートを着用することもあるが「ちゃんと女の子が好き。好みの洋服を着ているだけなのに偏見を持って接する人もいて憂鬱になる。」と主張している。実際、とても似合ってるから俺は許容している。
「いただきまーす。」
早速シチューを一口。
「んー!美味しい!瑞月の作るシチューは最高だ。」
「いただきます。」
食事中の会話は原則厳禁。
「んだもんなっ!瑞月!」
「ん?愁、行儀悪いよ。ほら、布巾、ちゃんと拭いて。」
お母さんなのか!?母性を感じる弟ってこの世に存在するんだな。そして、このように一言注意されてしまう。ごもっともだ。
2人してあっという間に完食。
お風呂からあがると自分の部屋で瞑想する。大体1時間くらい経った頃に瑞月が来る。お互い暇になると寝るまで一緒に居るのが習慣だ。寝室は別々なので一緒に寝る事はまずない。
「愁、なんかしよ。」
部屋に入るといつもこう言って目の前にちょこんと正座する。
「うーんと、そうだな。」
「最近話題のVRのゲームしてみたい、
いきなりそう言ってスマホをタップするジェスチャーをする。
巷で徐々に注目を浴びている「仮想的な世界」を現実のように体験出来るゲームの事だ。「ヴァーチャルリアリティ」の略だとか。
「あー、あれなぁ。」
「
「いや、ショップじゃなくて。現時点だと触れたつもりで感触ないんでしょ?」
「わかんない。」
「もう少しクオリティアップしてからでいいんじゃない?」
「物は試しだよ。」
「思ってたのと違ってあんまりやらないかもしれないし。そうなると無駄な買い物になるんだよなぁ。」
「そうだけど。」
瑞月が少し膨れた。
「お金はあるからたまには我がまま聞いてくれると思ったのに。」
お金の話題が出てしまったので説明しない訳にもいかない。ニートとは言ったがお金がないと生活していけない。両親は去年の結婚記念日に旅行でグアムに、行くつもりだったが乗っていた飛行機が墜落してしまい帰らぬ人に。そして数百万円の遺産を相続する事になった。その後、瑞月と色々相談しあって遺産を使い投資する事に。ネットで情報収集し何度も失敗し、それでも何とか資産を増やす事が出来、今がある。管理も俺がしている。
「そういや、こないだ興味深い記事を読んだんだよ。」
「何?」
「それじゃあ質問です、瑞月はどうしてゲームしたいんですか?」
「RPGの世界とか憧れないの?魔法使ってみたり。それに空も飛べたり。」
「そりゃ憧れるよ。憧れるからこそ色々調べた。その中で見つけた記事なんだよ。」
「内容は?」
「単刀直入に言うとこの現実世界にいながら魔法を使ったり空を飛んだり、そんな事が出来るかもしれないよっていう内容さ。それにVRの様なゲーム機は必要ない。」
「ふーん。」
「あんまり興味ないよな。今日、一緒に寝よう。」
「何、突然。」
ちょっと引かれてしまったか?
「今日だけだから。大丈夫、別に何もしないよ。」
「うん、別に今日だけなら良いよ。」
頭の上に「はてな」が浮かんでいたが承諾してくれた。
「そういや今日、ドラムの練習してたよね、手足が別々の動きするなんて理解出来ないよ。」
「たまに、物凄く、無性に叩きたくなることってない?」
「瑞月は結構ドSなんだな。」
「違う。ドラムを叩きたくなるって意味。」
「そんな事なんてある訳ないだろー?アンチじゃあるまいし。」
「それじゃあ瑞月が性格悪いって事?」
瑞月はそう言って立ち上がり、ベッドに入った。
やばい怒らせたかもしれない。喧嘩になったら飯無しになってしまう!
「瑞月、ごめん冗談だよー?怒ってるのかー?」
「怒ってない。気にしないで。そんな簡単に愁の事嫌いにならない。」
悟られてしまった。
「もう寝るのかー?」
「久しぶりのドラムと家事で疲れた、眠い。」
こりゃあチャンスだ。
「それじゃあ電気消して俺も寝るからなー。」
そう言って消灯し布団に入り、瑞月と並んだ。瑞月は俺と反対の方向を向いている。
「瑞月?起きてるか?」
数十分経ってから声を掛けると瑞月が体ごと振り返った。
「ん?」
「気持ち良い所、起こしてすまないな。ちょっと前の話覚えてるか?記事の話。」
「うん。」
「実はな今日、瑞月が空想の世界に行けるチャンスなんだよ。」
「うん。」
「天井を見て胸に手を当てて、ゆっくり深呼吸するんだ。」
「……。」
「夢を見た事ってあると思うんだけれど、その夢の中で『これは夢だ』って気付いた事はあるか?」
「たまに。」
「実はその夢の事を『
「うん。」
「つまりその状態であんな事やそんな事を想像するとその場で『ありえない現象』が起きるんだよ。」
「うん。」
「何故チャンスかって体が疲れているとその状態になりやすいんだ。因みに俺は何度も体験してるから嘘じゃない。」
「どうすればいいの?」
「やっと食いついたか。眠いのを我慢してギリギリの意識を保ちながら色々と妄想するんだ。……例えば綺麗なお花畑とか。」
「……。」
「瑞月?」
寝たー!?早すぎる!
まぁ、疲れてたみたいだししょうがないか。
さて俺は妄想世界に今夜も浸るとしますか!
- お花畑で可愛い女の子とまったり日向ぼっこしてぇよー!
「起きて。」
そう聞こえると頬を「ぺちぺち」される。
「ん?なんだ?」
ー 可愛い子ちゃんかな?
少し期待して目を開けると瑞月の顔があった。
「ここ何処?」
「いや、何処って、家じゃ。」
そう言いながら辺りを見渡すと綺麗なお花畑が広がっていた。思わず立ち上がってしまった。
「と言う事はまさか。」
そう言うと瑞月も立ち上がった。
「恐らく夢の中だろう、にしても二人して同じ場所に居るとは。どう言う事だ?」
「何言ってるのかわからない。」
「俺が一番わからないよ。瑞月、このお花畑想像したのか?」
「うん。愁の言う通りにした。」
「どういう訳か夢の中で共存してるっぽい?こんな事ってあるんだな。」
急に後方から「ガサガサ」と音がする。
「なんだ?」
振り向いて音の先を確認していると「ヴォンッ!」という風切音と背中をなぞるのを感じた。
ー 痛い。
腰を触ってみると服が破れており肌から液体が滴っている。指先を確認するとそこには血がついていた。慌てて振り返るとそこには瑞月が立っており、腹部からは滝のように血液が流れ出ていた。一気に着ていた洋服を紅色に染め上げて。
ドクドクドクと鼓動が早まり胸が痛くなる。
「瑞月?」
声帯にあまり力が入らなく声が震える。血の気が引き、鳥肌が立ち、胃の中がキューと重くなりムカムカしだす。足が震えながらも瑞月に駆け寄り肩を揺らす。
「バタッ!」上半身がお花畑に身を託す。
同時に
「ビシャッ!」顔面に血液が飛散る。
物凄い鉄の香りが宙を舞う。食道の奥から酸っぱくて苦くて臭い物が這い上がってくるのを感じる。その瞬間、喉を通って口から吐き出た。
「オエッ、ゲフンゲフン。」
頭が痛くなり視界がクラクラし始める。全身が脱力し倒れそうになる。
ー 大丈夫、これは夢だ。早く目を覚まそう。
そう心に言い聞かせたのも束の間。
どうやっても目を覚ます事が出来ない。瞬きを繰り返してもそこには瑞月の下半身が内部からソーセージの様なもの垂れ下げ立っている。
「一体どうなってるんだ。」
そう呟いた。
途端に「誰か背後にいる。」そう思って振り返る。
そこには冷徹な眼差しをした美少女が目の前に立っていた。
「ッ!」
激痛だ。猛烈な痛みを腹部から感じる。視界が更にボヤけ彩度が落ちていく。マリオネットのようになった首を強引に動かし視線を下へと移した。そこにはクリスタルのように光ったソードが体を貫通していた。
ー なんて酷い「悪夢」なんだ。
目の前が暗黒に染まる。
そのまま意識がシャットダウンした。
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