癖と教師と生徒と常と

日向彼方

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性癖。本来この言葉は人間それぞれが持つ性質、性格等を指すそうな。


しかしこの日本、もとい海を隔てた別文化とは隔離され、独自発展を遂げたHENTAI国家では現在、性的趣向という意味を指すことが多い。


その中でも特に世間一般から外れ、アブノーマルとされる性癖。それらを『異常性癖パラフィリア』と呼ぶ。


そしてその"世間一般"の道から外れてしまった者。それは青春真っ只中、健全に異性と恋愛をするべきであろう高校生男女とて、少なくはない。



少なくはないという認識は一応持っていた──────つもりだったのだが。




「いやこの数と濃さはおかしいでしょ!?」



癖と教師と生徒と常と


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「辺戸先生、あの、ちょ、あんなの聞いてないんですけど!?どういうことすか!!??」


転勤初日、放課後の職員室。自分達以外にも仕事をしている先生は多く居る。にも関わらず大声を出してしまった事に気付き、肩を竦める。


「あら、どうかしましたか異条先生」


何か変なことでも?と言いたげである。首を傾げるクールビューティ女教師、と言えば聞こえはいいが。


「いやどうかしましたかじゃないですよ…」


生憎自分は年上趣味じゃないし、じゃなかった、このクラスのこの現状を知っていてこの落ち着きなのかこの人は?


「なんですかあの…あのええと…い、異常性癖?を抱えた生徒の数…」


「因みにクラス全員ですよ。とりあえず座っててください」


辺戸先生はミルクと砂糖は要りますかと続け、珈琲を淹れ始めた。


「ぜっ……全員…!?」


全身の力が抜け、へたりと事務椅子に腰が落ちる。


溜息を吐き、このような言い方はしたくはないのですが、と前置きして。辺戸先生の顔がぐいっと近付き、口を開いた。


「…言ったじゃないですか、『変わった子』が多い、と。それとも何ですか?教師の癖に子どもたちが普通とは違えば嫌悪感を抱くことしか出来ないんですか?あなたは教育者としての覚悟、使命…何も分からずにここまで来たのですか?何のために…何のために教師になったのですか?」


「そ、」


そんなことはあるはずがない、とでも言いかけたのだろうか自分は。


あの教室の生徒達を見て少しでも、こんなの普通ではない、怖い、この子達はおかしい。そう思ったのは他の誰でもなく自分である。覚悟が無かったのは自分である。そしてこれからどう付き合っていけばよいか、どういう教育をしたらよいか、分からなかったのも自分である。


返す言葉が無い、いや自分に、今の自分に言葉を返す権利は無い。


「…すみません、強く言い過ぎでした。」


力無く頭を垂れる自分を見、辺戸先生は言った。


「いや、先生が言っていることは正しいです、自分は…………俺は」


どうすれば。


「これから──これから、学べばいいんです。あの教室で、あの生徒達と。」


初対面から今まで、ずっと硬い表情だった辺戸先生の顔が優しく微笑む。ああなんだ、こんなに可愛い顔もできるのか、もっと笑うようにしたらいいのに、そうゆっくりと考えたりした。


その優しい顔を崩すことなく、辺戸先生が言うまでは。


「あ、そうだ今のうちに言っておきますね。私、生粋の小児性愛者ペドフィリアなんで」


ペドフィリア──────その意味を脳で正しく理解した瞬間、目の前が真っ暗になった…所までは憶えている。

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