まびき世界

やましん(テンパー)

  『まびき』世界

 とても大きな、人口爆発があった国もありますが、何より問題だったのは、地球環境の異常で、急速な悪化でした。


 おかげで、地球上すべての地域に、深刻な食糧不足が生じました。

 

 そこで《世界政府》は、やむ負えない選択をしたのです。


『人類存続のための人口管理特別措置』

 別名「公的まびき」であります。


 とはいえ、誰でもかれでも、無選別にまびくわけにもゆかないということで、これには実際のところ、いくらかの、秘密作戦も用意されておりました。


 各国政府には、非公開の委員会が立ち上げられ、自治体や警察機関、企業などから上がって来る「まびかれては困る」ひとの「個人や団体番号」が報告されていました。


 当時すでに全世界の個人や団体には、特定の番号が与えられておりましたから、このこと自体は、そう難しい事ではありません。

 出生と同時に、体内に小さなチップが埋め込まれているので、その個人がどこにいるのかは、すぐにわかります。

 しかし、この『特定人物・団体』に挙げられて報告されたから絶対安全、というわけでもありませんでしたし、挙げられなかったからすぐ危険、というものでもありません。


 最終的に決めるのは、世界政府が管理する、超スーパーコンピューター《未来》でしたから。

 《未来》は、完璧な【A・I】なので、人間の情報を参考にはしますが、それは指示という概念ではなく、あくまで最終的には自分で判断をして、誰を今日処分するかを決めていました。

 しかし、《未来》は、独裁者ではありません。

 人間側からの、《防御〉も、認めていました。


 そこで、その地域の毎朝午前6時に、各国ごとに《本日の判断基礎番号》を発表していました。

 それは、本日処理する予定の個人や団体番号が、どこの《群れ》にあるかを、ヒントとして発表するものです。


 人々はそれを見て、聞いて、今日は自分の属する《群れ》がそこにあれば、当たる可能性が高いと判断します。

 もっとも、《群れ》とは関係なく選別される領域も、平均15%程度はあり、状況によってはそこがかなり、高くなることもありました。

 たとえば、大雪や大地震などの自然条件などによって、その地域への食料搬入が滞っている場合などです。


 実際地球は、非常に気ままになっておりました。

 ゲリラ嵐や、ゲリラ暴風雨、超大寒波や超大熱波、さらにゲリラ地震などは(地震はゲリラであることが多いのは、まあいたしかたないのですが・・・)、しょっちゅうだったのです。


 これらの多くは、地震は別ですが、21世紀人類が残した大きな負の遺産が原因でした。


 で、まあ、ぼくたちにも、『自己防衛』する権利が、あったわけなのです。


 どこの町にも、『空中制御装置』が数多く飛んでいました。

 地下街にも、もちろん沢山います。

 ものすごい速度で移動します。

 そうして、目標の人間を確認すると、強力なレーザービームで、霧にしてしまいます。

 そうすると、霧になった人の番号は、自治体や各家庭に通知されます。

 そのあと、どうするかは、個人の財力や自治体やコミュニティーの判断です。

 しかし、大抵は『互助会』があるので、それなりに簡単なお葬式が行われるケースが多いようでした。


 で、この『空中制御器』が攻撃してきた時は、反撃して破壊しても構わないとされていました。

 しかし、これは、よほどの名人でないと、実際には、まず不可能なのです。


 また、攻撃して来るのは、『空中制御機』だけではありません。

 人類には、みなチップが埋め込まれているので、《未来》が指示を出せば、誰でもすぐに《殺し屋》になります。


 そうして、対象者を殺害するのですが、これは正当な『公務』とみなされるので、罪にはなりません。

 また、《殺し屋》が襲ってきた時には、反撃してかまわないし、殺してしまっても、正当防衛とされ、これも罪にはなりません。


 まあ、攻撃の仕方は様々で、レストランの食事に毒が入ることもあれば、ビルの上から何かが落ちてきたりもします。


 そこで、すべての攻撃を自分ひとりで防ぐことは無理なので、当然、助っ人が必要になるのです。


 このため、『防御専門業者』が、世界中に沢山出来ておりました。

 これらの会社や個人は、登録制で正規の免許を得て営業していました。

 どこを選ぶかは、勿論、個人の自由です。


 そこで、各社の宣伝合戦が繰り広げられていましたし、一匹オオカミの《カリスマ》も多数存在していました。

 非常に危険な職業ですが、稼ぎはとても良かったのです。

 彼や彼女らは『用心棒』と呼ばれておりました。


 で、ある日の朝、僕はいつものようにテレビをかけて、歯磨きしていました。


《本日の、対象群れ番号です。国番号は省略です。AA-001、AK-230、BJ-329、GH-567、JB-105、・・・LM-721、・・・・・・・・・OP-200・・・」

「おわ、今日はあたりですよ、これは危ないな。さっそく、頼もうか、いつものとこでいいか。」


 『用心棒』にも、ランクがあります。

 市役所が運営している公共機関だと、とても安いのですが、あまり効果は期待できません。

 応対成功率は(つまり防いでくれる確率)はぜいぜい20%程度です。

 ぼくのが依頼する会社は、わりと格安なのに、成功率が高く、85%にも達していました。

 

 依頼は簡単です。携帯端末から入力するだけ。

 料金は引き落としですから、手間いらず。


『お引き受けいたしました。毎度ありがとうございます。ただいまから10分後より、警護に入ります。』


 家の中だから絶対安心とは言えませんが、色々と問題が発生するので、あまり個人の部屋の中で『まびき』を実行することはありません。

 

 そこで、10分後、ぼくは家から出ました。


 通りに出たとたんに、すれ違った女性が、ぱっと消えました。


 向こうに、イタリアンな帽子を被った人が立っていました。

「あぶなかったな。レーザーの向きを変更させた。まあ、気を付けな。はい、警報ブザーね。」

「ども。」

 このように、通りすがりの方が、巻き添えで消されてしまう事もあり得ます。

 まあ、《未来》にとっては、同じ効果を得たわけですが。


 地下電車はかえって危ないので、今日は見通しがきくバスにしました。

 空いているのです。

 しかし、ここも危険でした。

 向かい側にやってきたおばあさんが、突然倒れ込んできました。

 

 そこを、若い女性が遮って、横からおばあさんを突き飛ばしました。

 おばあさんの手には、ナイフが握られていました。

 ただし、一度失敗すると、特に老人の場合は、《未来》の指示は解除されることが多いようなのです。

 そこで、どうやら、このおばあさんは、それでお役目終了になったようでした。

「気を付けて。」

 その助けてくれた女性も、エージェント《用心棒》だったようです。

 この方たちは、いつも、ただひとりだけを防御しているわけではなく、グループで、その範囲内の依頼者を、交代で警護していました。


 まあ、こうした様子なので、ぼくもいつ《殺し屋》になるかはわかりません。

 記憶は残らないようなので、過去どうだったのかも、わかりませんけれども。


 出社時の攻撃は、この二回だけでした。

 しかし、深夜12時までは、今日は非常に危険です。


 午前中は、とても仕事が忙しくて、気にしている間さえない感じでしたが、昼食に頼んだお弁当のふりかけに、警報ブザーが反応しました。

《毒物検出!》

 これが、今日二回目です。


 一回目は、朝のプレゼンで出されたコーヒーでした。


 午後は、もっと大事がありました。

 出張先の会社のビルが、一部爆破されたのです。

 でも、これもまあ、わりあい、良くあります。

 爆破の前、誰かが僕に手を振って手招きしたので、そこに向かったら、反対側で《爆発》が起こりました。


 結構、ばらならと色んなものが飛んできましたが・・・。

「やあ、ちょっと危なかったか。爆弾かかえた郵便屋さんが来たんだ。まあ、気を付けてな・・・」

 今朝のイタリアンな帽子のおじさんです。


 17時30分退社。


 帰りはどうしようと思いつつ、なんとなく目の前に来たバスは危ないと直感したので、やめて乗り合いタクシーにしようとしました。

 これは正解だったらしく、そのバスは、発車してすぐ、ぼくの見ている前で爆破されました。


 しかし、世の中そう甘くなく、こんどは例の《空中制御器》が、急に乗っていたタクシーの窓の横に降りてきました。

「おわわ、こりゃあ駄目か!」

 と思いましたが、誰かが後方から射撃してきたようで、《空中制御器》は、煙を上げて地面に墜落してゆきました。

 バイクに乗った誰かが、手を振りながら通り過ぎました。


 ようやく帰宅です。


 シャワーをして・・・・・・


 インスタントラーメンと、イワシの佃煮で夕食。

 それと、会社支給の栄養サプリ一個。

 まあ、これで一日は持つのですが、それだけじゃあ寂しいですよね。


 夜10時、彼女が来ました。

「今日は大変だったよ、当たり日だったから。」

「まあ、そうなんだ。じゃあ、ゆっくり休ませてあげるわ・・・」



 ここから先は、他所様はご遠慮くださいませ。



 翌朝、起きて見たら、彼女は死んでいました。


 メモが置いてありました。


《ハロー、こやつ、あんたを撃ち殺そうとしたので、処分した。午後11時59分、まいどどうも、次回もよろしく。なお、『夜間室内処分証明』を置いておきますので、請求されたら、警察にご提出くださいませ。(請求がなければ提出の必要ありません)警報機は回収いたしました。どうも。》


 ぼくは、立ち尽くしました。


「どうしよう・・・・・。」

 

 *********************************



 で、ぼくはいま、文字通り、地下に潜っています。

 チップは、なんとか除去しました。


 当然、お尋ね者です。













 











 








 

 




 























 

















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