わがままショート、ショート。3

村上 K

第7話 ミクロの世界

 窓の外は、暗いがまだ空気があるらしい。

ライトに照らされて、うごめく壁をみながらエイ君は言った。


「先生! 今、ぼくたちが進んでいる所は、どこらへんですか?」

「今いるところは、胃の中だよ」

 我々が乗っているカプセルは、ゆっくりと飛行しながら

「ボチャン!」 と、液体の中へ入っていく。

はじめての世界だ。

子供たちは、興味しんしんである。

一方ビー君はカメラでパチパチ何かをとりながら、夢中でノートにメモを取っている。

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のっぽのエイ君がまた言った。

「先生。今、な・何かが横こぎったような気がしますが、あれはなんでしょうか?」

「あぁ、たぶんあれは、ピロリ菌だろう。」

ピロリ菌は、スクリューのように尾っぽのようなものを回しながら移動しているのだ。体は小さいが、動体視力が優れているビー君が、言った。

「えぇ! あのプロペラのお化け、みたいなのがですか?」

「よく、観察できているねぇ。ピロリ菌は、時速200キロで進むらしいからね。

そろそろ出くわすと思ったよ。」


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「でも先生。先ほどからかなりいるみたいです。キモチ悪いよ~。」と、言いながらもエイ君は、双眼鏡を取り出して数を数えだしていた。

エイ君とビー君は、かなり優秀だがまだ小学生だ。

いくら技術が進んでいるとはいえ、人の体内は生々しいだろう。

そこが、この授業のだいじな体験の一つなのだが、さすがに等身大のピロリ菌が、目の前に貼りついたときは、怯えが顔に見えていた。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。このカプセルは胃液にも、ピロリ菌の毒素にも、溶けないようになってるからね。安心してくれたまえ」

そこでエイ君が、ホッとしてか言った。


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「先生。ぼく、理科の授業は正直こわいです。だって、ピロリの顔が怒ってます」

「だいじょうぶ。最初はみんな、そう言うんだ。しかしあれが、普通なんだよ」

するとビー君が、明るく言った。

「先生! ぼく、あれを一匹飼いたいです。あかんべ―してるんだもん!」

ビー君は、どうやら好奇心もおうせいのようだ。頼もしい・・・。

しかし、まだまだ先は長いのだ、安心させてやらねばならない。

「だいじょうぶ。もう、何個か飼っているかもしれないよ。君のお腹のな・か・で・・・。」

                                                           おわり

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