金木犀
空海零
第1話
金木犀の季節に出会ったその人は、残り香だけを残して去っていった。
短くて甘い恋だった。
金木犀の様な人だった。
どこまでも甘く、忘れられない人だった。
「……圭さん」
あの人の名前を呼んだ。
もう二度と会えないのであろう人のことを。
あの日のことを思いだす。
甘い香りがした日のことを。
振り返った瞬間のことを。
目を閉じる。
散ってしまった、金木犀の香りがした。
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